第52話 老害オブジエンド

『お初にお目にかかる、貴様がジャッジメントとか言う小僧かね?』


「……誰だアンタ」


 タブレットに映し出されたのは初老の傲慢そうな男だった。


「私は保科ほしな、ダンジョン環境大臣をやっている」


「そんなお偉いさんが何の用だ? 一般人を射殺してまで」


『射殺? そうか、口を割られても困るのでな。この件が終わり次第関係者は全て処分すると決めてあったからな』


「なん、だと――?」


『聞けばその男共はダンジョンにてぴーけーなる迷惑行為を行っていた者達だそうじゃないか。ダンジョンは危険だが大事な資源の採掘場だ。そこを訪れる勇猛果敢な国民達を殺して回る集団なぞ、害悪でしかないのだよ』


「だからと言って!」


『ふむ。なぜ怒る? 君はぴーけーを殺して回るぴーけーけーだと聞いたが、君がしている事と変わらないだろう? 調べた所そいつらは税金も納めない、年金も払わない、健康保険料だって未納。犯罪歴も多数だ。国に全く貢献せず、悪さを働く社会不適合者、反社会勢力などいらないとは思わんか?』


「俺はダンジョン以外でPKを倒したことは無い! ダンジョンでは死なない!」


『そうかそうか。まぁいい、さっさと本題に入ろうか――ジャッジメント君、君のその力を政府に還元したまえ』


「は……?」


『君は銃火器が使えないダンジョンの中で唯一、文明の利器たる銃を使用する事が出来るだろう? 人類が生物の頂点たりえるのは銃火器のおかげだ。それを一個人が所有するなどあってはならないのだよ』


「言ってる意味が……わからないのだが」


『君のジョブ、だったか? ガンナーというのは君が持つ武器によるものなんだろう? だからその武器を私に寄こせと言っているのだよ』


「断る、と言ったら」


『それは困ってしまうな。どうしたものか……君を拘束し、身元を特定したうえで君の持っているアイテムを全て差し押さえる事になってしまうかもなぁ』


「貴様……! 横暴が過ぎるぞ!」


『横暴ではないよジャッジメント君。これが国を、ダンジョンを預かる者としてやるべき事なのだよ。国民は管理されてこそ国民足りえる。国の為に役立つからこそ、国民足りえるのではないかね?』


「この……! 度し難いぞ貴様!」


 こんな事で、こんなクソな大人に阻まれるってのか。

 俺はまだ何も成し遂げていないというのに、こんな――。

 

「翆ちゃんを拉致させて、俺をここに誘き出させたのも、アンタの差し金か」


 怒りで震える口調を出来るだけ抑えながら、俺は言葉を紡ぐ。

 聞くべき事を聞かなければならない。


『そうだとも。ゴミはゴミでも有効活用しなければな?』


「それが大人のやり方ってわけかよ」


 政府に利用されて、用が済めば殺されるというのか。

 確かにPK共は憎い、この世から消えてなくなるべきだとは俺も思う。


 だがしかし、これは違うだろう。

 こんな事が許されていいはずがない。


『コノミン。大丈夫だ。すぐに警察がそっちに向かう』


「……だとしても、相手は政府だぞ」


 隼人が何を企んでいるのかは分からないが、所詮警察も政府の犬には変わりない。

 警察が来た所で俺の圧倒的不利は変わらない。


『ふふん。このボクを誰だと思ってる? それにコノミンは忘れてるのかもしれないけど――今は生配信中だぜ? コメントは大荒れ、掲示板も大荒れ、視聴者30万人超えの御方々が政府に抗議しまくっているさ』


「そう、か。だがだとしても――」


『はぁ、君って奴は……もっと偉そうにしたまえよ、傲岸不遜に笑い飛ばし、ふんぞり返り、偉そうに振る舞い、訳の分からない事で話を煙に巻きなよ。いつも君がやっている事だろう?』


「だがそれは――!」


『君の固有スキル。不屈なる夢想家の夢エンハンススターゲイザーの為だと言いたいのかい?』


「……あぁそうだ。俺は、俺が強くあるためにそうでなければならない」


『ならそれが君じゃあないか。君が君自身を否定するのかい? 君の目的はこんな所で諦められるような安いモノだったのかい?』


「煩いな……! 諦めるわけないだろう! 愛波まなみの為に! 俺は愛波をPKした奴を探し出して復讐しなければならない!」


 脳裏に愛波の笑顔が浮かぶ。

 俺と隼人、愛波はある日DBBに巻き込まれた。

 そしてモンスターが暴れまわる中に奴はいた――奴は、愛波を――。


『おい、何を一人でブツブツ言っているのかね』


 タブレットから聞こえる不愉快な騒音。

 偉そうに、自分は安全な所から見下して、国民を駒だとでも思っていそうな思考。

 こんな腐った汚物が、探索者の、ダンジョン関係者のトップでいいはずがない。

 俺が俺であるいわれを否定されていいはずがない。


「クックック……!」


『なんだ?』


「ハッハッハッハ……! ハァーーーッハッハッハッハァ! 愚か! 実に愚かだな老骨よ! 人の想いを踏みにじり、国民を蔑み、自身の駒だと思い上がる不届き者よ! 貴様には死すら生ぬるい!」


『……何を言い出すかと思えば。この期に及んでヒーローごっことはな』


「ヒーローごっこではない。我こそは闇より深き、暗黒の深淵からの使者。ヴォイドプレデターだっ! 貴様の悪行! しかと国民の元へ届けさせてもらった!」


『何を言っている……?』


「今も増え続けている同時接続数――約45万人、これが何を意味するかわかるか老害」


『はぁ……?どうじせつぞくすう?』


「それすらも分からぬとは、現代に生き遅れた膿は取り除かねばなるまい。そうだろう? 視聴者諸君!」


『ふざけるのもいい加減にしろクソガキ! 視聴者だと? テレビ中継などやっとらんわ馬鹿者が! 私に逆らうなどあってはならんのだ! ダンジョンは私の管理下にあるべきであり! それに付随する馬鹿共も私の管理下にあるべきなのだ! そして私はやがて国を統べる者となり! 世界をより良い方向へ導くべき者なのだよ! 分かったらさっさとその武器を渡し、どこへなりとも行くがいい!』


 どうやらお偉い様は俺の態度に業を煮やしたのか、とうとう全ての本性をさらけ出した。

 

「チェックメイトだ」


 俺はホルスターからデザートイーグルを抜き放ち、タブレット目がけて発砲した。

 タブレットの画面は強烈なゴム弾の直撃を受けて放射状にひびが入り、画面は黒く染まった。

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