★異種融合・分離

 カプセルの中は黄金に輝きだした。中に入れられたクモの少女のシルエットが、見えるだけになる。そのシルエットは次第に変わり、クモの足が小さく、なくなっていく。そして、もう片方のカプセルに新たなクモの影が現れた。


 装置は止まり、二つのカプセルの中に、人間の少女と小さなクモがそれぞれ入っていた。


「成功だ」


 シャドウは嬉しそうに言った。少女側のカプセルに近づくと、そのカプセルを少女ごと取り外した。彼女の顔を見て、首をかしげる。


「意外とおとなしいな。害宙が混じっているから、てっきり暴れだすと思ったんだが。それではレオンくん。次はタコとクモの融合に取りかかるから、この女の面倒をよろしくな」


 シャドウはカプセルをレオンに押しつけた。身長より大きなカプセル。レオンは抱きかかえるように受け取った。さらにシャドウは殺害宙スプレーを取り出し、スプレーのノズルを取り替えると、カプセルに突き刺した。


「少しでも異変があったら、このトリガーを迷わず引くんだぞ」


 シャドウは少女を危険視しているようだった。しかし、カプセルの中の少女は何もしゃべらず、じっとしている。レオンは、ガラス越しに、腕の中の少女と目を合わせた。その彼女の目から一筋の涙が流れ落ちていることにレオンは気づいた。流れた先の口元がかすかに動いている。ありがとう。そう言っているようにレオンは見えた。


 一方シャドウは、タコの体にコードを貼り付けて融合の準備をしていた。


 準備が終わると、タコに最後の確認をする。


「本当にクモと一体化していいんだな」


「もちろんだ。彼女とずっと共に生きられるのならそれでいい。彼女も同じ気持ちだ」


 タコは力強く頷いた。


「そのクモに、そんな意思があるもんかね」


 シャドウは、小さなクモをチラリと見た。ちょこまかと動き回り、さっそくカプセルの中に糸を張っている。タコのことなど気にもかけていないように見える。しかし、人間と融合されていたことで、クモにも心が生まれていたのかもしれない。しかし、今となってそれを確かめる気にはならなかった。


「まあ、いっか。スイッチオン!」


 シャドウは勢いに任せて、異種融合装置の電源を入れた。再び黄金の光を放つ。小さなクモの姿が消え、タコのしなやかな足が、角張った足へと変化していく。光が消えると、生まれ変わったタコが目の前にいた。


 タコの頭には、新たな目が複数生まれ、足の一部がクモの足に変化していた。タコは、クモの足になった箇所を愛おしそうに撫でている。


「これで彼女とずっと一緒だ。ありがとう。約束通り、この装置は返そう。私にはもう必要ないものだからな」


「よっしゃ」


 シャドウは異種融合器に飛びつくと、軽々と持ち上げ、えっほ、えっほと宇宙船の中に運び込む。残されたレオンはタコに話しかけた。


「君はこの後どうするつもりなんだ? 巨大タコの目撃情報で、世間は大騒ぎだ」


「どこか遠い宇宙でひっそりと暮らす。騒ぎも時が経てば皆忘れるだろう」


 タコは体をひねって、向きを変えた。その目線は、地球に向かっている。


「人間は嫌いだが、地球は好きだ。この目に焼き付けてから出発する。さらば、人間よ」


「さようなら」


 レオンはそれだけ言って、宇宙船に乗り込んだ。


「じゃ、さっさと帰るか」


 シャドウが宇宙船を動かすと、機体は一気に上昇した。レオンは窓の外からタコを見た。タコは宇宙船を見上げて、手をゆっくりと振っていた。遠く、小さくなっても、その振る手の動きは止まらなかった。

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