第13話 上野ショップイン厨二
日本有数のダンジョン発生率を誇る上野、関東圏でも五本の指に入るダンジョン競合エリアであり、今日は上野のダンジョンショップに来ている。
PKから奪ったアイテムや装備品、モンスターから剥ぎ取った素材やドロップ品を売り飛ばしに来たのだ。
作戦遂行には金が必要だ――とは言ってもアイテムや装備のほとんどは隼人のお世話になっているので、俺が必要なのはアパートの家賃や水道光熱費、食費や娯楽費などの生活費だけなのだが。
上野もそうだが、ダンジョン発生率の高い都市は様々なダンジョンショップが集まる傾向にあるし、何より店舗数が多い。
虚空ストレージに制限は無いけれど、素材やドロップは勿論PK共の装備品やアイテムは結構な量があるので一つの店舗では売り切れない。
「よぅにーちゃん。毎度」
「また会ったな店主よ、今回もクロノスの導きによりいい値段で買い取ってくれたまえ」
「相変わらずだなぁあんちゃん。だがあんちゃんの持ってくるのは質が良いからな。こっちも助かってんだ」
「クックック、当然だろう。質の悪い素材なんて信用問題にかかわる、得意先と言えどそれは変わらないからな!」
「それで、今日は何を持ってきてくれたんだい」
「あぁ、これとこれ、それとあれと……」
隼人の研究所で仕分けしていた分を虚空ストレージから出してカウンターに並べていく。
こんな感じでいくつもの店舗により、売りを進めていた所、見知らぬ女性に声を掛けられた。
「あの、いきなりすみません。人を探しているのですけど」
「はい?」
目鼻立ちのはっきりした可愛らしい少女がそこにいた。
少女はサングラスにマスクをしていたが、俺が振り向くとサングラスを外して続けた。
「名前は多分ヴォイドさん、日本人だと思うのですけど……」
「……あぁ」
何で俺の事探してるんだ? てか誰この子……ってあ、まさかこのリボン。
このリボンには見覚えがある。
確か佐藤祈、アイドルグループの人だったはずだ。
そんで俺が助けた事になってる少女。
「あの、聞いてます?」
「……あぁ」
今日は一応仮面を付けてきているから俺だと分からないんだろう。
だがどうする? ここで本人ですが? と名乗り出るか?
いや相手は人気アイドル、俺なんかが関わっちゃいけない人間だろ。
「私上野でその人に助けられて、ここに来ればもしかしたら会えるかなーって思ってたんですけど人多くて……あはは」
「……会ってどうするんですか?」
「お礼を言いたいです。それとお食事も行きたいです。それとカラオケとか、お買い物もしたいです、それからそれからダンジョンにも行って、配信もしたいです。それから――」
「ちょちょちょっと待ってくれ!? お礼は分かる、けどそれ以外って君のしたい事じゃないか」
「あ、そうですよね……どうしたら喜んでくれますかね? 良い装備とかアイテムとか貢いだら嬉しいですかね?」
な、なんなんだこいつ……! アイドルってみんなこうなのか?
「と、とりあえずお――私は知らないね。探索管理局とかそういう所に行ってみるのもいいんじゃあないかい?」
「は! なるほど! 探索管理局なら住所とか分かるかもしれませんよね?!」
「いや……住所まではさすがに個人情報だから教えてくれないと思うけど」
「でも行くだけ行ってみます! ありがとうございました!」
そう言って佐藤祈はすたこらと駆けていき、あっという間に人込みに紛れてしまった。
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