第5話 バズっちまった

「黄昏より出でし混沌の破壊者よ、目覚めよ! 今こそ絶対恐怖を」

 

 翌日の朝、不吉なセリフと共にけたたましいアラームを鳴らすダークネス目覚ましをぶっ叩いて止め、のそのそとベッドから起き上がる。


 寝ぼけた目をこすり、洗面台に行きお気に入りの歯ブラシで歯を磨く。

 ぼけっとしたまま口をすすぎ、顔を洗ったあとはもう一度ベッドへダイブ。

 そのままテレビのスイッチを付け、スマホをいじる。



『えー先日発生したアイドル強姦殺人未遂事件について、どう思われますか?』

『そうですねぇ、現場はダンジョン内、証拠の動画もあるそうですが警察は動かないようですねぇ』

『その件については警察に対し抗議の電話が絶えないようですね』

『相手が相手ですからね、いくら変装していたとはいえ、警察の対応は相変わらずですねぇ』

『それと救助に現れた男性ですが、彼もまた犯罪者と呼べるのでは?』

『人命救助とはいえ、皆殺しにしたわけですからね、ダンジョン外であれば過剰防衛という事にもなりますが――しかしながらこちらに帰還した際、命を失っているわけではない、というのが公式見解ですので何とも言えませんね』



 アイドル強姦殺人未遂ねぇ、とテレビの音声を聞き流しながらネット記事を見ているととんでもない事に気付いた。



「これ……俺じゃん」



 ネット記事の一番上には数分の動画が載った記事が掲載されていた。

 そしてその動画の中に映っていたのは紛れもないこの俺だった。


 一応顔はモザイク処理されていてプライバシーは守られているけれど、このマントにこの装備、間違いなく俺だ。


 少女を抱えたまま高笑いをしているこの男、どう見ても俺でした。

 嫌な予感がして動画アプリを開いてみると、案の定そこには昨日のダンジョン関連の切り抜き動画がわんさか載っていた。

 

「アイドルグループ平凡Dガールズセンター……佐藤祈(さとういのり)、生配信中にジャッジメントですの……? なんだよこれ」


 どうやら俺が助けた事になっている昨日の少女、あの子が超有名人であり、その配信中にあの事件が起き、俺が写り込んでしまったらしい。

 元の動画は削除されているようだけれど、その前に切り抜かれた動画がかなり拡散されているようだった。


 トイッターやチックタックを開いてもその動画ばかりが流れてくる始末。

 俺が呆然としていると、スマホから着信音が鳴った。

 相手が誰だかはもう分かる、見ないでも分かる。


「……俺だ。どうやら機関に見つかったようだ。至急オペレーションの変更を求む」

「あっはっはっは! その様子じゃもう見たみたいだな! よ! ヒーローさん!」

「うるせぇ……! こっちはそんなお気楽に出来るメンタルじゃねぇよ!」


 スマホ越しに聞こえる馬鹿笑いの主、有林寺隼人ゆうりんじはやとはこの事態が面白いらしく、ひーひー言って笑っていた。


「あははは! いやあでも困った事になったね。あの天使と言われる祈ちゃんを助けちゃったんだからねぇ」

「俺は知らなかった! そりゃ見た事あるなって思ってたけど! 微妙に顔違ったし!」

「そらあ君ぃ、祈ちゃんほどの有名人が何もなしに外歩いてダンジョンにいたら大騒ぎだって」

「でも配信してたぞ」

「それとこれとは別、メンバー限定配信だったみたいだしね」

「メンバー限定配信で同接20万ておかしいだろ」

「それがあの子の力なのだよコノミン」

「く……! 教えてくれハヤト! 俺は一体この先どうすればいい! 恐らく悪の手先ブラッドスクリムにもバレた!」

「ブラッドスクリム誰ぞって感じですわ。妄想乙ぅ」

「ぐぬぬぬぬ……!」

「ま、とりあえずモザイクされてるしお前を特定する事は出来ないだろ。強いて言うならマントとか服とか装備とか変えたらいんじゃね?」

「PKKは続けるぞ」

「それは構わないんじゃね? 俺だって共犯だし。一応犯罪じゃあないし?」

「お前はデータが取れるから、だろ?」

「あっははー! そうともいうー」

「チッ、分かった。今日から俺は纏う外套を変える。ダークブラックからブラッドレッドへ」

「頭痛が痛いみたいなネーミングやめろよホント」

「うるさい! これは俺のポリシーなんだっ!」

「相変わらずワケワカメ」

「切るぞ」

「オーキードーキー。んじゃバーイ!」


 ぷつ、と通話が切れる音が鳴り、俺はスマホを投げ出した。


「はぁ、参ったなぁ……」

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