3
刀を抜くかのような高音を立て開かれたオイルライターの蓋。だが手袋越しのその手は火を付ける事なく閉じ、また心地好い音を立てては蓋を閉じた。
開いては――閉じ。
また開いては――閉じ。
赤子を寝かしつけるかのようなリズムで開いては――また閉じる。
「――さん?」
日常の中にある何気ない日の公園にあるベンチ。そこで足を組み座る女性はぼーっと動作的に前を見つめながら片手でライターの蓋を開けては閉じるを繰り返していた。
すると丁度、蓋を開いた音の後に女性の目の前へ差し出された珈琲の紙カップ。同時に繰り返された声も。
「リナさん?」
その声でやっと我に返ったリナは顔だけを動かしカップを差し出すラウルを見た。
「どうぞ」
リナはライターの蓋を閉じるとそのまま内ポケットへ仕舞ってからそのカップを受け取った。それから蓋を開け一口。
その間にラウルは隣へと腰掛けた。それから同じように蓋を開け珈琲を一口飲めば、安らぎの香りが口中へ広がっていく。更に目の前を走り去る獣人とエルフの子どもが平和で優雅なそのひと時をより鮮やかにしていた。
「結局、昨日の彼らもイマイチでしたね」
「最近あんなのばっかり」
「まぁ噂ですからね。当たりと外れがありますよ」
「昔から噂は信じてない」
「それは流石と言うところですか。――ちなみにどれくらい溜まってるんですか?」
その言葉にリナは珈琲を一口飲むと、傍に立て掛けてあった刀を手に取った。それから鞘に納めたまま刃先を空へ向け刀を立てる。
数秒、何事もなくそよ風に撫でられる刀だったが、静かに鞘が透けてくると中の刀身が影となって姿を見せ始めた。
だがその刀は完全ではなく鎺から数センチしかない。更に乱雑に折られたかのように斜めに下る崖を描いていた。
「驚く程、全然ですね」
「あいつが無駄に時間かけたりするから」
今にも溜息が聞こえてきそうな声と共に刀を隣に戻すリナ。
「それはまぁ、仕方ないと言うしかないですね。それより今度はもっと大物を狙った方が良さそうですかね」
「そっちの方が手っ取り早いでしょ」
「どこかに手軽なのがいないものですかねぇ」
「それは大物とは呼ばない」
「確かに」
するとリナはまだ残る珈琲を片手に、もう片方で刀を持ち立ち上がった。それを横で見ていたラウルも一口飲んでから続く。
そして先に歩き出したリナに追いつく形で二人は並んで足を進めていった。
「でも知ってます? 空切さんの時のあなたは素敵な笑みを浮かべてますよ」
「アタシじゃない」
「そうですけど。あなたにも出来ますよ。同じなんですから」
「必要ない」
「そうですか」
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