第3話 生命を創る
平屋の庭の中央に私は立ち、周りには緑の生垣が生え、黄色いスイセンの小さな花畑が周りを囲んでいた。
私は手のひらに乗せた立方体を
まずは、顔から作ることにした。
四角形から六角形さらに八角形と次第に割りを増やして、おおまかでカクカクした人の顔にしていく。
そして、鼻にあたる部分を押し出し、顎のラインを押し込んで成形していく。
指で触れた部分が分割され、つまんだ点が動かせる。
眼球にあたる球体を配置し球体にそってまぶたを上下に切り分け眼ができてきた。
さらには口にあたる部分を上下に切り離し唇を作った。
生前のPCモニターを通したマウスでの操作よりも、自分の手を使う分だけ直感的で制作はスムーズに進んでいった。
しかし、手を使って直接触れて造形をしていく操作性なら
思いついた瞬間に自分の手の作用が変わり、手のひらで粘土を押し固めていくようなモデリングに移行した。
(なんか……凪の顔を撫でまわしてるみたいで恥ずかしいな)
そんな羞恥心を感じながらも
間髪入れずに頭から首を伸ばし、肩を広げ胸まで伸ばした。さらに腹部まで伸ばして、股で枝分かれさせた。
そして、肩から腕を伸ばして手のひらを作り、指を伸ばしていってあっという間に人体が出来上がった。細かい部分は後で詰めるとしても生前では考えられなかった制作速度に思わずにやけてしまう。
「ふぅ……」
縁側に腰を下ろして一息いたが、服も髪の毛もない初期ポーズで微動だにしない凪を見てなんだか、罪悪感にかられすぐに作業を再開してしまった。
でも、無理はしていない。今度こそ過労死なんてできない。
(着物……着させてあげよ)
まだ、
形ができた瞬間から、物理演算が有効になり実物の着物のように凪の身体にそって垂れ下がり、自然なしわを作った。
(凪が完成したら、私の着物も欲しいかも……)
現世で過労死したままの適当なロゴの入った白いパーカーとインディゴのデニム姿では着物姿の凪の隣には相応しくないような気がしていた。
それに私はウエディングドレスよりも白無垢に憧れるような女だった。
着物に袖を通すのは、憧れがあった。
ここなら、誰からも奇異な目で見られることもと思う。
成人式の振り袖など、待ち遠しすぎて数日前から気持ちがそわそわしてしまうほどだった。
高校の頃は世界史よりも日本史を選んだ。
古き良き日本の文化にハマっていったのは、きっと幼少の頃に見た、妖怪を退治しながら冒険をしていく戦国時代を舞台にしたアニメが原因だ。
オタクという沼に引きずり込んだ元凶でありながら、創作という世界へ導いてくれた感謝しても、しきれない存在だ。
小学生の頃に落書き帳に鉛筆で描き始めた凪に始まり、高学年になると絵具で色を付け始めた。
中学生になると美術部に入り、コピックなどの画材を使い本格的に凪を描き始めた。
高校生になるとデジタル作画を覚え始め、専門学校に入る前から3DCGを独学で予習し始めていた。
私の創作は凪とともに歩んできた道でもあった。
少しでもかっこよく、綺麗に、表現したい。
絵という静止画よりもアニメという動画に憧れていった。
凪が動いているところを見てみたい。
その一心が私の生きる原動力だった。
そして、凪のモデリングで残すところは髪の毛だ。
生前はコントロールするのが面倒だったり、処理が重くなったりと実用的ではなかったヘアパーティクルを使ってみようと決めた。
アニメキャラクターのデフォルメされた房という塊で髪の毛を表現するのではなく、ヘアパーティクルで実際に毛を作った方がこの世界に馴染むと私は思った。
恐らくだが、この世界ではモデルの軽量化は考えなくてもよいと推測している。
自分の手をよく観察してみると、超高密度の
(過労死したら
こんな
他の住人で確認していないから確定ではないけれど恐らくは間違いない。
凪の頭皮に触れたところから垂直に毛が生えていった。
ある程度生やし、櫛モードに意識を変えて手櫛で髪型を整えていった。
凪の髪は純白の長髪が膝裏まである。前髪は真ん中で分けてあるもののボリュームがあるシルエット。
例のアニメに登場した主人公の異母兄の影響をもろに受けたのは、凪のフィギュアを会社に持ってきた瞬間にすぐにばれたのを思い出した。
(だってかっこいいじゃん……)
気が付けば、日が暮れてきていた。
沈みかけの太陽は近くの小川を赤く輝かせた。
だが、どこか違和感がある。
(そうだ……匂いがないんだ)
綺麗な川だろうが、何かしらの匂いがするはずだ。
そして、小川を覗きこんでみると、魚などの生物の気配がないことに気付いた。
手を入れてみても、川の水として違和感はない。
思い返してみれば、この世界には人間以外の生物の気配がない。
犬、猫、鳥、昆虫などは、少なくともまだ見ていない。
(もしかして誰かが生物を作らないと、この世界には現れないとか?)
この世界は最初期な状態とでも言うのだろうか。地形すらも意図的に一の状態のような気がする。
無機質で味気ない感じ。
アフロディーテの思惑は、はかり知ることはできないが、呼んだ創り手に委ねられているような意図を感じずにはいられない。
「世界を創ってみろ」と。
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