第3話(2)唐突なフィールドアスレチック

「……」


「ふあ~あ……」


 車に乗った輝が大きなあくびをする。隣に座る凛が笑う。


「ははっ、輝っち、だいぶお眠だね~?」


「それはそうだろう……結局夜通しゲームをする羽目になったんだから……」


「迷惑そうな口ぶりだね?」


「実際迷惑だったからな」


「そのわりにはなかなか楽しそうだったけど……」


「む……」


「ねえ、心ちゃん?」


 凛が心に問う。心が口元を抑えながら話す。


「ふふっ、そうどすなあ。結構ヒートアップされていましたし……」


「むう……」


 輝が顔を赤くして俯く。


「まあ、昨夜で三人の距離はかなり縮まったよね!」


「それはそうどすなあ~」


 凛の言葉に心が頷く。


「いや~楽しかった!」


「ホンマどすなあ~」


「またこういう機会があれば良いよね」


「そうどすなあ」


「……というわけで、今日のところは……」


「待て待て!」


 輝が顔を上げる。


「うん? どうしたの?」


 凛が首を傾げる。


「それはこっちの台詞だ。何を解散しようとしている……」


「え?」


「え?じゃない」


「だって、心ちゃんが家まで送ってくれているんでしょ?」


「違う、そうじゃない」


 輝が首を左右に振る。


「え、じゃあ、何?」


「はあ……むしろここからが本題だろう……」


 輝がため息交じりに話す。


「ここからが?」


「ここから?」


「何だろう? 心ちゃん?」


「なんやろうなあ~?」


 凛と心が顔をお互いに見合わせて首を傾げる。


「いや、心! 少なくともお前は分かっているだろうが!」


「はて?」


 心が首を傾げる。


「しらばっくれるなよ。お前が打った手とやらを見に行くんだろうが」


「え! 心ちゃん、手を打ったの、大丈夫⁉」


 凛が心配そうに心の手を覗き込む。


「凛、お前はちょっと黙っていろ」


「ひ、酷い⁉」


「手を打った……?」


「メンバー探しについてだ」


「ああ、そうでしたなあ」


 心が両手を胸の前で合わせる。


「白々しいな……」


「ホンマに忘れていました」


「それはそれで問題だが」


「そうそう、これからそれを見に行くんどす」


「見に行くってなんだ?」


 輝が首を捻る。


「それは着けば分かります」


「ふむ……」


 心の言葉に輝は腕を組む。しばらくして、車が停車する。


「あ、止まったよ、輝っち」


「ああ……」


「それじゃあ降りまひょか」


 心に促され、凛と輝が車を降りる。


「ここは原っぱのようだが……?」


「あ!」


「どうした、凛?」


「あれ見て!」


「ん……ああっ⁉」


 凛の指差した先を見て、輝が驚く。まるでテレビ番組のような、大掛かりなアトラクションのオープンセットがそこには組まれていたからである。


「お、おお……」


「こ、これは……?」


「様々な障害物をアクションゲームのようにクリアし、ゴールを目指すフィールドアスレチック、『IKUSA』どす!」


「ものすごいパクリ臭がするぞ!」


「いやいや、完全にオリジナルどす」


「だ、断言したな……」


「これがメンバー探しとどう関係するの?」


 凛が尋ねる。


「良い質問どすなあ!」


「お、おう……」


 心のテンションに凛が圧される。


「それはこれから分かります」


「これから? ん?」


 若い女性が大量に集まってくる。輝が戸惑う。


「な、なんだ?」


「ふふっ、これから彼女たちにはオーディションを受けてもらいます」


「オ、オーディション?」


「そうどす」


「何のだ?」


「我が紫条院グループはこの京都に大規模なコンセプトカフェをオープンしようと計画しておりまして……そのお店で働いて下さるキャストさんをこのIKUSAで選抜しようということどす!」


「接客業と全然関係ないだろう!」


「ところがどっこい、関係あるんどすなあ……」


「なんだと?」


「このコンセプトカフェはeスポーツを得意とするキャストを揃えたいと思っています」


「eスポーツとフィールドアスレチックがいまいち結びつかないのだが……」


「ゲーム性があるという点では共通しております。なおかつ体力なども要求される仕事……それを見極めるには、このIKUSAがもっとも適しているのどす!」


「な、なるほど……!」


 凛が腕を組んで頷く。


「納得するな! どう見ても金持ちの道楽だろう!」


「よっしゃあ! 絶対クリアしたるで~!」


「ん?」


 ある女の子の声が響く。

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