第5話 エレガントローズ学院
エレガントローズ学院はメドフォード国の王都に近いけれど、町中の喧噪を離れた静かな丘の上に佇む、一際美しい建物だった。モダンなデザインでありながら、周囲の景色と調和していたわ。
学院の門をくぐると花々が美しく咲き誇る庭園が広がる。薔薇やジャスミンなどの香り高い花々が風に揺れ優雅な香りが漂っていた。庭園には噴水や石畳の小道もあり、学生達がそこで穏やかなひとときを過ごせそうだった。
応接室は校舎の中央部に位置しており、メインエントランスから直接アクセスできる場所に設置されていた。この配置によって、訪問者や来賓が学園に到着した際には、一目で応接室への道を見つけることができるから便利だと思った。
部屋の入り口には重厚な扉があり、一歩中に入れば広々とした空間が広がる。高い天井からはシャンデリアが垂れ下がり、華やかな光を放つ。壁には美しい絵画やタペストリーが掛けられ、応接室の中央には大きなテーブルが置かれ、ゴージャスな皮のソファの座り心地は体が沈み込むようだった。
「ようこそいらっしゃいました。エレガントローズ長のウィレミナ・スタークスです。ビニ公爵夫人の姪御様をお預かりする光栄を心より感謝いたします。ビニ公爵夫人より送られてきた荷物は、全て特別室へ運んであります。家具は既にセット済みですし、ドレス類は全てクローゼットに収めてあります」
「お忙しい中、ご対応いただきありがとうございます。初めての寄宿舎生活で、ソフィはちょっとばかり心細いことでしょう。どうか優しく迎えてあげてください。ですが、授業は厳しく他の生徒達と同じように接してくださいね」
「はい、承知しております。こちらで最高の教育をさせていただきます。エレガントローズ学院では生徒達の世話をするメイドなども雇っておりますので、生活面でもご不自由はさせません」
「荷物ってどなたのものですか? 家具やドレスとは、どなたが使うのですか?」
「もちろんソフィのものですよ。だって、ワンピースやドレスが足りないでしょう?」
いろいろ頭が追いつかない。伯母様に自分の服は持って来ていることを申し上げたけれど、ボナデア伯母様は優しく微笑みながらおっしゃった。
「ここで2年間も過ごすのですよ。ワンピースはたくさん必要です。ダンスのレッスンもありますからね。ダンス用のドレスも何種類かは必要でしょう。それにあわせたアクセサリーも、もちろん不可欠ですよ。私には子供がいないので、このお買い物はとても楽しかったわ。まるで娘ができた気分ですよ。家具も少しばかり持ち込みました」
「そんな・・・・・・とてもお返しできない金額になってしまいます。私は学費だけ出していただくつもりでした」
「ありがたいと思ったら、私の期待に応えなさい。それが唯一の恩返しです」
きっぱりと言い切ったボナデア伯母様は優しいばかりではなく、厳しい面も持ち合わせているようだった。それでも少しも冷たい気はしない。私は期待されていることに、むしろ喜びを感じていた。
☆彡 ★彡
学園の寄宿舎内には特別室が存在する。そこは身分の高い学生や、特別な地位を持った学生のための、贅沢で快適な空間だった。光沢のある金や銀の糸が織り込まれたダマスク柄の壁紙と、柔らかなシルク地でつくられたローズピンクのカーテンには、繊細な刺繍とレースが施されていた。
豪華な四柱ベッドの柱にも繊細な彫刻が施され、上方に向かって優雅なカーブを描いていた。柱の上部からはドレープカーテンが垂れ下がり、自分が王女様にでもなった気分だった。ベッドの頭部にあるヘッドボードには金箔が施され、華麗なデザインが際立っている。柔らかなマットレスが敷かれ、寝具もとても上等なものだ。
床には上質なアイボリーの絨毯が敷かれ、部屋の奥に広がるリビングエリアのソファには、柔らかなシルクのクッションが添えられていた。さらに、部屋中に可愛らしいお花のアレンジメントが飾られ、優雅な香りも漂う。
「このお部屋は私には分不相応ですわ。あんまりにも贅沢すぎます」
「ソフィ。そう思うのなら、これからこの部屋に相応しい人間におなりなさい。チャンスはあげましたからね」
ボナデア伯母様のこの言葉は、私の心に深く刻まれたのだった。
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