チート回復魔法使いと最強女吸血鬼のマイペース冒険生活~偶然出会った吸血鬼が強くて優しかったので一緒に冒険して貰うことにした~

ジョク・カノサ

第1話 吸血鬼との出会い

「はあ」


 周囲の喧騒に混じる自分の溜息はやけに重く感じた。足取りなんかはもっと重い。


「これで八回目か」


 曰く、変な感覚がする、今まで受けてきたものと比べるとおかしい、田舎で習ったなんて怪しいから怖い、なんか雰囲気が田舎臭い。等々、今回も様々な苦情を言われてしまった。


「やっぱり田舎者なのがダメなんだろうか」


 手を前に持ってきて力を込める。すると手の平から淡い光が発生し始めた。ここ数年で習得した僕の唯一の特技。


「ちゃんと治るんだけどな」





 ☆




 世界にはまだまだ未知が眠っている。という事で、どこかの誰かが未知を解明する為にとある都市を作り出した。


 その名も探索都市。全容が掴めない未踏地と呼ばれる場所らの玄関口に作られたこの都市では、今日も色んな夢を持った人達が各地から集まって、幾つもの探索隊となって探索へと繰り出している。


 そして、探索は命がけだ。未踏地には危険な動物や得体の知れない化物やら何やらが普通に居る。つまりは腕っ節が必要。


 魔法とか剣とか弓とか。探索者達は基本的にそれらの内のどれかに優れている場合が多いらしい。僕も一つだけだが得意技がある。


 そう、使えばたちまち怪我が治ってしまう回復魔法である。ただこの回復魔法、物凄く覚えるのが難しい。僕はちゃんと出来るまでに五年くらいかかった。


 そしてそれは探索都市の人々にとっても同じようで、回復魔法の使い手は少なく他に出来る事が少なかったとしても重宝されるらしい。


 僕はこの都市に来てこれを知った時、喜んだ。難しいなあとは思いつつもそこまで凄い魔法だとは思ってなかったからだ。


 という訳で、僕は回復魔法の使い手を募集している探索隊に応募しまくった。


 全部落ちた。




 ☆




「そんなに変かな……まあそりゃ他の人と習い方は違うんだろうけどさ……」


 都市の往来、武器を売ったり道具を売ったりどこもかしこも賑やかで田舎出身の僕にとってはとても新鮮な光景だ。


 でも今は、その光景がどことなく憎い。


「冒険したいよー、冒険したいなー、冒険させてー」


 冒険がしたい。いや、ここじゃ探索がしたいと言うべきか。僕が田舎から出てきた理由はそれに尽きる。


 牛、羊、山、枯れ草、土、おじちゃん、おばちゃん。もうそういうのには飽きたんです。


 でも今のままじゃ探索は出来ない。使えるのは回復魔法、後は逃げ足が速い事くらいしか取り柄が無い。危険なモノ全てから逃げつつ一人で探索するのはイヤすぎる。


「でもなー、これじゃ同じ事の繰り返しだ」


 探索隊の募集や応募が出来る探索管理所では、同時に自分の情報を登録して向こうからのお誘いを受ける事も出来る。


 でもお誘いが来てもこれまでと同じか、もしくはもう悪評が広まっててそもそも来ないかだろう。


「お金も有限だし、どうしよ――」


「そこの人」


 突然話しかけられた。後ろを向くとフードを深く被った小柄な人が居た。顔はよく見えないけど声的に女の子だろうか。


「ここに来て間もないんだろ?何か悩み事か?」


「あ、はい。中々探索隊に入れてもらえないんです。なので未だに探索に向かえてません」


「じゃあ、私が案内をしてやろうか」


「案内ですか?」


「ああ。ここのヤツらが探索してるような場所の浅いとこまで連れて行ってやる。私は魔獣なんかが出ない道を知ってるから、安全に探索気分が味わえるぞ」


「おお」


 渡りに船だ。とにかく探索がしてみたい僕。大きな壁は危険性。それを回避出来るなら問題は無くなった。というかマジュウってなんなんだろう。動物かな。


「ぜひお願いします」


「了解した。日が暮れる前には撤収するからな」


「分かりました……その手は何ですか?」


「金だよ金。案内料。こっちは商売だよ」


「なるほど……足りますかね?」


「半分貰う。じゃ、行くぞ」


 お金を受け取るとズンズン進んでいく女の子。そういえば名前を聞いてない。


「お名前を聞いても良いですか?」


「キーラだ」


「僕はサンゴです。バランカ村から来ました。歳は十四です。よろしくお願いします」


「……聞いた事もない村だな」


「田舎ですから。……あの、それよりもこっちで良いんですか?探索に出るなら探索管理所で探索隊として申請して出入り口から出ろって言われたんですけど」


「そういうのは時間がかかるから裏道を使う。なに、私達はちょろっと物見に行くだけだ。どうせこれっきりなんだから、わざわざ隊を組む必要もない」


「そういうものなんですか?」


「ここじゃ常識さ」


「なるほど、勉強になりました」


 何しろ僕はここに来てまだ五日目。知らない事が多すぎる。ここは素直に先達に従っておこう。


「絶対に殺せ!十年前の悲劇を繰り返させるなっ!」


 キーラさんの後ろを歩いていると、やけに険呑な声が聞こえきた。声の出所を見ると、広場のような場所で鎧を着た人達が何人も集まっている。


「見つけ次第殺せ!見敵速殺だ!」


「はっ!」


「油断はするな!この私が深手を負わせたとはいえ、ヤツは化物だ!首を斬り落とし、心臓を潰し、四肢を叩き潰すまでしてやっとの勝利と思え!」


「はっ!」


「よし、行けぇっ!」


 鎧さん達の前で一際豪華の鎧さんが怒鳴るようにそう言い放って、鎧さん達は各方向へと散らばっていった。


「なんか物騒ですね」


「そうだな」




 ☆




「うわぁ……すごぉ……」


 めちゃくちゃデカい葉っぱを手でどけながら、僕は前へと進んでいく。


 ライオット大森林。探索都市から最も近くにある未踏地らしい。


 未踏地といってもここら辺はほぼほぼ探索されたらしく、浅い場所なら詳細な地図や安全な道の情報も結構出回っていて危険性は少ないそうだ。


 といっても、やっぱり凄い場所ではある。木、葉っぱ、虫、果実、何もかもがデカい。僕の村も自然に囲まれた場所ではあったが、流石にこれとは比較にならない。


「こっちの道で良いんですよね、キーラさん」


 探索気分を味わうべきだと言われて今は僕が前なので、後ろを歩く道をキーラさんにちょくちょく道の確認をする必要がある。


「キーラさん?」


 ただ、今回は返事が無かった。というか振り返ると誰も居ない。


「……キーラさん?」


 どうしよう。





 ☆




「迷子だこれ」


 とりあえず来た道を戻ってみると、全然違う開けた場所に出た。森にはある程度慣れてる筈だけど規模感が違いすぎて迷うのは当たり前だった。


「……」


 虫の声、葉が擦れ合う音、生き物の息遣い。


「え?」


 隣を見ると、木々の間から僕を見ているとても大きなイノシシが居た。というかツノがエグい形してるし足も太すぎるし確実に普通のイノシシじゃない。


 ぽかんと眺めていると、イノシシが僕の方へと突進してきた。


「ちょっ!?」


 慌てて横に思いっきり飛ぶ。そのまま僕の後ろの木にぶつかったのか、重いもの同士がぶつかる鈍い音が響いた。


「ヤバイ」


 ヤバイ。どう考えてもヤバイ。とりあえず逃げるべきなんだろうけど、足が竦んで動かない。


 なんかもう、頭の中で今までの思い出が物凄い速度で流れていってる。ちょうど今幼馴染みのラリーちゃんが僕の大事なところをふざけて手で鷲掴みにしたせいで悶絶した場面が流れてる。


 死ぬ。ここで終わり。再度こっちに向かって走り出したイノシシを見てそう思った。


「……あれ?」


 目を閉じて、その場に蹲っている僕。いくら待っても痛みも衝撃も無い。


 恐る恐る目を開けると、イノシシは横倒れになっていた。その体には赤い棒のような物が突き刺さっている。


「そこを、どけ」


 掠れがかった声。イノシシから少し離れた場所にその人は居た。


 身長は大きめだけど女の人であるというのはその長いくすんだ銀の髪で分かった。ただ顔色がとんでもなく悪く、分かりやすいくらい頬がこけている。


 それよりも服だ。何かに斬られたような跡が幾つかあって、色は真っ赤。というか多分血だ。


 総合すると、僕を助けてくれたのは今にも死にそうな女の人だった。


「あ、あの、ありがとうござ――」


「どけ、と言った。速くここから立ち去れ」


 女の人は物凄い目で睨みつけてくる。その風貌も相まってかなり怖い。


「いやでも、それ……」


「……ぐ」


「あっ!」


 そうこう言ってる内に彼女は倒れた。側から見ても立ってるのが不思議なくらい血だらけだったし、むしろ立ってた方がおかしい。


「大丈夫ですか!まだ諦めないでください!」


「アレの……ち……を……」


「安心してください!僕、回復魔法使えるんで!」


 倒れた彼女に近づいて魔法を使う準備をする。


 命を助けてくれた恩人を、今度は僕が助ける。回復魔法を覚えておいて良かったと心の底から思える状況だ。今までは小さな切り傷とかを治すくらいにしか使ってこなかったから。


「……やめ……」


「いきます!」


 イノシシへと手を伸ばして何かを呟いている彼女。多分意識が朦朧としているんだろう。僕はすぐさま彼女へと魔法を向けた。


「っ!」


 光に包まれた彼女の姿が、みるみる内に癒されていく。

 服の切れ目から見える傷は塞がり、青白かった顔色は健康的な白さを取り戻していく。


「これは……」


 頬が血色を取り戻した辺りで、この人がとんでもなく奇麗な人だった事が分かった。


 枯れ木のようだった腕は健康的に。銀色だった髪は何故か色艶のあるきらきらとした金色に。背中には大きくて黒く、刃物みたいに刺々しい羽根がいくつも重なった翼が生えていた。


 ……翼?


「……お前、何者だ?」


 彼女は砂埃を払いながら立ち上がり、訝しげな顔で僕を見る。さっきのイノシシとは比べ物にならない何かを感じる。細まった目の瞳の色は奇麗な赤色で、喋る時に開いた口から鋭く尖った犬歯が見えた。


 どうしよう。どう見てもこの人、普通の人間じゃない。






――――――――――――

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