はちぶんのいち

0 はじめの

0 お不動様

　お不（ふ）動（どう）様（さま）。

　お兄（にい）ちゃんはあっちで不登校（ふとうこう）児童（じどう）でした。

　虐（いじ）められてたのかもしれないけれど、よく知（し）りません。

　でも、お兄ちゃんは不登校児童受（う）け入（い）れ対応（たいおう）をしている、私立（しりつ）緑（みどり）ノ年輪（ねんりん）学園（がくえん）小学校（しょうがっこう）へ編入（へんにゅう）しました。

　お父（とう）さんも学園高等（こうとう）学校の先生（せんせい）になりました。

　お母（かあ）さんはあっちでアナウンサーだったけど、こっちでリポーターとコメンテーターをしてます。

　わたしはあっちの小学校からこっちの小学校へ転（てん）校しました。

　あっちでの思（おも）い出（で）が詰（つ）まった物（もの）はお母さんに捨（す）てられたので、もう何（な）もありません。

　あっちに帰（かえ）りたいと何度（なんど）も言（い）ったけど、お父さんもお母さんもこっちでの生活（せいかつ）が好（す）きなので、聞（き）いてくれません。

　わたしはあっちでも、こっちでも、誰（だれ）にも虐められてません。

　必要（ひつよう）最低限（さいていげん）生活出来（でき）てるし、学校へも行（い）ってます。

　でも、わたしはあっちの頃（ころ）に比（くら）べて幸（しあわ）せではありません。

　もう幸せはいりません。

　大切（たいせつ）なものも捨てられちゃうので、欲（ほ）しくありません。

　だから、わたしは六角（ろっかく）図書館（としょかん）がお家（うち）になれば良（い）いのになと思わないようにしてます。

　だから、お不動様。

　お願（ねが）いです。

　休（きゅう）館カレンダーで毎月（まいつき）一日（いちにち）だけ休館、我慢（がまん）します。お盆休（ぼんやす）みもお正月（しょうがつ）休みも覚悟（かくご）します。

　でも、空調（くうちょう）が壊（こわ）れたり、水漏（みずも）れトラブルが起（お）こったり、外壁（がいへき）工事（こうじ）したり、本棚（ほんだな）整理（せいり）したりするときが来（き）ても、図書館全（ぜん）館が臨時（りんじ）休館しませんように。

　絶対（ぜったい）、絶対、ほぼ毎日（まいにち）、六角図書館に通（かよ）えますように。

　六角山（やま）小学校の近くには、六角山不動明王（みょうおう）尊（そん）がある。

　わたしは毎朝（あさ）、登校（とうこう）途中（とちゅう）に、ここに手（て）をあわせに立（た）ち寄（よ）る。

　転入（にゅう）初日（しょにち）、ご近所（きんじょ）の銀河（ぎんが）君（くん）がここのお不動様を教（おし）えてくれた。

「このお不動さんが守（まも）ってくれる」って銀河君が言（い）ったのは本当（ほんとう）だと思う。

　小学三（さん）年生（ねんせい）だったわたしは転入から九（きゅう）か月（げつ）が経（た）って、小学四（よ）年生になった。

　栗（クリ）の青（あお）いイガイガが風（かぜ）のせいでポコンポコン揺（ゆ）れ落（お）ちて、お不動様に当（あ）たっている。

　青って言っても、爽（さわ）やかな黄緑（きみどり）色（いろ）のイガイガだけど。

　でも、お不動様。

　あっちから来た余所者（よそもの）のわたしよりも、六角図書館の開館時間（じかん）を守（まも）って欲しかったです。

　今日（きょう）から、お盆休み一週間（いっしゅうかん）前（まえ）の「開館時間の短縮（たんしゅく）週間」が始（はじ）まります。

　最悪（さいあく）です。