ブラストラン・ギャラクシー

桃花西瓜

1話 カビ星人事件

★レオンの日常

「カビ星人がまた輸送船を襲ったぞ! 突入班はすでに出発済みだ! 俺たちも出動だ!」

「了解です!」


 上司の叫びとともに大勢がオフィスから出ていった。レオンは上司の元に急いだ。今日こそは現場に行けると思いながら声を出した。


「俺も行きます!」

「お前にはまだ早い。お前の仕事はパトロールだ。よろしくな」


 レオンの上司は冷たく言い放った。上司は岩石星人だ。彼の体は灰色岩でできており、頭に鋭い角が生えていた。レオンの胸にデバイスを押し付ける、上司のごつごつした手の感触が伝わる。受け取ると球体のデバイスが開き、中からリストが映し出された。


「わ、わかりました」


 しぶしぶとデバイスを仕舞った。落ち込むレオンの肩をよろしくと叩くと、その硬さにレオは痛みを覚えた。上司はオフィスから出ていった。寂しくなったオフィスで、自分も現場に出たい。そう心の中で嘆き、レオンは肩をさすりながらデスクに戻った。そして必要な荷物をまとめた。


「あらら、今日もパトロール?」


 レオンの隣から、ふふっと笑い声が聞こえた。レオンの同僚のミウさん。事務の彼女はここに残っている。彼女はスライム星人。顔のない流動な体をもつ彼女はおしゃれ好きで作り物の目をつけている。その目を細めて笑った。


「警察になってからずっとパトロールですよ。ガン警部補は地球人を見下しているからだ。はあ、俺も事件にかかわりたいよ」


 レオンは窓から地球のある方角を見つめながら、胸に重いものを感じてため息をついた。地球はかつて宇宙人に救われたが、彼らの支配下に置かれている。地球人はほかの宇宙人に劣ると感じていた。レオンもその一人だ。レオンは地球人枠で宇宙警察に所属している。下駄をはかされているなか、役に立とうとしているが、現実は甘くない。


「今がふんばりどころよ。ほら、これあげる」


 ミウさんはレオンをなだめるように虹色の飴を渡した。レオンは受け取ると口に放り込む。口の中の味が次々と変化した。


「ありがとう、ミウさん。じゃあ、行ってきます」


 元気をもらったレオンは軽く敬礼してオフィスを出た。



 ★



 レオンは宇宙船車うちゅうせんしゃに乗り込んだ。宇宙船車は、飛行車に潜水機能や宇宙飛行の機能を加えた一般的な乗り物だ。レオンはコックピットに座り、モニターに映る各種のボタンやレバーを見回した。飛行モード、潜水モード、宇宙モード。レオンが宇宙モードに設定すると、宇宙船車は自動で動き出す。

 運転を飛行船車に任せて、レオンはリストを見た。


「不正貨幣取引現場の見回りか……」


 レオンは最悪と頭に手を置いた。その場所は治安が悪く、地球人であるレオンは絡まれやすい。地球人はかつて地球人同士の争いで滅びかけた。その蛮行が原因で、ほかの宇宙人に今でも地球人は差別されている。今から行く場所は特に多い。絶対に上司の嫌がらせだと恨み、目的の星に向かった。


 噴き出すガスの中に飛行船やコンテナをつなぎ合わされてできた建物が見えてきた。ガスの噴き出す無人の星に流れ着いた無法者たちが作り上げた街だ。レオンはその街に何度も来ているが、毎回、街の住人たちから絡まれる。レオンは不安の中で宇宙船車を降りると街に入った。


 ガスに紛れて金属がぶつかる音や機械が動く音、そして人々の話す声や笑い声が聞こえてくる。レオンが街を歩くとすぐに住人たちの視線を感じた。住民たちはレオンをチラチラと見てささやき合った。この感覚はもう慣れている。気弱なところを見せると絡まれると、気を強く持った。

 視界の悪いガスの中からレオンに向かってわざとぶつかってくる者がいた。避けようと右に移動するも追従され、ベチャっと水の音を立ててぶつかられる。


「おやおや、雑魚地球人のおまわりさんじゃないですか」


 魚顔の宇宙人が口をゆがませ、ひれの手でレオンの頭をペチペチと叩く。


「見回りですよ。フィッシュラさん。不正貨幣が本当にこの星から消えたかどうか確認するだけです」


 レオンは冷静に答えた。不正貨幣という言葉を聞いて、フィッシュラは口をへの字に曲げ不満をいった。


「けっ、俺たちの貨幣を取り上げられてから生活のレベルが最低になったよ。宇宙連合様御用達の金は厳重管理で使いにくいったらありゃしない!」


 フィッシュラはひれをひらひらさせて、お金がないことをアピールした。そしてレオンの腕を掴むとにやにやと笑った。


「おまわりさん。お前は結構ため込んでいるんじゃないか?」


 ひれでレオンの手の甲を叩く。しかし、それ以上は何もしない。お金を出せとの素振りもない。それもそのはず、宇宙共通のお金は光のデータで管理されている。人体は財布代わりにお金が保管され、宇宙銀行にも保管されている。

 レオンがそのままじっとしていると、つまらなそうにフィッシュラは手を離した。


「気は済みましたか?」

「ふん、素晴らしいセキュリティでございますね。常にお金を監視されてさぞ安心でしょう」


 フィッシュラは舌をだして、皮肉を言った。


「その様子だと不正取引はなさそうですね」


 レオンははやく仕事を終わらせたかった。リストにチェックを入れると立ち去ろうとする。


「おいおい待て待て、おまわりさん。困っている人を助けるのが仕事だろう? 助けてくれないか」


 フィッシュラに呼び止められて、立ち止まる。お願い事とは珍しい。レオンは興味をもった。


「助けてほしいこととは何ですか?」


 フィッシュラは後ろを見ると手で合図をした。影からレオンをこそこそ見ていた者たちが集まってくるのが見えた。ぞろぞろ来る彼らを見てレオンは警戒し、腰につけた銃の近くに手を置いた。

 集まってきた者の中から一人がレオンに近づいた。手には壊れた機械を持っている。レオンの顔の前に持っていき、中身を見せる。


「これは最近墜落した最新型宇宙船のキャスクだ。フエルソン鉱石が入っていたが、それが盗まれた。盗んだ犯人を捜し出してくれ」


 フィッシュラはレオンの肩をペチペチと叩く。レオンは困った顔をした。まだ他の星での仕事が残っているし。それに一人で調査なんて勝手にできないし。レオンは肩の手をどけるように言った。


「わかりましたよ。いったん警察署に戻って報告しますね。調査はそれからです」


 レオンの返答を聞くと、フィッシュラは全身のひれを震わせながら怒る。周りの者も同様だ。


「宇宙警察の奴らが俺らの依頼を受けるわけないだろう! 見捨てられた者の集まりなんだよ、この星は! おい、雑魚地球人。運良く宇宙警察になれたからって調子にのっているだろう。犯人を見つけるまでは、お前をこの星から出させないぞ!」


 そういって、ひれで遠くを指した。その方向を見ると、レオンの宇宙船車がガラクタで覆われ、宇宙人たちが囲っている。レオンの顔をひれが挟み、向きを変えさせられる。フィッシュラの顔が近い。


「頼んだぜ。おまわりさん」


 レオンの顔を両ひれでペチリと叩くと、彼らは持ち場に戻っていった。

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