第9話(2)先輩ヒーロー
「……なんて言うてたっけ、司令官……」
「大仕事とか言っていたな」
「これが大仕事か⁉」
怪人の着ぐるみを着ながら躍が声を上げる。
「アミューズメント施設で行われるヒーローショーに出演するなんて、そうそう出来ることじゃないだろう……」
輝が淡々と答える。
「だからって着ぐるみって⁉」
「むしろ良い方だろう」
「何が⁉」
「卓越した運動神経を評価されたわけだからな」
「う、うむ……」
「こっちはこれだぞ?」
輝が全身タイツ姿で首をすくめる。
「じゃあ変わるか?」
「いや、いい」
躍の問いに輝が即答する。
「いいって! なんでやねん!」
「恥ずかしいからな」
「恥ずかしい言うな!」
「まあ、そうヤケを起こすなよ、躍くん……」
用意されたお茶を飲みながら秀が呟く。
「せやかて秀さん……」
「最初はなんでもこんなもんさ」
「こんなもんって……」
「こういう下積みを重ねることが大事なんだ」
「下積みね……」
「先輩ヒーローの仕事ぶりを間近で見られるのもそうそうないことだよ?」
「先輩ヒーローね……知ってた?」
躍が輝に問う。
「正直知らなかった……戦隊ヒーローにはあまり明るくないからな……」
「せやろ?」
「とはいえ、最近売り出し中みたいだぞ?」
「ふ~ん……」
「ボクらは今回休みだが、凛くんと心くんが頑張っている。袖で見学させてもらおう……」
秀が声をかけ、秀とともに輝と躍が控室から袖に移動する。
「ふはははっ! この京都の地は我々のものだ!」
「凛くん、なかなか上手いじゃないか……」
「口調が戦闘員やなくて幹部のそれですけどね……」
感心する秀の横で躍が苦笑する。
「誰も我々の邪魔は出来ないどすえ~」
「心ちゃん、京都弁が出てもうてるがな……」
躍は心配そうに見つめる。
「待て!」
「!」
「そなたらの悪事もここまでだ!」
「なっ⁉」
「だ、誰どす⁉」
凛と心が周囲を見回す。
「群雄割拠! センゴクレッド!」
鎧武者のような恰好をした赤いスーツの者がステージに現れる。輝が呟く。
「センゴクレッド……」
「戦国時代ならではの血で血を洗う感じをイメージしているそうだよ」
「レッドってそういう意味⁉ 怖っ⁉」
秀の説明に躍が体を震わせる。
「優美巧妙! ムロマチゴールド!」
全身金色のスーツを着た者が現れる。
「金ぴかだな……」
「ははっ、まるで金閣寺みたいやな」
「そこからインスパイアを受けたようだよ」
「適当に言うたら当たった⁉」
秀の反応に躍が驚く。
「絢爛豪華! モモヤマピンク!」
派手なピンク色のスーツを着た者が現れる。
「ふむ、これまた派手だな……」
「桃山って、安土桃山時代の?」
「そう、桃山文化をイメージしているようだ」
躍の問いに秀が頷く。
「血風乱舞! バクマツダンダラ!」
浅葱色のダンダラ模様のスーツを着た者が現れる。
「新選組か……」
「ダンダラって……自由やな」
「どちらかと言えば取り締まる方だけどね……」
秀が笑みを浮かべる。
「典麗風雅! ヘイアンジュウニヒトエ!」
色とりどりのカラーリングの着物のような恰好をした者がステージに上がる。
「じゅ、十二単って⁉」
「動きづらそうな恰好だな……」
驚く躍の横で、輝が素直な感想を口にする。
「約20キログラムの重さらしいよ」
「そ、そんなに重いんですか⁉ な、何故、そないなことを……」
秀の補足に躍が戸惑う。
「平安文化を再現する為だってさ」
「こだわりが強いな……」
「輝、もしかして感心しとる?」
「ここまで徹底されればな……」
躍からの問いに輝が頷く。ステージにヘイアンジュウニヒトエを中心に五人が並ぶ。
「千年王城を守り抜く! 歴女戦隊!」
「「「「「『ヒストリカルガールズ』!」」」」」
五人の揃った掛け声の後に、爆発音のSEが鳴る。
「れ、歴女戦隊⁉」
「歴史好きが高じて、戦隊になったそうだよ」
「高じ方間違うてません⁉」
秀の解説に躍が困惑する。
「全員女か……」
「ボクらと一緒だね」
輝の言葉に秀が反応する。
「ふむ、司令官がこのヒーローショーにわたしたちを派遣したのは、大いに学ぶことがあるからということか……」
輝が顎に手を当てて呟く。
「そういうことかもしれないね」
「そこまで考えてますかね、あの人……?」
躍が首を捻る。
「考えてないな」
「まあ、ボクもそう思うよ」
「二人とも言うてること変わってるがな」
「まあ、とりあえず勉強させてもらおう、先輩ヒーローの様子を……」
秀がステージを注視する。
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