第6話 何事も思い通りには行かないもの
私は雄二と話す時間を取れないでいた。あいつは昼休みは直ぐに坂口と一緒に学食に行き、午後の授業が始まるまで、ぎりぎり帰ってこない。
女の子の友達から雄二との事を心配されたけど、今はとにかく自分で解決して見せると言って協力するという申し出を断った。
下手すると雄二から隆との事ばらされるかも知れない。クラスの中では、雄二と私は相思相愛の仲という事になっている。
卒業までそうしていればいい位に思っていたけど、卒業半年前で、こんな事になるなんて。
授業の間の中休みも坂口が邪魔して会えない。放課後は直ぐに帰ってしまう。私も部活はもう終わっていて受験に集中する時期だけど、雄二と同じ大学に行かなければいいだけだし、多分あいつの行く大学に私は入れない。
そして私が大学に入ったら隆との事を両親に公にして付き合いを認めて貰うつもりだったのに少し計画が狂った感じだ。
とにかく今は、雄二と二人で会う事を考えるしかない。一度、放課後あいつを付けてみるか。面白いかもしれない。
俺は、月曜から始まった加奈子の執拗な接近に注意をしていた。何をしたいのか分からないが、とにかく話したくない。どんな事を考えているか知らないが、会えば気持ち悪くなりそうだ。
俺は、放課後、授業が終わると急いで教室を出て塾に行った。秋のクラスは始まっているけど、色々説明して何とか入れて貰った。国立理系のコースだ。
国立を狙うのは、加奈子が絶対に入れないという事と、せっかく勉学に励むなら、最高峰の学府で学びたいという欲求からだ。
塾は、学校の駅の直ぐ側にある可愛塾だ。入った初日、一講義目が終わった所で声を掛けられた。
「高槻君じゃない?」
「えっ?!」
俺が声を出せなくて驚いていると
「私が分からないの?同じ学校で同じクラスの一条千佳(いちじょうちか)よ。酷いなぁ」
「い、いや。一条さんとここで会うなんて想像出来なかったから」
「そうだよね。私も夏休み特訓にも顔を出さない君がいきなり同じクラスとは驚いたよ。あっ、また後で」
また後でと言われても…。
高槻雄二、高校に入学して直ぐに転校して、半年後に戻って来たという男の子。当時はいったい彼に何が有ったのか、噂話で盛り上がっていたけど、分かったのはご家族が事故で亡くなられた後、親戚の家から出て一人で住んでいるという事位だ。その経緯は誰も知らない。
当時は、背は高いけど、死んだような目が特徴的だった。でも近所の幼馴染、深山加奈子が近付いて仲良くなり、その後、恋人関係になったみたいだけど、最近、二人が遠のいた。理由は分からないけど。
まあ、私には関係ない。でもちょっと高槻君には興味があった。それはとても頭がいいという事。一年の頃から学年成績でいつも私の後にいる。でも一生懸命勉強している素振りも無い。元々頭の出来が良いんだろうと思っていたけど、まさか私と同じ塾に来るなんて。
どんな事情があるんだろう。ちょっと興味湧く。
塾が終わり午後八時になった。帰ろうと席を立つと一条さんの姿はない。さっき声を掛けて来たのは、見知った顔がいたから程度なのだろう。
高校一年の頃から目を引く可愛さがあった。ショートボブで目がぱっちりとしている。可愛い唇にスッとした鼻筋。女の子としては背も高い。多分百七十センチ位ありそうだ。
その上頭がいい。学年成績はいつもトップ。男女関係無く人気がある。特定の人がいるとか言う噂は聞いた事が無い。ただ成績で俺の目の前にいる。俺は別に順位なんか興味ないけど、いつもその点では凄いなと思っている。
そんな人が同じ塾の同じクラスにいるなんて驚かない方がおかしい。ただこのクラスには俺の知った人は彼女だけだったのがせめてもの幸いだ。ウザい奴がいると面倒だからな。
学校では、しつこく加奈子が俺に話しかけようとしているが、竜馬のお陰で凌いでいる。今度あいつに定食でも奢らないといけないと思う位だ。
こんな時間を過ごしながら土曜日になった。今までは洗濯と掃除をしたら、加奈子と会うのが当たり前だったけど、もう二週間もあいつとは口をきいていない、きく気もない。
あんな汚い女、近付かれるのも気持ち悪い。加奈子の両親には申し訳ないけど、もう加奈子とこうなった以上、深山家とも縁が無くなるだろう。
本当は引越したいけど、今いるここは俺の家族が一緒に住んだ家。俺の帰るべき所はここだ。引越す訳には行かない。
俺は、土曜講習で塾に行くと一条さんがクラスに居て、勉強をしていた。俺の顔を見つけると傍に寄って来て、
「ねえ、今日昼休み用事ある?」
「無いですけど」
「じゃあ、一緒に食べようか」
「えっ?!でも、俺なんかと」
「何言いたいか良くわからないけど、その雰囲気だと良いよね。じゃあ昼休みにね」
何の用事が有るって言うんだ?
午前の講義が終わり、クラスを出ると
「高槻君」
「一条さん」
「どこ行こうか?」
「午後もあるので軽いものがいいです」
「そう、分かった。じゃあこの近くにあるファミレスにしよか」
普段は学生が多いが今日は家族連れが多い。まあ土曜日だからね。俺がパンケーキとフリードリンクを頼むと、彼女も同じ物を頼んだ。
「こんなんで足りるの?」
「食事すると眠くなるし、夜一杯食べればいいから」
「ふうん、まあ君の自由だけど。ところで」
一度、彼女は言葉を切ってジッと俺を見ると
「高槻君が塾に来るなんて珍しいね?ちょっと気になる」
「珍しくないよ。俺高校に入って直ぐにここの受講生になったし。まあ事情で止めたけど、受験近いから来た。それだけ」
「なるほど」
深山さんと付き合っていた頃は、塾に見向きもしなかったのに…という所か。
「ごめん、変な事きいてしまった。気にしないで」
「別に気にしないですよ」
「ねえ、午後の講義は私も受けるんだけど、その後はどうするの?」
「自習室で勉強します」
「そっか。私もそうしよ」
俺に合わせるというより毎週しているんだろう。
そして午後五時になり自習室が閉まると
「ねえ、明日はどうするの?」
「明日ですか。洗濯して掃除して買い物して、午後授業に出ます」
「そうかぁ。ガンバってね。じゃあねぇ」
なんなんだこの人。
―――――
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