第3話 修道院にいた貴婦人
ボナデア・ビニ伯母様の住む隣国メドフォード国を調べてみた。かなり文化が発達しており、このシップトン国より教育に力をいれていることがわかる。特に、メドフォード国にあるエレガントローズ女学院は、各国から生徒が集まる有名な学院だった。
そこを優秀な成績で卒業できた生徒は、王族の家庭教師に推薦されたり、エレガントローズ学院に残り、先生の職に就くこともできるらしい。
教育者を育成するための学院で、卒業生は高位貴族の子女の家庭教師や、他の学園の先生などにもなるという。ここに通わせてもらえれば、なんとか自分ひとりでも生きていける立場になれそうだ。
では、どうしたら通わせてもらうことができるのかしら?
私はボナビア伯母様に投資をしませんか? と持ちかけたのよ。必ず上位の成績を取り王族の家庭教師かエレガントローズ学院の先生になり、私にかかった教育費の倍のお金を返済するという提案をしたためた。
このようなビジネスライクな取引を姪から持ちかけられたら、きっとボナデア伯母様の関心がひけると思った。とにかく読んで欲しいし、興味を持って欲しかった。
姪からこのような手紙がきたら、きっと面白いと思ってくれそうな気がする。手紙の中で一番強調したことは、両親が私を修道院に入れようとしていることだ。ボナビア伯母様の援助が今すぐに必要なことと、今までの経緯もわかりやすく書いていく。
自分が家族から大切にされていないことを書くのは恥ずかしかった。でも、この場合は仕方がない。ありのままを丁寧に説明したつもりよ。でも、お返事は来なかった。やはり、ボナデア伯母様は私に興味がないのだろう。
☆彡 ★彡
私は絶望的になりながらも、修道院に行く日を迎えた。
「ゴッサム修道院には2年間いられるように手配しました。しっかり、そこで教育してもらいなさい」
お母様は私に冷たい眼差しを向けた。
「ゴッサム修道院ってすぐに独房のような部屋に閉じ込めるらしいわよ。『矯正室』というのですって。ソフィ、可哀想だけれど頑張ってね」
嬉しそうに私にそう教えてくれたのはココで、前日からラバジェ伯爵家に泊まっていた。私がいなくなったら私のお母様が寂しくなるだろうから、慰めにきたと言っていた。ココは私の居場所をこのまま乗っ取るつもりらしい。
「なんて良い子なのでしょう」
「うふふ。ヴィッキー伯母様、安心してください。私がソフィのいない間は泊まりに来て、一緒にいてさしあげますからね」
チクリと痛む私の心。お母様の愛を求めることはやめたけれど、そのような会話を聞いたら、やはり嬉しい気持ちはしない。
「さようなら。お母様、お父様」
「えぇ、2年後にまた会いましょう」
2年後にここに戻るくらいなら、ゴッサム修道院で一生過ごそう。そう覚悟して私は馬車に乗った。ラバジェ伯爵家の馬車は修道院へと向かった。
私の人生はシスターになって、一生終えることになりそうね。
ゴッサム修道院はとても厳格な戒律によって規律正しく暮らす場所で、体罰もあると聞いたことがある。恐ろしくて体が震える。
やがて、ゴッサム修道院に到着する。その建物は壮麗で静寂な雰囲気が漂っており、優れた建築技術と美的センスが融合した見事な造りとなっていた。内部には広々とした礼拝堂や静寂な修練の場、謙虚な生活を送るための共同施設が整備されている。
私は応接室に早速案内された。応接室の奥には院長室があり、私はシスターの案内によって応接室に通される。そこには、見知らぬ貴婦人が座っていらっしゃった。
「あら、まぁ。ずいぶん大きくなったこと。少しもヴィッキーに似ていないのね」
お母様を呼び捨てにするということは、もしかしたらこの方はボナビア伯母様かもしれない。私と同じ黒髪にグレーの瞳で、骨格もしっかりしていて私に似ている。
けれど似ていないことはその姿勢と表情だ。ボナビア伯母様は背筋をピンと伸ばし自信に満ちていた。ゆったりとした微笑みや仕草は、不安や迷いがなく堂々としている。
「はい、お母様は金髪でブルーの瞳ですから、いつもそう言われます。ココのほうがお母様に似ているので、本当の娘はココだと思っていらっしゃるかもしれません」
「まぁー。良かったこと。ヴィッキーとジョハンナはおバカさんですからね。似なくて良かったのですよ。今のままのソフィが一番です。ココはジョハンナの娘ですね? あの二人に似たなんて可哀想に」
ボナビア伯母様は楽しそうに笑った。ココがお母様達に似て可哀想という意見にびっくりした。
「私はいつも地味だとか陰気と言われてきました。このままが良いなんて、言われたことはなかったです」
「愚か者の言うことなど、もう忘れてしまいなさい。さぁ、エレガントローズ学院に向かいましょう。もう入学手続きも済んでいます。あそこは入学するのは簡単ですが、卒業するのが難しいですからね。途中でリタイアすることは許しませんよ。私は冷たい人間なんです。助けてあげる価値がある人間しか助けませんよ」
コロコロとお笑いになるボナビア伯母様はそうおっしゃったけれど、少しも冷たい人間な気はしなかった。
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