第32話 ヴァルハラ会議
俺がコーチングを始めて約二週間が過ぎ、3人のレベルも順調に上がり続けていた。
「今日もありがとうございました! コーチ!」
「コーチングってこんなんだったっけ~甚だ疑問~でもありがとう~」
「瑠璃ってばめっちゃ強くなってる、これは事実」
ダンジョンから出た俺達は、近場のファミレスにて晩御飯兼反省会を開いていた。
テーブルの上にはドリンクバーのグラスが並び、思い思いの飲料を嗜みながら注文した料理が来るのを待っていた。
「それでは第124回、ヴァルハラ会議を行う」
テーブルの上で手を組み、口を隠すような、いわゆる司令官ポーズで俺は呟く。
このポーズで話す事、それはいわゆる俺がトップであると、明確にかつ暗喩的に、慎ましくそれでいて大胆に周囲に伝える事が出来るのだ。
「そんなにやってないって~」
「瑠璃、最近気付いた。コーチって結構適当」
「あ、瑠璃ちゃんもそう思う? 私もそう思ってた!」
「今回の議題は固有スキルだ」
「よっ! 待ってました!」
「幾度となく情報をちらつかせては『まだ知る時期ではない』キリッとか言って~散々焦らされた~」
「焦らしプレイ、とても卑猥な響き」
「卑猥ではない――全く、少しは真面目に話を聞くのだヴァルキューレ達よ」
はしゃぐ三人を嗜めるように俺は静かに諭すように呟く。
そしてテーブルの上にキャンパスノートを出し、サラサラと文字を書いていく。
「ほぉ? ヴォイドさんて可愛い字書きますね? 可愛いですね?」
「丸文字~」
「瑠璃は意外性、いわゆるギャップ萌えという感情が芽生えました。萌えてはいないけど」
ダンジョンの中では灰になりそうなくらい燃え尽きていたのにも関わらず、どうしてこう女子はキャピキャピとこうるさいのだろうか。
風吹さんはダンジョン関連の雑誌を見ながらのんびりしていて我関せずって感じだし。
「はぁ……まぁいい。それで固有スキルってのはな――」
しゃべり続ける3人を無視し、つらつら文字を書き出していく。
「読んで字の如し、それぞれ個人が発現する特別なスキルであり、似たようなものはあれど基本的には唯一無二のものだ」
「個人の……個性みたいなものですか?」
「確かに個性的なスキルが多いが……個性とは少し違う。スキルの内容はその個人の強い思いや行動、癖や習慣から決められる」
「でもそんなスキルの話聞いた事ないですよ~?」
「瑠璃も、沢山勉強してるけど、聞いた事ない」
目を合わせて「ねー?」みたいに首を傾げる3人だが、こればかりはしょうがない事だと思う。
固有スキルに関しての情報は殆ど開示されない。
それは高レベルの特権であり、かつ個人情報となるからだ。
そしてその取得方法はまだ明確には判明していないのだ。
「基本的に固有スキルが発現するのはレベルが1000に上る頃だ。俺も、風吹さんも持っている」
「そうなんですか!? 聞きたい聞きたい!」
「待て。その前にお前達のレベルはいくつになった」
「私佐藤祈! 今日で晴れてレベル999になりました!」
「私はね~997だよ~」
「瑠璃は998」
「早いなぁ! 俺の時は二年、いや三年はかかったぞ! それをお前さんら、数週間で1000の大台に行きそうとはな!」
そう、俺はブラックサレナの恩恵で異常な速度でレベルアップを続けているが、普通の速度であれば1000レベルまで上がるのに風吹さんクラスでも数年はかかる。
このパワーレベリングも俺の殲滅力と風吹さんの驚異的な治癒力があるから出来る事だ。
あぁ、あと隼人が頑張って作ってくれた三人専用のワンオフ装備も、かなり恩恵があるはずだ。
三人の装備、武器も防具もアクセサリーも、全ての素材は高難易度ダンジョンの深層で彼女たちが命を懸けてゲットしたものだ。
ちなみにデザインは俺が考えた。
戦女神を連想させるこの装備はヴァルキュリアシリーズと銘打っている。
羽が付いたヘッドギアに金と白の意匠が施された鎧にガントレット、グリーブにも小さな羽がついていて、どこからどう見ても――。
「あの、ヴォイドさん聞いてます?」
「ん? あぁすまん。ちょっと
「あ、はい」
「一番有力な説が【想いの強さ】だ」
「想いの強さ、ですか」
「そう。ダンジョン内でスキルや魔法が発現するのはダンジョン内に満ちている高濃度のエーテルのおかげだ、という話は前にしたな」
「聞いたよ~」
「そのエーテルこそが人の想いを概念に変化させる触媒なんじゃないかという説があってな」
「あ、それは聞いた事あります。魔法を使いたい、習得したいと強く考えながら戦っていると魔法を会得している。みたいなお話ですよね」
「そうだ。一回攻撃が二回攻撃になればいい、三回攻撃になったら凄い、と思いながら戦っていると、二連撃や三連撃の剣技を習得したり、とな」
「で、その延長線上にあるのが固有スキルって事~?」
「そう考えてもらって構わない。だが固有スキルに関しては明確な基準がない。こうなりたい、という想いが1000レベルまで続くとも思えないしな。恐らく――これは隼人の仮説だがレベルが1000に到達するまでに培ってきた色々な想いの集大成なんじゃあないかって事だ」
「ふむふむ」
「1000になったから絶対に発現するとは限らないが……三人の想いはきっと強いはずだ。己を信じ、スキルと向き合うのだ」
「はい! コーチ!」
「おけまる~」
「瑠璃はきっと出来る。ありがとうコーチ」
こうして1000レベル目前の会議は終わり、テーブルに運ばれてきていた料理も気付けば全て無くなっていた。
うたたねをしていた風吹さんを起こし、解散となったのだった。
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