第5話 セシリアに宝石を①
「それじゃぁな、セシリア」
「それじゃ」
少しは打ち解けた感じがする。
少し前の俺なら、これで終わり。
だが、今の俺はもう品位正しい俺じゃない。
勇者パーティに相応しい人間でありたい。
そう思っていたよ!
ついこの間までな!
だが、それはもうどうでも良くなった。
これからは好き勝手やらせて貰う。
◆◆◆
「いらっしゃいませ!」
「さっき、聖女セシリア様が見ていたダイヤ、あれを貰おうと思って」
店主は一瞬驚いた顔になった。
だが、流石は高級店、すぐに冷静になる。
「畏まりました、すぐに準備しますが、その言いにくいのですが、お代はあるのでしょうか?」
「対価は払うから、安心して良いよ」
「左様でございますか? それではご用意致します」
そういうと店主らしき男が傍の店員に目配せをし、綺麗な宝石箱に詰めてラッピングしてリボンを掛けた。
「さぁ、準備が整いました! お会計をお願い致します」
「貴方の名前は?」
「リチャードと申しますが? それがどうかしましたか?」
「コホン!リチャード、この度は聖女セシリア様の為に宝石の徴収に応じて頂きありがとうございました! この宝石はきっとセシリア様の心の拠り所になり魔王討伐の糧となるでしょう…では…」
俺は宝石箱を手に取りアイテム収納に放り込んだ。
「すみません、代金を!」
「今、お礼の言葉を述べました…が? なにか問題でも?」
「お礼の言葉は解りますが、その宝石の代金金貨1000枚を頂いておりません」
「何をいうのですか? これは聖女様に『頂いた物』ですよ」
「幾ら何でも、それで宝石を持って行こうというのですか? それじゃ泥棒みたいなものじゃないですか? 返して下さい!」
「ほう、勇者パーティ所属のこのリヒトに向かって泥棒だと! 殺すぞ」
「えええっ衛兵を呼びます...誰か誰か衛兵をーーっ」
店員が走って行った。
これで良い。
「解りました、法に則って判断して貰いましょう!衛兵が来るまで私は手を出しませんし、法には従います…但しもし法的に問題が無かった場合は、此処の宝石を全部貰いますよ」
「なっ、盗人猛々しいわ…お前は頭が可笑しいのか? もしそうならくれてやる!だが、此方が正しかった場合はどうする…死んで詫びるか?」
「それでも構いませんよ」
馬鹿な奴だ。
宝石1つで済んだのにな。
◆◆◆
「あの、英雄リヒト様が宝石を盗もうとしている…そう聞きましたが嘘ですよね」
衛兵が4人来た。
「嘘じゃありません、金貨1000枚のダイヤをその男、リヒトが盗んだんだ」
「盗んでない…これを一緒に見て下さい」
俺は記録水晶を出し、映像を見せた。
水晶には先程のやり取りが映し出された。
「あの…この水晶には貴方がお金を払っていない証拠しか映ってませんが…明らかに盗難の証拠じゃないですか?」
「ほうら見ろ、この男を捕らえて下さい」
「すみません、大人しく…」
「勇者保護法 第18条 第2項 何人とも勇者パーティの徴収を拒んではいけない。 そう書いてあります。ちゃんと水晶を見て下さい。俺はちゃんと『徴収』と言っていますよ?」
「「「「なっ、勇者保護法…あの法律を…使うのですか?」」」」」
「使うも何も正当な権利ですから」
『勇者保護法』とは超法規的な法律。
この法律は全ての法律に優先するが、使う者は過去の勇者も含みほぼ居なかった。
一見、可笑しな法律だが、ちゃんと全てに根拠がある。
例えば、今回の『何人とも勇者パーティの徴収を拒んではいけない』
これは実際に過去に起きた事件の教訓から出来ている。
その昔、勇者が強大な黒竜に戦いを挑んだ時の事だ。
ある街の公爵がドラゴンスレイヤーを持っていたのだが『家宝』だからという理由で勇者に渡さなかった。
その結果、勇者は破れ、街はおろか国にまで大きな被害が広がった。
他には魔王討伐で魔王を倒した勇者が死にかけながら近くの街についたのだが、貴重品を理由にエリクサールをその街の領主が渡さなかった。
その為、勇者は死んでしまった。
そう言った史実があるからこそ、勇者保護法にこの条文がある。
「どうかされたのですか…捕らえて」
「すみません…勇者保護法を使った方は数百年の間居なかったのですが、この法律はあります…理不尽かも知れませんが、無罪です」
「そんな…冗談ですよね…それに勇者パーティでも一番優しいというリヒト様が…そんな」
「すまないね、これも聖女セシリア様の為なんだ! 俺だって本位じゃないが…諦めてくれ…宝石1個で済ます筈だったんだが、お前が強情だから悪いんだ、法に則って全部頂くとする」
「そんな…許して…そんな事されたら…店が潰れて…家族が…」
知らんな。
「それじゃ、我々はこれで…」
「あのさぁ、あんた達も衛兵なら責務を果たせよ…勇者保護法 第18条 第3項 勇者パーティの徴収を拒んだ者は死罪とす…そうあるだろう?」
「あの、リヒト様、それ本当に使われるのですか?」
勇者保護法は申告して有効になる法律が多い。
申告しなければ施行しなくて良い。
「死罪…私が、今迄犯罪一つしないで善良に生きてきた私が…」
「…」
「済まない…これも法だ」
「財産を失い、私が死んだら家族が…路頭に迷ってしまう…うわぁぁぁぁぁぁん、お願いです、お願いです…許して下さい」
此処は高級店。
幸い店員以外はいない。
「確かに可哀そうだ! 幸いこの場には 貴方と店員と衛兵4人しか居ない…そうだな、リチャード貴方が揉める事なく最初から徴収に応じた事にしますか? その代わり皆さんに手間賃を払って下さい」
「手間賃ですか?」
「そうです、貴方が馬鹿な事したから、そこの衛兵は手ぶらで帰らないといけない『行ってみたら揉め事は無かった』そんな報告をするんですから、可哀そうでしょう?だからそうですね金貨3枚渡してあげたら如何でしょうか? 後は店員の口止めに全員金貨1枚支給、どうですか」
「その位なら出させて頂きます」
「それじゃ、それで…後は3週間だけ店を閉めてバカンスにでも行ってくれませんか?」
「なんででしょうか?」
「私は聖女様や勇者様に逆らえません…あの時に聖女セシリア様が気に入った宝石は他にもあります。追加で幾つもこの位の宝石を徴収されたら嫌でしょう?3週間貴方が店を閉めたら、流石に徴収先が居ないので、徴収出来ません…私だって本当は心が痛むのです。だからそうしてくれませんか? ちなみに私がこんな提案をしたのは此処だけの話しで内緒にして下さい」
「解りました、すぐに店を閉めて店員共々旅行に行って参ります」
「良かった…それではこれでこの話は終わりです! 衛兵の方も他言無用です」
「「「「ハッ」」」」
俺達は3週間経たずに旅に出る。
だから、宝石商と勇者パーティが会う事は無い。
衛兵も賄賂を受け取ったから黙るよな。
大きく吹っ掛けて小さくする事で、相手が助かったような錯覚を起こさせる事が出来る。
こうすると何故か恨まれ憎んだよな。
久々にやって見たけど…うんうん上手くいった。
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