第47話 秘密の扉に隠された日記帳 ライオネル視点
メドフォード国に帰国する際に、カメーリア殿下も同行すると言い出した。最初は遠慮したのだが、あまりにもしつこいので望むようにさせた。この女性が私の看病をしてくれることに感謝は感じていた。カメーリア殿下は優しく世話好きな人であり、私の健康をとても気遣ってくれた。カメーリア殿下は信頼できる存在であると思いこんでいた。
しかし、私はカメーリア殿下を異性としては意識していない。恋愛感情を抱いているわけではないのだ。私はカメーリア殿下を大切な友人として位置付けており、それ以上の感情を抱いていなかった。または、妹のような存在に近いのかな、とも思う。
メドフォード国について、私の身体を支えるように寄り添った時も、当然のことのように感じていた。王宮の来客用サロンで父上や母上が戸惑っていたのが不思議だった。兄上や妹とビニ公爵夫妻もそこにはいて、私の無事を喜んでくれたが、どこか不服そうな顔つきをしていた。
母上は、なぜカメーリア殿下がここにいるのかと尋ねたが、カメーリア殿下は私を心配して付き添ってくれただけだ。母上がそのように不快な表情をしている理由がわからなかった。一緒に帰国した医師団の一員が、最近の出来事について私が記憶を持っていないことを指摘したのにも驚いた。それまで、医師団からはそうした指摘を受けたことがなかったからだ。
さらに、母上はソフィという女性が私をずっと待っていたと言い出したが、その内容もまったく理解できなかった。そして、そのソフィという女性からも、自分のことを思い出してくれるように懇願された。
だが、申し訳ないことに全く見たこともない女性だし、なにを思い出せば良いのかもわからない。ただ、その女性はビニ公爵夫人に良く似ていた。艶やかな黒髪に、理知的なグレーの瞳は澄んでいた。凜とした美しさは私を惹きつけた。だが、記憶のどこにもない顔だった。
彼女が泣き出しそうになった瞬間、ニッキーが姿を現した。ニッキーは拘束具をつけた男を連れていた。その男の口から、今の私が普通の状態ではないことを知らされた。その男の名前はアルケミス。アルケミスの作ったエリクサーを飲まされた私は一部の記憶を失い、さらにはカメーリア殿下に強制的に好意を持つように仕向けられていたことがわかった。
恐怖で手が震えた。人の記憶を操作するなど信じられない。命の危険もあったことを思えば、今生きていることさえ感謝するべきことなのだが・・・・・・
☆彡 ★彡
私にエリクサーを飲ませた邪悪な兄妹は捕らえられ、カメーリア殿下は修道院送りに、カロライナ国王は毒杯を自ら飲んだと聞いた。
記憶がないとわかると、なくした記憶がとても気になった。母上やビニ公爵夫人から、私とソフィ嬢がお互い思い合っており、婚約間近だったことも聞かされた。兄上には「ソフィ嬢は運命の女性だ」と言っていたらしい。なにを聞かされても全く思い出せない。
その後、自室の秘密の扉に隠された日記を見つけた。なぜこれをここに隠していたのか理解できなかったが、開いてみると、その中にはソフィ嬢についての記述ばかりが詳しく綴られていた。確かに、これは他人には見せたくない内容だ。
日記帳には、ソフィ嬢の素晴らしい資質が詳細に挙げられ、一緒に過ごした瞬間が細かく記されていた。彼女の言葉までが記録されていたため、私はその瞬間を再び体験できた。その日記には、私自身の気持ちも率直に表現されており、『心から愛している』や『大好きだ』などの言葉が多く含まれていた。
私はソフィ嬢をこれほど深く愛していたのか?
『一生守るべき大事な女性』と、日記帳のどのページを見ても書いてある。私はそのような女性を忘れ「ソフィとは誰ですか?」などと言ってしまったことを恥じた。エリクサーのせいとはいえ、なんとも取り返しのつかないことをしでかしたものだ。
その後、頻繁にビニ公爵邸を訪ねたが、ソフィ嬢に会う機会は一度もなかった。毎週末、ソフィ嬢はビニ公爵邸に戻っていたはずなのに、その後帰ってこない日が続いていたのだ。エレガントローズ学院にいるソフィ嬢宛てに手紙を書こうと思っても、何を書けばいいのか悩んでいた。
解決策が見当たらず、時間だけが過ぎっていった。しかし、夏至祭りが近づく頃、ソフィ嬢の友人とされる女性と共に、ニッキーが王宮を訪れた。
「ソフィ様にお会いしたいとお考えでしたら、夏至祭りの夕方に会場に来てください。私とソフィ様はちょうど食べ物の屋台が並ぶ、噴水の近くのベンチに座っていようと思います」
マリエッタという女性は熱心に、私を夏至祭りに来るように誘った。
「花火をお二人で見た後に、私からライオネル殿下にプレゼントがありますので、是非お越しください。その時の私は多分天使になっているでしょう」
謎の言葉を残してニッキーが去った後、私はソフィ嬢になんと言葉をかけて良いのか悩むのだった。
日記で追体験していた私には、ソフィ嬢への恋心が芽生えていた。あれから毎日、日記を読んでいたのだ。あの頃の記憶はなくても、愛おしい気持ちは募る。
もし、彼女が許してくれるのなら、始めからやり直すのだ。以前と同じようなデートを重ね、同じようなときめきを共有する。私はこれからも、ずっとソフィ嬢の側にいたい。
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※リクエストにお応えして、ライオネル殿下視点を書いております。
お話を早く進めてほしい方には申し訳ありません。
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