宵に酔って妖

鉄生 裕

第1話

「人の家で勝手にくつろぐの止めてもらっていいですか。あと、何度も言ってますけど、幽霊だからって子供がお酒飲んじゃダメでしょ」


彼女は花柄の浴衣を着ていて、身長は百三十センチ前後くらいのおかっぱ頭の女の子だった。


「だから何度も言っておるじゃろ。儂は貴様よりずっとずっと年上じゃ」

「見た目は明らかに小学生女子ですけど」

「儂は幼い頃に死んだからのう。死んでしまったら身体は成長しないのじゃ。こんな見た目でも貴様よりずっとずっと長い間この世界を見てきた先輩なんじゃから、儂をもっと敬うがいい」


いつも上から目線で癖のある喋り方をする彼女には顔が無かった。


「はいはい、分かりましたよ。でも、お酒はほどほどにしてくださいね。もうこの前みたいなのはこりごりですから」


つい数日前、酔っぱらった彼女は家を飛び出すと、道行く人々の前に突然現れては通行人を驚かせてゲラゲラと楽しそうに笑っていた。

なんとも質の悪いイタズラだ。


「何を言っておる。貴様も電柱の陰から覗いて一緒に笑っておったろうに」

「そうでしたっけ?あの時は僕も多少酔っていたんで・・・」

「そんなことはどうでもいい。貴様も明日は休みなんじゃろ?今日は儂と一緒に朝まで呑むぞ」


彼女が姿を現すのは決まって、日の入りから日の出までの『宵』と呼ばれる時間だった。

宵以外の時間もこの世界に留まってはいるようなのだが、僕ら人間が彼女の存在を目視で認識できるのは宵の間だけらしい。


「今日は儂がロサンゼルスに行った話をしてやろう」


彼女の身体は非常に便利で、物質を通り抜けたり身体を透明にすることも出来る。

彼女はその能力を駆使して様々な土地へと赴いたらし。

47都道府県は制覇したし、海外も20ヶ国以上は行ったと自慢していた。


「ロサンゼルスに行った話なら前にも聞きましたよ」

「貴様は黙って儂の話をきいておればいいんじゃ。あれはもう10年も前の事じゃったな・・・」


今ではこうして彼女と酒を交わす日常が当たり前になっているが、初めて彼女と出会った時はさすがの僕も少しだけ驚いた。

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