風が吹いている
最近、新しいスマホに変えた。
だいぶ古い機種だったので今はスイスイと機敏に動いてくれるのが嬉しい。全てオンラインで手続きしたが、本当に便利な時代になったと思う。
今はアプリ一つでネットショッピングができるし、サブスクに入っていれば映画だって自由に観れる。音楽も聞ける。新幹線の予約もスマホ一つ。わざわざ切符を買いに行かなくても良いのだ。
良い時代に生まれたと思う反面、時代の変化が激しすぎてついていけないこともある。でもなんだかんだ言ってついて行きたくもなるのだ。楽しいからね。退屈になる暇がない。面白いことで満たしていたい。面白いことばかりだ。
最近は嬉しいことばかりでなんだか有頂天だけれども、嬉しくないこともあった。
昨年がんと診断された祖父が数ヶ月前から抗がん剤治療を始めたのだが、みるみる体重が減って今は私より軽くなった。買い物やなんかの付き添いで隣に並んだ時、なんだかちっちゃくなったと思うこともしばしばだが、それはきっと私が踵の高い靴ばかりを履いているからだろうと思いたい。
以前手術をしてがん組織を摘出したというのに転移が見つかり、父は「もう長くない」なんて言っている。実際そうだろうとも思う。抗がん剤治療が辛いのか、もうやめたいと弱音を吐く祖父を見るたび、風が吹く気がする。冷たい風だった。
大丈夫治るよ、という人もいるが、最近初めてこれを慰めと気づいた。弱っていく祖父を見て「治らないだろうな」と思っている私にとって、その言葉は非現実的だったから、何故そう思うのかと考えていたが、これは慰めだった。自分の馬鹿さ加減には心底呆れる。
けれども準備はできている。人は死ぬものだ。原因はさまざまにしても等しく人は死ぬ。それが早いか遅いかだけの違いである。単純なことだった。
どこにいても風が吹いている。
もうすでに準備はできている。
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