第10話

『ソヴァ皇太子殿下、お久しぶりでございます。

 結婚おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。

 結婚式に参列できなくてたいへん失礼いたしました。

 私が参列しなかった理由を夫にお尋ねになったそうですね。「平民の出だから気後れしたのか、あるいは、自分を見ると感情をコントロールできなくなるからか」と。

 貴方はなんと酷いかたなのでしょう。夫はなにも知らないのに、どうしてそんなことを訊ねられたのですか。

 私の欠席理由はいたって単純なことです。

 忙しかったからです。

 先日の嵐で小屋の藁が飛んでしまったので、農夫に手伝ってもらって新しい藁を葺かねばならなかったからです。それも一つや二つの屋根ではないんですよ。

 夫がやることになっておりましたが、そんな理由で兄君の結婚式を欠席させるわけにはいきません。かといって王都まで往復すれば、日帰りということもできません。

 小屋の中にはお産が近いメーもおりますので、目が離せなかったのです。本当に、神に誓って、理由はそれだけですわ。

 報告はまだ続けたほうがよろしいのでしょうか。クジュキリー皇太子妃殿下の目に、万が一にでもとまったら、ご機嫌を損ねることになるのではないかと心配です。

 追記:メーというのはラーの母親であるヤギです。覚えていらっしゃらないでしょうから書き添えておきます。感傷に耐えるソーキより』

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