53-2

匂いに誘われるよう歩いてたどり着いたのは市場のような場所だった

海から水揚げされた魚介類を売る店が並び、その中に調理したものを売る店も含まれている

「大体が串焼きか?」

「そうみたい」

「俺としては照り焼きとか煮魚とか…刺身が食いたいんだけどな」

「お母さんが作るやつだよね?」

「ああ」

「確かにああいうのって屋台でも見ないなぁ。あっても串焼きかフライ?」

「魚だけ買って帰って調理場借りるか」

ここにいて新鮮な魚を刺身で食べないとかないよな

そう思いながら物色を始める


「シア、シジミ汁も食べたい」

「僕ホタテがいいな」

「サザエのつぼ焼きは?シアなら作れるよね?」

「…貝類も見るか」

こいつらの食に対する執着は普通じゃない

口にした以上食べるまではしつこくねだられる


「エビのアヒージョもいいなぁ」

「イカ素麺とか塩辛も」

「…お前ら自分で作れるようにした方がいいんじゃないか?」

次々に飛び出す要望にうんざりする


「おい坊主」

「は?」

いきなり呼ばれて振り向くとガタイのいい親父が立っていた


「なんか用?」

「いや、今その2人が口にしてたのは料理の名前か?」

「ん?まぁそうだけど?」

「それを坊主が作れるって認識であってるか?」

何だこの親父ずっと聞いてたのか?

不信に思いながら沈黙する


「あ、すまん。俺はあの店やってるグースってんだ」

グースと名乗った親父は海に近い場所の店を指さした


「あれは中で食べれるお店?」

「そうだ。夜には酒も出してる。ただメニューが限られててどうしたものかと思ってな」

グースは大きなため息を吐く


「もし坊主が良ければだがレシピを売ってくれないか?」

「レシピを?」

そういえば商業ギルドにレシピ登録なんてものがあった気がする


「商業ギルドに登録すればいいってことか?」

「あ、あぁ」

グースは大きく頷いた


それを見ながら俺は考える

登録するのは構わない

それで屋台の食べ物が増えるなら俺としてもこいつらの分を作る必要が無くなるからメリットがある

でも…

「レシピは登録しない」

「「「え?」」」

それにはルークとシャノンも驚いていた

権利収入を逃すのかと言った感じだろうか?

でも金は腐るほどあるしそこに魅力はないんだよな

レシピを書く方が面倒だし


「ああ、でもあんたと取引がしたい」

「取引?」

「俺はこの町に3か月程滞在する予定なんだ。その間好きなときに調理場を使わせてほしい。その代わり俺がその調理場で作る料理は好きに見て盗んでくれていい」

「つまり、調理場を使わせてやる代わりにレシピ代はいらないってことか?」

その問いにニヤリと笑って返す


「そういうことならいくらでも使ってくれ」

「あと、屋台の方でも出してもらいたいんだけど伝手は有るか?」

「俺の弟がフライを出してる。そこで問題なければ」

「それでいい。屋台で出してくれればこいつらが好きなときに食える」

「それ最高!ギルドに向かうときに食べれるってことだろ?」

「ああ。じゃぁ取引成立ってことでいいか?」

「もちろんだ」

「なら3か月だけどよろしく。俺はシア、こいつらは双子の弟妹でルークとシャノンだ」

俺が紹介すると2人は軽く笑顔を見せる


「ねぇシア、早速作ってよ」

シャノンの言葉にグースを見る


「店の方はいつでも構わない。むしろ俺も早く見たいくらいだ」

「そういうことなら遠慮なく使わせてもらうよ」

「シア、私煮つけも食べたい」

「1日でそんな何種類も作らないぞ」

「えー」

「今日はマグロの刺身と漬け丼、さざえのつぼ焼きあたりかな」

「つぼ焼きなら屋台でも出せるね」

シャノンは貝類に目がないから嬉しそうだ

すでに食材を買い込んでいた俺達はグースの店に向かった


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