【一章完結】美少女アンドロイドへのTS転生から始まる、たのしい地球征服っ!

水品 奏多

1 第三種接近遭遇/introduction



 ずっと思っていた、何のためにここにいるんだろうと。

 広大な星空を見上げては、耐え難い哀愁に襲われて涙を流したりもした。


 だから多分、心のどこかで願っていたのだ。

 空っぽな心を埋めてくれる何かを、目が眩むような非日常を。


 だとしても、だ。


「まじか」


 流石にこれは予想外、と夜空に浮かぶ巨大な空飛ぶ円盤UFOを見て、俺は引きつった笑みを零した。

 

 場所は町はずれの森の中。

 ひと際大きな流れ星に導かれたその先にいたのは、鬱蒼とした森の上で静止する一体? 一機? のアダムスキー型UFOだった。

 皿を二つ上下にくっつけたような独特なボディ。大きさとしては直径100mくらいか。底面に設置された三つの突起物が辺りを明るく照らし、そのメタリックな外壁を惜しげ名もなく晒していた。


「……よし」


 震える四肢に力を入れ、恐る恐る一歩を踏み出す。

 逃げるなど以ての外。なにせ目の前にこれだけのファンタジーが、SFがあるのだ。例え多少の危険があろうと首を突っ込んでみたくなるのが男のサガである。


 不思議なことに、あれだけの巨体が宙に浮かんでいるにも関わらず風などの抵抗は一切感じなかった。

 どうやら本当に未知の技術で作られているらしい。

 一歩。二歩。足を進める度に全身を包むプレッシャーもまた大きくなっていく。


 目の前の物体は一体なんだろう? まさか本当に宇宙人? それとも今俺は夢を見ているのか……?

 

 様々な疑問が湧き上がるものの、答えは出ない。

 ただ、張り裂けそうなほど高鳴る心臓の鼓動と肌に張り付いたTシャツの気色の悪い感覚がどこまでも鮮明だった。


 上空の光源に照らし出された夜の森。

 くくく、という動物の鳴き声とも知れぬ音が鳴り響き、宵の闇が不気味な影を形作る。


 ? なんだ、女の子……?


 その時、視界が人間らしき影を捉えた。

 視線を向ければ、そこにいたのは一人の少女。


 人形を思わせるほど精巧な顔、肩まで伸びる青髪、雪のように真っ白い肌、そしてその小さな体躯を包む宇宙服チックな白い服。

 そんなファンタジーに満ちた少女が、目を瞑った状態で木に倒れこんでいた。


「だ、大丈夫ですか? 何があったんですか?」


 近づいて声をかけてみるも、彼女はその長いまつ毛をピクリとも動かさない。

 

 明らかに十代前半らしき少女がこんな場所、しかもUFOの近くで寝ているなんて尋常ではない。

 まさか本当にアブダクションされたとか……?

 嫌な予感に突き動かされ彼女の肩に手を置いた、その時だった。 


「っ」


 ぶれる視界。全身を包む浮遊感。

 まるで目の前の少女に体が吸い込まれるような感覚に襲われて――俺の視界は闇に包まれた。






 

「っ……ち、これじゃあ――」


 浮上する意識。

 復活した俺の前には見覚えのない一人の少女が立っていた。


 豊満な赤髪を乱暴に揺らして、同じ場所をうろうろと動き回る少女。

 その小さな体躯とは裏腹に、彼女が身に纏う雰囲気は妙に刺々しい。

 彼女の背後に見えるのは闇に包まれた森だ。どうやら俺はあの後眠ってしまったらしい。

 夢心地のまま眺めていると、こちらに気付いた彼女が眉を歪めて聞いてきた。


「ん。ようやく起きたのかしら。お前、どうやってそこに入ったのよ?

 そもそもどこまで覚えてるのよ?」


「……えと、確か学校帰りにUFOを見つけて、そしたら女の子に会って……」


 あれ、おかしい。それ以降だけじゃなくそれ以前・・の記憶も思い出せない。

 俺は……誰だ? どうやって生きてきた?


 口の中がカラカラと乾き、背筋を冷たい汗が伝う。

 そんな俺の前で少女は大袈裟にため息をついた。


「予想通りかしら、まあいいのよ。

 命令系統が生きている以上、反抗はできない。お前が出ていくその時まで、馬車馬のごとくこき使ってやるのかしら」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。

 まず君は何者なんだ? あの女の子はどうなったんだ?」


 何やら聞き捨てならない言葉が聞こえた気がして、彼女に問いただす。

 彼女やあの子の正体、そして今はどこかに行ってしまったUFO。分からないことだらけだ。


 彼女は一瞬だけ視線を外したのち、不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「私はこの地球とかいう星を征服しに来た宇宙人。そしてお前が言う女の子は私を助けるために派遣されたアンドロイドだったのよ。

 でも何の因果か、彼女ーーナナとお前は融合してしまった。いえ憑依といった方が近いかしら。ナナの体にお前の魂が入ってしまった。

 ここまではお前のような愚図でも理解できるかしら?」


「はい……?」


 あまりに荒唐無稽な単語の羅列に、少女が語った話が右から左に抜けていく。

 されど彼女が掲げたスマホらしき機械に映ったのは、間違いなくあの時の少女だった。試しに右手を動かしてみれば、少女もまた同じように右手を挙げる。


 ゆ、融合って言った? 本当にこれが今の俺なのか? 

 いやいや。まさか、ねえ……? そんなファンタジーが存在するわけーーって、既にUFOとかいう超常現象に遭遇してるんだったっ。


「そしてお前の体には私に絶対服従の命令コマンドが敷かれている。

 つまり、お前は私と一緒に地球を征服するしかないのよ。分かったかしら?」


「っーー」


 彼女が口角を上げると同時、意気揚々と跪く俺の体。

 まるでセメントで塗り固められてしまったかのように、その状態のまま前にも後ろにも動かすことが出来ない。


 眼前に迫る地面。全身を蝕む敗北感。

 唯一自由が許された眼球で見上げてみれば、彼女はまん丸の月を背負って嗜虐的に微笑んだ。


「これからよろしくなのよ、奴隷さん」


 ーーかくして奴隷おれドSちびっこ宇宙人かのじょの地球征服は幕を開けたのである。

 

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