第41話 前市長と通報者の決意
おじさんの車で俺たちは近くの公園に移動した。
南のおじさんは、「お父さんのことを話したいのだが、一条さんには少し席を外してもらった方がいいか?」と聞かれたので、俺は首を横に振る。
「大丈夫です。父の件で、俺は隠すことなんてありませんから」
そう言うと、おじさんは優しく笑った。
「そういうところは、本当にお父さんそっくりだな。本当に生き写しのようだよ」
小さいころから周囲の大人の人たちから、「お父さんのような立派な人になるんだよ」と言われていて、プレッシャーに感じたこともあったけど、父さんが亡くなった後、物事がわかるようになればなるほど、それが誇らしくなった。
できる限り父親に近づきたい。俺じゃあ、あの聖人みたいな人は超えられないだろうけどな。
公園の椅子に座って、ポツリと前市長が語りだした。
「もう、守君が亡くなってから何年も経つんだな。信じられないくらい時間の進みは早い。エイジ君も大きくなった」
南のおじさんは、父さんのボランティア仲間だった。父さんは、炊き出しを中心に子ども食堂みたいなこともしていて、その活動の中で二人は友達になったらしい。
その後、おじさんは政治方面から誰もが住みやすい環境を作るために、政治の世界に入り、父さんの活動をサポートしてくれていた。
「エイジ君は立派な高校生になった。だから、きちんと話しておきたかったんだ。わしもいつまで元気でいられるかわからないからね。本当に申し訳なかった。幼いキミたちから、わしはお父さんを奪ってしまったと思っている」
おじさんは、目を潤ませながら頭を下げた。今日は謝られてばっかりだ。
「おじさん、頭を上げてください」
「ありがとう。やはり、キミは優しいな。だが、きちんと贖罪はさせてもらいたい。キミのお父さんは、わしの理想だったんだ。責任感と優しさにあふれた立派な人だった。それに、甘えてしまっていたんだ。普段のキッチン青野の仕事とボランティア。守君には重すぎる荷物を背負わせてしまった。彼の責任感を考えれば、無理をしてしまうのはわかっていたのにな」
そう言って、おじさんは天を仰いだ。
言いたいことはわかった。その後悔はもっともだと思う。
結局、おじさんは父さんが死んでからずっと時計の針が止まっているんだと思う。そういう人特有の悩み方だ。
「それでも選んだの父です」
あえて、俺は"父"という外用の呼び方を使う。
「選ばせてしまったのは、私だ」
それがおじさんの後悔。父に理想を押し付け、無理をさせてしまって、倒れてしまったと思いこんでいる。
でも、そんなわけはない。だって、父さんは……
「父は、満足に笑っていました。死に顔は、本当に満足そうに笑っていたんです。いくら、おじさんでも、父さんの意思だけは否定してほしくないです」
父さんは、自分の理想に生きた。だから、誰も後悔する必要はないんだ。
「……そうか」
「おじさんは、父の理想をしっかり受け継いでくれている。父さんはいつも言っていました。俺の活動を誰かが引き継いでくれたら、俺はずっと生きているようなもんだって。父さんと一緒に生き続けているはずのおじさんが、後悔していることこそ、怒りますよ。きっとね」
おじさんは、目を潤ませながら、笑った。
「本当に立派になったな。孫のように思っていたのに、今日はキミに教えてもらってばかりだよ、英治君」
そして、おじさんは優しく俺を見つめた。
「だからこそ、キミに危害を加えようとした者たちのことは許せない。大きなお世話かもしれない。キミは立派な大人になろうとしているんだからね。だけど、まだ大人に守られるべき高校生なんだよ。お父さんのためにも、わしは大人としての責任をまっとうさせてもらうよ。キミを守る、絶対にね」
父の笑顔を思い出しながら、自分のことを思ってくれているおじさんの気持ちに心は揺さぶられて、俺は皆に守られている。
そして、俺たちは笑いあった。
※
―通報者視点―
さて、とっておきの証拠写真も撮れた。これをどう利用するか。
一番簡単なのは、このデータをネットに流してしまえばいい。あいつらがやったことと同じことをすれば、効果は絶大だろうな。
だが、それはあくまで最終手段。まずは、匿名で教師陣とサッカー部にたれこむ。これが表沙汰になれば、サッカー部に大きな影響が出るだろうから、内乱状態になるだろうな。
仮に内々で隠ぺいされるようなことがあれば、SNSや市議会、マスコミに流して徹底的に叩く。俺があくまで裏で動けば、誰がデータを持っているかもわからないだろう。
俺は、金なんかで動かないからな。
あいつら得意の暴力や嫌がらせも、誰が動いているかわからないなら意味がない。
近藤。
お前が持っているものは、俺がすべて
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