ナーガのサーガ

あめはしつつじ

第1話

 横断歩道は、邪な道、

 蛇の道は蛇。




 ここは?

 真っ暗な空間で何も見えない。

「わっ」

 反響する音も聞こえない。

 確か、何かに轢かれて。


「そう、君は轢かれた。

 導かれた。

 そして、これからは、

 君が惹くのだ」


「誰? あなたは? どこから?」


「私はアスクレピオス、

 もしくはカドュケウス、

 名前はいくつもある。

 君に名前がいくつもあるように」


「私の名前? いくつも?

 私は誰なんです?

 ここは、どこなんです?」


「君は、今、誰でもない、

 そして、未来、誰でもある。

 我が主、ヘルメス様が、決めること」


「ヘルメス、様?」


「ヘルメス様は、

 伝える神、

 人に説く神、

 物語る神」


「物語る、神?」


「そう、物語、

 ここは、物語の邪道」


「よこみち?」


「王道に交わらぬ、横道。

 蛇の道」


「蛇の、道?」


「そう、私は蛇。

 物語から生まれ、

 物語を貪る。

 物語を生き、

 物語を産む蛇。

 そして、君は、

 物語の輪廻に、とぐろに、

 とらわれた囚人。

 何度も何度も、

 おしまいジエンド

 繰り返し。

 伝説レジェンド

 繰り返す。

 騙り続ける

 語られ続ける。

 倦むまで、

 産んで。

 ヘルメス様が、

 永久に説く。

 絶えることなく伝える。

 物が足ることなく物語る。

 君は、

 我が主人が物語る、

 物語の主人公」


 私の目の前には、

 一枚の扉がある。


 物語の扉が開かれる。




 横断歩道を歩いていた。

 トラックに轢かれた。

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