第34話 PHASE3 その7 姉無双?

「ただいまぁ。あれ?お客さん来てるの?」

玄関から女性の声が聞こえてきた。


「あれ?お姉ちゃん、今日はデートで遅くなるんじゃなかったの?」

「俊明くん、急にシフトが入ったんだって。

一人急病で休んだからって仕事行っちゃった。ま、しょうがないけどね」

どうやら夏子の姉のようだった。夏子と同じぐらいお洒落な感じがする。


「もしかして、夏子の彼氏?まぁまぁな感じかな。」

「もう、お姉ちゃんたら。こちら北野冬馬くん。話していた彼氏よ」

「夏子の姉の朱美です。あら?一緒にご飯食べてたの?

もしかして変わり者のお父さんにも気に入られたのかなぁ?」

「もうお姉ちゃんたらぁ。お父さん、変わり者って失礼じゃない?」

「何言ってるのよ。私が生まれた時、夕焼けが奇麗だからって

夕陽って名前を付けられそうになったのよ。

流石にちょっとなぁって事で朱美になったって知ってるでしょ?」

う~ん、夏子に負けず劣らずの姉だなぁ。


「わたしだって、生まれたのが夏で暑かったから夏子って名前付いたんだし。

でもこの名前は嫌いじゃないよ」


「まぁそれは置いといて……。冬馬くんだったかしら、私とお話しましょ」

「お姉ちゃんは先にご飯食べて来てよう……」

まさか姉がいるとは聞いていなかったが、う~ん、賑やかだなぁ。


「でさぁ、冬馬くんの名前の由来ってあるの?」

「冬の寒い中でも力強く駆け抜ける雄馬のように育ってほしいって

名づけられたのは聞いています」


冬馬はそう答えたが、これは表向きの理由で、本当の由来は、

母親が大好きだった漫画のタイトルから拝借したって後から聞いて、

何とも言えない気分になった事は覚えている。

父親は無頓着だったから、母親に任せたんだと想像できるが、なんだかなあと。

こんな感じで、夏子の姉である朱美と談笑したのだった。



「あ、そうだ。ねぇ冬馬くん、お風呂入ろっか。背中流してあげるね」

「朱美さん、そういう冗談はちょっと……」

「いーじゃん。私は冬馬くんと一緒にお風呂入りたいの。

それにさ、私の身体を見て興奮しない?」

「……それは、まぁ、少しだけ」

「やっぱり冬馬くんも男の子だね。じゃあ決まり! ほら、早く服脱いで!」


「お姉ちゃん!!」

流石に冬馬と朱美がお風呂に入る事には夏子も許せなかった。

「じゃあ、3人で仲良く入ろ♡」

「お姉ちゃん!!怒るよ!!」

どこまで冗談かわからないなぁ。流石に本気ではないのはわかるが……。


「お邪魔しました」

晩御飯もご馳走になり、朱美さんとも色々話した後、冬馬は帰る事にした。


「週末まで会えないのね。寂しい」

夏子は泣きそうな辛そうな表情をしている。見ていて辛いものがある。


「大丈夫、週末なんてすぐに来るさ」

冬馬は一生懸命慰めている。


「また遊びに来なさいよ。私とも仲良くしよ♡」

どういうわけか知らないが、朱美さんにも気に入られた様だ。

ぼっち気質があるっていうのに何でだろう?


「お姉ちゃんとは程々に。わたしだけを見て」

夏子は口を尖らせている。


「大丈夫よ、冬馬くんを取ったりしないから。

ちょっとつまみ食いしたいだけ……」

「お姉ちゃん!!」


冗談とわかっていながら、流石にこの発言はないだろう。

「わかりました。朱美さんとも仲良くしましょう」

「もう、冬馬くん!」

3人で一緒に笑いあった。やっぱりいいな、こういうのって。



「今度こそ……。おやすみ……」

名残惜しかったが冬馬は夏子の家を後にした。

夏子の両親とは良好な関係を築けそうだ。

更に姉の朱美さんとも仲良くなれたし。

結果は上々で冬馬は満足していた。


(でも暫くは夏子もいなくて一人きりか。寂しいなぁ)

冬馬は、これまで一人でばかり行動していたので、

こんな感情を抱くのは意外だった。


(寂しいなんて感情、もう無くなっていたと思っていたけど、

自分にもあったんだなぁ)

夏子のいない生活、何だかぽっかり穴が開いたような気さえしていた。


(週末まで一人か……。大丈夫だろうか?)

そんな思いが冬馬の胸の中にはあったのだった。





○○○○○○


これで一つの山場となるPHASE3は終了です。

展開は非常に迷いましたが、双方認め合う関係に落ち着きました。

そして次の問題の解決をどうするかという話になっていく予定です。



ちょっとした補足。

夏子の名前の由来ですね。元気な娘をイメージしたら浮かんだこの曲から。


ツイスト「燃えよいい女」。歌詞に出てくるナツコを拝借しました。


https://www.youtube.com/watch?v=w7gfUlTT6VE


ついでに冬馬も。本編に出てくる母親が好きだった漫画は

萩尾望都さんの「トーマの心臓」。

そして冬馬の名前の元ネタになった曲が、

超マイナーなグループのフロマージュの曲の「トーマ」。

「トーマの心臓」にインスパイアされた曲で、凄く好きなんです。


https://www.youtube.com/watch?v=QZojIrqxwxE


次のPHASE4は、息抜き話になります。

ドタバタデート回?


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