第42話 PHASE4 その8 壮観な金魚たちを見つめて

軽い食事を終えた後、再び3人は水族館を見回っていった。

水族館では珍しい、オットセイの展示だった。

もっとも冬馬は、アシカとアザラシとオットセイとトドとセイウチの

区別もつかない程度の知識だったが。

よく見たら、オットセイは意外と愛嬌のある表情をしているのがわかる。

岩場に上がって休んでいるもの、すいすいと水槽の中を泳ぐもの、

見飽きないもんだなと。


「ねぇ冬馬くん、オットセイの○○って精力剤になるんだってね」

「夏子、声が大きい」


流石に大声で○○と叫ばれたら恥ずかしい。

三人はそそくさとオットセイの展示場を後にした。



「ねぇ、こっちはペンギンがいるよ。可愛いねぇ」

三人はペンギンのいる展示場に行ってみた。

ここは都内の水族館のため、イルカのショーを行う場所もなく展示もないが、

その代わりにペンギンの展示には力を入れているようだ。

沢山のペンギンがいるのだが、それぞれに名前がついているらしく、

どの個体が仲がいいとかの相関図もある。

見た限りではまるで区別がつかないのだが……。


「ちょこちょこ歩いて可愛い♡夏子さん、一緒に見よ♡」

可愛らしいペンギンの姿を見て、安藤さんも夏子も大喜びだった。

二人のキラキラした笑顔を見て、冬馬は一緒に来てよかったと思うのだった。



「へぇ、金魚がいっぱいいる水族館って珍しいんじゃない?」

確かに金魚を大量に展示しているというのはあまり聞かない話だ。

パンフレットによると、日本でも有数の展示数なのだとか。

ワキンやリュウキン、アズマニシキ等、珍しいものから一般的なものまで

網羅している。大量の金魚が泳ぐ姿は壮観の一言である。


しかしながら冬馬にとっては、金魚はあまりいい印象は持っていない。

幼い頃、祭りの屋台でよくやった金魚すくい、

折角金魚を手に入れても数週間で死んでしまい、

悲しい気持ちになったことが何度もあった。

それ以来、金魚すくいにはいい印象を持っていない。

また人間の嗜好の為に品種改良を加えられていったのも、

冬馬にとっていい印象を持てない理由の一つだった。

まぁ、冬馬自身の勝手な考えなのだが……。


(そうはいっても、これは凄いな)


金魚に関していい印象を持っていない冬馬を見入らせるくらい、

鮮やかな金魚の水槽は壮観だった。

騒がしい安藤さんと夏子の二人も、無言で金魚が泳ぐ姿を見守っていた。


「私ね、金魚ってこんなに綺麗なんだなって思った」

安藤さんがボソッと呟いた。冬馬も同感だった。

今までは特に意識などしていなかった金魚が、こうも美しく見えるとは……。

新たな発見をしたなと冬馬は思っていた。

おそらく夏子と安藤さんもそう思っているのだろう。


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