手と紙と毒

あかいかかぽ

第1話

『ソヴァ皇太子殿下、お元気でいらっしゃいますか。

 なんて、ちょっとおかしいですね。

 結婚式でお見かけしたばかりなのですから。

 ウドゥン王子と私が結婚式をあげるなんて、三日三晩経った今でも嘘のようです。生まれて初めて、裾をひきずるドレスを身に着けました。人生で最高の瞬間として死ぬまで忘れないことでしょう。

 ウドゥン王子はソヴァ殿下の異母弟とはいえ、数多いる王子の一人にすぎないとたかをくくっておりましたから、まさか国家行事の結婚式になるなんて思ってもみませんでした。

 国王陛下、大臣様方、各国のお偉い方たちにご挨拶するのはとても緊張しました。パレードで民衆に笑顔を振りまくのはもっと緊張しました。だって、みんながみんな、私たちに惜しげもなくお祝いの言葉を捧げてくるのですもの。まるで私が幸福の象徴のように見上げてくるのですもの。どう応えたらいいのかわからず頬が硬直しました。

 戸惑っていたら、ウドゥン王子が脇腹をくすぐったんですよ。びっくりしてしまいました。結果的には緊張がほぐれて自然に笑えるようになりましたが、ちょっとデリカシーがありませんわ。そうお思いになりませんか、ソヴァ殿下。

 女官部屋の狭い部屋に住んでいた私が、今では豪奢なお屋敷の女主人だなんて。

 変化がめまぐるしくて、ソヴァ殿下と語らった日々が何年も過去のことのように思えてしまいます。

 ソヴァ殿下、お寂しい思いはしておりませんか。

 私は殿下のお世話ができなくなって、とても寂しいです。

 思いの丈をすべて記していては便箋が幾枚あっても足りなくなってしまいますね。

 殿下に頼まれたとおりに、定期的にこちらの暮らしぶりを報告させていただきますね。

 貴方のしもべ ソーキより』            

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る