性癖について

 くたびれた男が好きだ。もっと言うと、擦れているのに優しさを捨てきれない男が好きだ。そんななので、以前、自分の欲望に忠実な小説を書いていたこともあった。

 養父が好きだ。それに養われている子供が好きだ。もっと言うと、血の繋がりのない親子が血の繋がり以上に愛を持っている話が好きだ。

 しかし性癖がぶつかり合うこともある。

 筆者はBLも百合も嗜むオタクなので、一度にそれを摂取するため一作品に詰め込む傾向があった。以前書いた小説がそれに該当する。結局没になったので、以下設定を書いていこうと思う。


 幼馴染だった男達。

 互いに思い合っていたが時代と家柄によって諦めざるを得ず、良家出身の男は幼馴染を残して見合い結婚をしてしまう。やがて子が生まれ、幼馴染の男はようやく諦めがついたものの、ある日良家の男に子供の養父になってはくれまいか、と頼み込まれる。

 当然断る幼馴染。何故お前が育てぬと良家の男に聞けば、妻との夫婦仲は良かったが自分の母親とは折り合いが悪く離婚した、自分は軍属なので家にいることが少ない、しばらくの間預かってほしいとのこと。

 あまりのことに憤慨する気にもなれない幼馴染。しかし子供に罪はないので、複雑な心持ちのまま預かることに。幼馴染は兄弟が数人いたため子供の世話などおちゃのこさいさい。学生向けの定食屋を経営しながらの養育は大変なこともあるが楽しかった。ひとつだけ難点があるとすれば、子を時たま幼い頃の良家の男と重ねてしまい、酷く心が苛まれるということだけだろうか。

 子供がすくすくと育ち、十にもなる頃、実父である良家の男が迎えに来た。

 度々様子を見に来ていた男だったので、幼馴染には劣るものの親子仲は良く、子もすぐに男を実父と認識した。しかしながら子は実父をほんの少し恐ろしいと思うこともあった。

 自分に対しては雲のように柔らかな態度を崩さないのに、養父に対しては時々ぎらぎらと獣のような顔つきになる。子にはそれが何故かわからなくてとにかく恐ろしかった。

 子が女学校に入って美人と評判になると見合い話がいくつか舞い込んできた。

 子は結婚などせずに勉学に励みたいと思っていたが、祖母には早く結婚しろとせがまれている。逃げるように養父のもとへ向かう子。久しぶりに会った養父は少し老けて、それでも変わらず優しかった。

 子が悩みを打ち明けると、「お前は妻という立場には向いてないかもしれないな」とやはり優しく寄り添ってくれる。それが嬉しく、実を言うと、子は養父に思いを寄せていたのだった。

 子が思い切って、「わたしはあなたと結婚したいです」と言うと、冗談と思った養父は「何度も聞いたよ」と笑うだけ。養父の前では一人の立派な人間としていたいのに、どうしても子供という枠から抜け出せない。

 養父は養父で、良家の男と瓜二つの美しい娘に胸をかき乱される。

 もし、自分(養父)が良家の生まれであったら。もし、良家の男が女であったら。自分が女であったら。何度も頭の中で反芻しては諦める。

 いよいよ子がたまらなくなって、「結婚なんかしたくない」と泣き出すと養父はそれを優しく抱きしめ、やはり子供にするように背中を撫でさする。養父の中で子はどれほど大きくなっても子なのだ。

 しばらくして、子は見合いをを断りきれずについに結婚した。

 しかしその生活も長くは続かず出戻ってくると、家の権力を握る祖母に激しく叱咤された。一族の恥晒しとまで避難され、次々と再び見合い話を持って来られる日々。

 ある日我慢ならなくなって逃げ出した子が向かったのは養父の元だった。

 養父は以前よりさらに老けたが、相変わらず優しかった。「そういうこともある」と言って祖母のようにきつくしかることもない。その温かさがほっとして、ようやっと自分は家に帰って来れたと、子は思った。

 子は薄々実父と養父が良い中であると気づいていた。

 実父と瓜二つである自分なら、養父も相手にしてくれるのではないか。向けられた気持ちの先が自分でなくとも、養父と一緒にいられるなら十分だと考えた子は、再び養父に「結婚したい」と告白するも、やっぱり笑って誤魔化すだけ。

 いよいよたまらない気持ちになった子が、子供みたいに、「だったらどうしていつまでも独りなの? あなたが誰かと結婚して、子供でもいたら私も諦められたのに」と八つ当たりすると、養父は一瞬寂しい顔をして、「すまん」と謝り、泣き出す子を抱きしめる。

 しばらくわんわん泣いて落ち着いた頃、子が「またあなたに恋しても良いかしら」と聞くと、養父は「好きにしなさい」としょうがなさそうにまた背を撫でるのだった。



 これが前半部分の内容である。

 当初は二万字程度の短編にする予定だったが、書いていくうちそれでは収まりきれなくなると悟り、気力も尽きたので途中で書くのをやめた。最後まで書いていたらきっと八万字くらいは行っていたと思う。

 こうして書いていてわかったが、筆者はどうやら勝ち気というか、若干気位の高い女が好きなようだ。そうして、てよだわ言葉に近い言葉を使う女が好きなのだ。

 実際、斜陽の和子やお母さまも好きであるし、痴人の愛のナオミも好きである。近代文学に影響を受けすぎた。「おわかりにならなかったら、……殴るわよ。」なんて可愛すぎてキュンキュンしてしまう。

 そんなわけで、筆者は小説に性癖を詰め込んでしまう。

 二次創作を書くときも似たようなものだ。前に成人向けでこれより遥かにエグめな性癖を披露した時は、流石にやり過ぎたか……? と戦々恐々していたが、いただいた感想では逆に褒められることが多かったので、やはり考えることは皆一緒なのだと思った。

 これからも自分の性壁には正直でいようと思う。

 もしかすればこれは、ひとりのオタクの命を救うこともあるかもしれないのだから。

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