第25話 Day1 顔合わせ

 そして当日、約束の地へと赴いた俺だったが、自分の覚悟がいかに脆弱であったかを思い知らされた。


「おい、あの子らバチクソ可愛くない?」

「隣にいるの誰? まさか彼氏?」

「うわ、マジ可愛いな……」

「三人とも可愛さレベルカンストしてね?」

「マスク詐欺だって絶対、目だけ可愛くても他がなぁ」

「お前そのセリフ全女性敵にしたぞ」


 駅前を待ち合わせの場所に選んだのが悪かったのか、周囲の男の視線が俺にグサグサと突き刺さってくる。

 

「や、やぁ佐藤さん」

「ヴォイドさん! こんにちは! 今日はよろしくお願いします!」


 佐藤さんはそう言ってぺこりと深くお辞儀をし、横にいた二人は軽い会釈をした。


「初めまして、瑠璃、です」

「こんにちは~ヴォイドっち~」


 佐藤さん達はマスクをしていたけれど、俺に会うなりマスクを外した。

 素顔を晒したら身バレするのではと少しヒヤッとしたけれど、三人とも元の顔と微妙に違うふうに見えるメイクをしていた。


 その途端、周囲のヒソヒソがさらに増した。

 

「何あの男、羨ましすぎ」

「撮影かな? モデルなんじゃん?」

「そこ変われよ」


 俺に対する敵意がもの凄い。

 人から注目される事が無かった俺からするとこの視線の槍は少々きついものがある。


「さ、三人ともこっちへ……」


 多少メイクで顔を変えているとはいえ、その美貌は変わらないままだった。

 三人三色、系統は違えど、その系統ではトップの可愛らしさを持っていた。

 そんな三人を引き連れているのがこの俺なのだ。


 周囲の意見もごもっともである。

 なるべく視線を気にしないようにして、三人を近くのファミレスへと連れて行った。

 

「お待たせ隼人、風吹さん」

「おっつー」

「おう! 待ってないぞ! 今さっき来たところだからな!」


 二人には先にここで待っていてもらい、後から俺が三人を連れてくる手筈になっていた。


「佐藤祈さん、高橋瑠璃さん、田中翆さんだ」

「佐藤祈です! 今日はよ、よよよ!?」

「高橋瑠璃、です。って……」

「田中翆だよ~、ね~祈ちゃん、何か凄い人がいるよ~?」


 テーブルに三人を連れ、紹介すると三人の様子が少し挙動不審になってしまった。


「有林寺隼人です。いやぁコノミンから聞いた時は頭でも打ったのかと思いましたよ」

「ほう! 生で見ると一段とべっぴんだ! 風吹剛三郎だ! よろしくな!」


 隼人と剛三郎さんには事前にきちんと説明しておいたので、特に変わった様子はない。

 けれど佐藤さん達三人はただでさえ大きい目を更に大きく見開いて固まっていた。


「ちょっ、ちょっとヴォイドさん!?」

「どうしたんですか?」


 佐藤さんは俺の耳に口を近付けて囁くように言った。


「だって! あの世界的大英雄、風吹氏とダンジョン界隈では知らない人はいない大天才、有林寺隼人氏じゃあないですか!」

「あはは、びっくりさせたくて……でも会っておいて損は無いはずです」

「ひー! やっぱりヴォイドさんは色々規格外です~~!」

「た、たまたまですよ」

「ていうかずっと思っていたんですけど、あの偉そうな喋り方はどうしたんです?」

「え、あぁ。何かかしこまってしまいまして……あはは……」

「いつも通りのヴォイドさんで大丈夫ですから! 瑠璃と翆もそこは理解してます!」

「そうですか? なら、わかりました」


 俺はんん、と咳ばらいをし、猫を被るのを止めた。

 カチコチに緊張している三人をとりあえず席に座らせ、ドリンクを注文した。

 

「それでは皆の者! 第1回理想郷への願い《オプターレアルケイディア》を始める!」

「はいさっそく意味不な名称キタコレ」

「茶化すな隼人、これは未成熟な雛鳥達を険しいダンジョンという魔の手から救うべく発足された議会なのだから」

「はいはい。わーかりましたよ」

「だっはっはっは! 相変わらずだなぁコノは!」

「か、カッコイイ……」


 そこへ店員さんが来て、気まずそうな顔をしてドリンクをテーブルの上に並べていった。

 俺は勿論ほうじ茶ラテ、これがまた格別なのだ。


「動画では知ってたけど~実物はもっと癖強いですね~」

「わかる。瑠璃ちょっと、困惑してる」


 こうして最初にして最後かもしれない意見交換会が始まったのだった。

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