9階 4
○○ビルの管理人を名乗る男性が学校を訪れたのは、17時をすぎた頃だった。ちょうど担当している部活の顧問が終わった私以外、職員室には誰もおらず、とりあえず話だけ伺うつもりで応対をした。
「オタクの生徒が夜にうちのビルに入って遊んでいる」
そう言って見せられた写真には、確かにうちの学校の制服を着た生徒が写っていた。写真は不鮮明ではあるものの、髪型や背格好からなんとなく個人名を推測できる。
「すいません、おそらく該当の生徒は帰宅していて……明日謝罪に連れて行きますので……すみませんでした。しっかり指導しておきます」
相手の男性は穏やかな方で、特に揉めることなく、明日の朝に生徒たちと一緒に謝罪に行くことで話がついた。2日は持たんから朝早めに来てくれ、という男性の言葉が少し引っかかった。
帰り際に校門まで男性を案内していたのだが、ふと後ろを振り向くと、男性が私をじっと見ていた。しばらく考え込んだ後、男性はこう言った。
「先生、あのビルの話は知らないのか」
「えっと……何の話でしょうか?」
「いや、知らんなら良い。それなら、明日は生徒さんを他の先生に連れてきてもらうようにしてくれ。その方が話が早い。あと、親御さんも来てもらうようにな」
男性の言葉の意味はよく分からなかったが、男性を見送り、職員室へと戻った。職員室には、たまたまこの学校に5年ほど勤務している先生がいたため、明日の謝罪の付き添いをお願いしようと声をかけた。
「……そうね、私が行く方が良さそう。とりあえず、生徒の親御さんに連絡して。私は花屋に行ってくるから」
「え、花屋ですか?菓子折りとかではなく?」
「いや、あそこには花しか置けないの」
先生は、花屋が閉まる前に行かなくちゃ、と慌てて職員室を出て行った。
その後の話?特に何もなかったよ。花しか置けないとか何の話だったんだろ。
ああ、でもビルに侵入した3人が美化委員に入って、花壇の花を育てるようになったんだよね。元々不良っぽい子たちだったけど、最近はちょっと近寄りやすくなったと言うか。でも、花壇に白の花しか植えないのはちょっとセンスが(笑)他の色も植えてほしいんだけどなぁ。
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