第23話 ヴィッキー視点 / ヴィッキーからの手紙
※ ヴィッキー・ラバジェ伯爵夫人視点
私は夫と共に、ゴッサム修道院に向かうために、馬車に乗った。あの女性がソフィアだとは思えなかったが、嫌な予感がして胸がざわついた。
私たちは、壮麗で静かな雰囲気の建物の前で馬車から降り立つ。予想していたよりもずっと美しく、整備された修道院だった。
広々とした礼拝堂は豪華で立派だったし、床にはちり一つ落ちていないほど清潔だった。
シスターたちは私たちを追い返そうとしたけれど、私は「ソフィアに会うまで帰るつもりはありません」と伝えた。彼女達は渋りながらも、修道院長室に案内してくれた。
応接室に通され、修道院長にソフィとの面会を希望したが、「突然の面会は受け付けられません。お帰りください」と主張され、全くソフィに会わせようとしない。とても奇妙だと思ったわ。
「だったら今すぐ屋敷に連れて帰ります。いつでも娘を連れて帰って良いはずでしょう? こちらには2年間という約束でお金を払いましたが、返していただかなくて結構です」
「それは困ります」
「なにが困るのよ? あなた方が得をするだけでしょう? いいからソフィを連れて来て。いますぐ連れて帰ります」
修道院長は黙りこくり、顔が青ざめ、不安な表情を浮かべた。
「やっぱりね。ここにはいないのでしょう? ボナデアお姉様の仕業ね? これであの仕立屋や宝石屋の嫌がらせがわかったわ。ボナデアお姉様が、メドフォード王国の王妃殿下の名前を騙って、嫌がらせをしていたんだわ」
ソフィが私に隠れてボナデアお姉様に連絡を取ったに違いないと思うが、ソフィがボナデアお姉様を思い出していたことに驚いた。
ボナデアお姉様には、ソフィが幼い頃に一度しか会わせたことがなく、それほど印象に残っているとは思わなかったのよ。
ボナデアお姉様からの贈り物は、ソフィには三回しか渡さなかったし。それはお姉様から贈られる宝石が、ソフィにとっては贅沢すぎるほどの高級品だったからよ。
当時ソフィはまだ幼かったため、上質なダイヤモンド、エメラルド、ルビー、サファイア、タンザナイトなどのネックレスやブレスレットを身につけることは早すぎたわ。
そのため、私はこれらの宝石を預かっていた。もちろん、宝石は使わないともったいないので、私が代わりに身につけていたわ。親だもの、当然の権利よね?
「貴方! ソフィを連れ戻しに行きましょう。このまま黙っていられないわ」
「いや。しかし、相手はメドフォード国の王族だぞ?」
「ソフィが戻って来なければ、ブリス侯爵家にお金の返済を迫られますよ」
それは困ると顔をしかめた夫は、経済的な戦略や投資計画を立てるのが苦手で、資産や資金を適切に運用できていない。領地内にある資源や産業の潜在能力を全く活用できていなかった。
本当はボナデアお姉様がチャドと結婚して、ラバジェ伯爵家を継ぐはずだったのに。ボナデアお姉様が勝手なことをしたせいで、私が犠牲になったと思っている。
「娘を誘拐した罪で訴えてやるわ。お姉様めっ!」
私は一旦、屋敷に戻りバークレー男爵家へと向かった。ジョハンナと一緒にビニ公爵家に乗り込んでやるわっ!
☆彡 ★彡
※ヒロイン視点に戻ります。
私は楽しい冬至祭りを過ごし、ライオネル殿下との仲も深まってビニ公爵家に戻った。もちろん、その五日間のなかで、ミラ王女殿下やカーマイン王太子殿下とも仲良くお話をさせていただいた。
ビニ公爵家のファミリールーム(家族用居間)でボナデア伯母様は編み物をし、ビニ公爵様は新聞を読んでいた。私もこの冬至祭りの間は、雑誌類を読む暇がなかったので、新聞や雑誌類に目を通す。やたらに自分のことが記事になっていて驚いてしまう。
「ボナデア伯母様。私とライオネル殿下との挿絵が、至る所に掲載されています。大闘技場での私達は、こんなに寄り添っていませんでしたよ」
「あらあら。どの記事にも、ちょっとだけ嘘があるわね。ソフィがライオネル殿下の婚約者と決めてかかっているわ。まだまだ、これからゆっくり愛を育むのにねぇ」
愉快そうに微笑んでいるけれど、私はちょっぴり困っていた。だって、これだとエレガントローズ学院で友人達から冷やかされそうだし、正式にそのようなお話はでていない。
午後のなごやかなボナデア伯母様達との団らんが中断されたのは、家令が手に持つ封筒のせいだった。その封筒には、差出人が「ヴィッキー・ラバジェ伯爵夫人」と記され、名宛て人はボナデア伯母様になっていた。
手紙のなかには、私を誘拐した罪状でボナデア伯母様を訴えるということと、こちらの国に来るということが記されていたのだった。
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