第4話(3)駒を配置

「……う~ん、DMの通りならこの辺なんだけどな~」


 凛が端末の画面を見ながら後頭部をかく。


「あの!」


「え?」


「天津凛さんですよね!」


「そ、そうですけど……うおっ⁉」


 凛が驚く。多くの女の子が自らを取り囲んでいたからである。


「うわあ、本物だ~」


「思ったよりポニテだ~」


「えっと……なんだ、この小学生の大群は……?」


 凛がぶつぶつ呟きながら首を傾げる。


「ねえねえ、一緒に『スマシス』やろ~」


 女の子の一人が凛の服の裾を引っ張る。


「ええ?」


「あ~ズルい、アタシが一緒にやるの~!」


「早い者勝ちでしょ!」


「なによ!」


「なにさ!」


「む~」


「う~」


 女の子同士で睨み合いが始まる。


「ああ、ケンカしないで、皆で一緒にやろうね?」


 凛が慌てて仲裁する。


「うん!」


「じゃあ、そっちのスペースで……」


 凛が女の子たちを誘導し、ゲームを始める。しばらくして……。


「ねえ、ちょっと、チート使ってない⁉」


「使っているわけないでしょ⁉ そっちが弱いだけじゃん!」


「はあ⁉」


「なによ⁉」


「ああ、ちょっとほら、ケンカしないでね……うわっ⁉」


「お姉さんも強すぎでしょ! 一人で100連勝とか!」


 ある女の子が凛のポニーテールを引っ張る。


「だ、駄目だよ、引っ張らないで……格ゲー民の悪しき伝統“リアルファイトに発展しがち”を受け継がないで……」


 凛が困惑する。


「橙山輝さんですよね!」


「え、ええ、そうですが……」


「きゃあ~本物だ~!」


「ワイルド~!」


「え、えっと……」


 輝が女子高生の集団に囲まれる。


「握手してもらえますか⁉」


「写真良いですか⁉」


「な、なんなんだ、この状況は……」


 女子高生にもみくちゃにされながら輝が戸惑う。


「あらあら、初めまして~」


「は、初めまして……」


「紫条院心さんでいらっしゃいますよね?」


「そ、そうどすが……」


「一緒にお写真よろしいかしら?」


「わたくしも~」


「ええ、構いませんが……」


 心がいかにもセレブな女子大生たちとの写真撮影に応じる。


「……ありがとうございます、わざわざ東京から来た甲斐がありました。それでは……」


「いえ……」


「それではごきげんよう~」


「はあ、さっきは東北のお嬢様方、その前は名古屋のお嬢様方に囲まれて写真をせがまれて……金閣寺になったような気分どすな……」


「あ! 紫条院さん、私ら九州から来たばってん! 是非写真をお願いするたい!」


「こ、この記念撮影ラッシュは何事⁉」


 女子大生たちに殺到され、心が混乱する。


「ダ、ダンスちゃん、大阪のお店、急に辞めちゃってびっくりしたで……」


「寂しかったで~」


「ああ、ごめん、ごめん……」


 オタクの男たちに囲まれ、躍は両手を合わせる。


「京都に移るなんて……な、なにかあったん?」


「も、もしかして……彼氏が出来たとか?」


「いやいや、全然そんなんちゃうねん、ちょっと気分を変えたかったというか……」


「そうなんだ……それじゃあ、チェキ撮ろうや……」


「いやいや! なにがどうなってそれじゃあやねん⁉」


 オタクの申し出に躍が面喰らう。


「……ふむ、『エレクトロニックフォース』、所詮はこの程度か……」


 ある公園のベンチに腰かけた、黒のバンツスーツをきっちりと着こなした、灰色のショートカットの髪に、整った目鼻立ちをした女性が端末を眺めながら呟いた。


「指定の時間にたどり着かないとは……多少の駒を配置したとはいえ、期待外れだな。ボクが参加するにはふさわしくない戦隊のようだ……」


 灰色のショートカットがベンチからゆっくりと立ち上がる。


「随分とご挨拶どすなあ~」


「!」


「見つけたぞ……」


「‼」


「はあ、はあ……間に合った……」


「⁉」


 灰色のショートカットを三方から、心、輝、凛が取り囲む。


「お茶会にあらためて招待することで、記念撮影ラッシュはかわしました」


「む……」


「女子高生たちとはそれぞれRANEを交換した。後日ファン対応の時間は取る……」


「ほう……」


「結局ゲームでボコボコにして、分からせてきたよ……」


「お、大人気ないな!」


 灰色のショートカットが凛に向かって声を上げる。


「あの方々、貴女の差し金どすね?」


「……そうだと言ったら?」


「やってくれるやんけ‼」


「うおっ⁉」


 ベンチの背後の植え込みから躍が飛び出してくる。


「ひつこいオタク君たちを撒くのに、ごっつ苦労したで~まあ、これから京都のお店に通ってくれるってことになったからwin‐winやけどな……」


「ふむ、四人ともたどり着いたか……まずは第一段階合格かな」


 灰色のショートカットは顎に手を当てて頷く。心が首をすくめる。


「上から目線どすなあ~灰冠秀はいかむりしゅうはん……」


「気に障ったなら申し訳ない。物事を見極めるには致し方ないんだ……さて……」


「うおおっ!」


「なっ⁉」


 怪人と戦闘員たちが現れる。秀と呼ばれた女性が笑みを浮かべる。


「第二段階だ。どうする、エレクトロニックフォース?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る