第三話 常夜の魔女と月門の男達
「ま、待ってください」
予想外の事態に蘭華は
「私は何も恨まれるような真似をした覚えはありません」
「黙れ卑しい無爵位者!」
「神妙にしろ魔女め!」
蘭華の弁明に男達はまるで聞く耳を持たない。
だから、蘭華には
「最初から貴様は信用ならなかったんだ」
壮年の男が剣の切っ先を蘭華に向けて
庶民の衣服である
名は
「この
「百合達は妖魔ではありません!」
いつもは温厚な蘭華が思わず声を荒げた。百合達を
「この子達は吉祥を
霊獣と同様に妖魔も魔力を宿しているが、聖なる霊格を持たず、人を襲い喰らう。しかも、人の善意に報いる霊獣とは違い妖魔は悪意を以て人を
「お前のような小娘に霊獣が御せる訳がない」
「だいたい人を襲っておいて何が霊獣だ」
「この子達はそんな事はしません!」
百合達を
「ここの所、
「いくら何でも被害が多過ぎる!」
結界の張られた森から妖魔は簡単には出られない。頻繁に被害が出るなら近郊の森のどこかに結界に綻びがあるか、妖魔使いが手引きしたかのどちらかであろう。
確かに蘭華なら妖魔を国内に招き入れる事は容易だ。加えて彼女は邑人から常日頃より色眼鏡で見られている。自分が真っ先に疑われた訳に蘭華も思い至った。
だが、森に引き篭もっていた蘭華は当然無実である。
「誤解です。私達はずっと森にいましたし、
「何を白々しい」
「被害者は羽ありと猫や四つ足の大きな妖獣に襲われたと証言しているんだ」
「そ、そんな⁉」
蘭華は真っ青になった。
妖獣であっても妖魔は知性を持つものも多い。それでも他者と相容れない独立独歩な性質がある。彼らは縄張り意識も強く、顔を合わせれば血を見る争いは避けられない。
その為、妖魔が
「ほ、本当に私ではありません」
「魔女の言う事など信じられるか」
「お前が犯人なんだよ!」
蘭華は弁明したが邑人は益々いきり立つばかり。
「問答無用!」
「やっちまえ!」
そして、遂に男達が剣を振り
「てや!」
「や、止めてください!」
真っ先に右前方から
子雲の剣筋が
(
何かの
はらり……
その軌跡に黒髪が数条ひらりと舞った。
蘭華が避けてなければ頭を割られていただろう。今のは明らかに殺意のある一撃だ。
何の弁明も許さず有無を言わせず襲いかかる蛮行。いくら
「死ねぇ!」
「きゃっ⁉」
今度は左から若い男が槍を繰り出してきた。
鋭い突きだ。とても
蘭華は身体を捻ったが、
つーっと血が滴り落ちる。
「貴様らぁ!」
大切な
「この化け猫が!」
蘭華を槍で傷付けた青年が威嚇してくる芍薬に槍を突き立てた。と思った瞬間、芍薬の身体が突然ぐにゃりと異様に曲がったのだった。
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