第169話 狙撃手に狙撃は効かないという話

 普段はあまり触らないスマートフォンを操作し、陰謀論まみれの偽情報を発信している方や口汚く、優希さんを含む蘇えりし者レヴナントの方々を罵っている方をリストアップしてお母様へと送信いたしました。

 自らの正体を明かしてまで蘇えりし者レヴナントの方々を救おうとした優希さんの思いを踏みにじる行為、優希さん本人が望まれないとしてもわたくしはそれを許すことが出来そうにございません。

 幸い、お母様も同様の意見でございましたので?自由になる時間の多いわたくしがリストを作成し、お母様がその後の手続きを行うという分担でを処理する算段を付けることが出来ました。

 優希さんから教わった言葉で言うならば、「撃って良いのは撃たれる覚悟がある者だけ」という事でございます。

 

 一仕事終えた満足感に顔を上げてみれば、優希さんは蘇えりし者レヴナントの3人と白さんの5人で既に出かけた後のご様子でした。

 わたくしも当然同行したかったのですが、今回に関しましては普段一緒に行動しない方を連れているという事が蘇えりし者レヴナントの方々に対する警戒心低下の一助になるとの事でしたので我慢致しました。

 何事もなく楽しく遊んで帰ってきていただければそれで十分なのでございますが……。

 優希さん、あれでかなりトラブルを引き寄せる体質なのですよね。

 いえその、起きたトラブル自体は基本的に優希さんの手で大過なく収められますので優希さん自身にその自覚が無い可能性がございまして……。

 まあ、引率が七尾さんですし多少のトラブルでしたら問題なく収拾をつけて頂けるでしょう。


 さて、これから何を致しましょうか……。

 などと考えていたタイミングで、魔法少女の待機室へ魔物出現の一報が入りました。

 ……それ自体はいつものことでございますし、特に問題は無かったのですが。

 「リズ姉さま、これ、対処が遅れたら魔物がセヴンス達がデートに出かけた場所を通信妨害の範囲に入れちゃわない?」

 そう、ミラさんの言う通り出現した魔物の位置が優希さん達の現在地からさほども離れていなかったのでございます。

 七尾さんは、今回の作戦の肝はSNSでの情報拡散にある……と仰っておられました。

 ならば、魔物の魔力による電波妨害は作戦を失敗させる要因になりかねません。

 ……いえ、何より、楽しく遊んで居られるであろう優希さんに魔物の出現を意識させるわけには参りません。

 まあ、優希さんは凄まじい魔力感知の範囲と精度をお持ちですので出現自体にはお気づきだと思いますが、これをわたくし達で安全に対処すれば「自分に参加要請が来なかった程度の魔物」であったと考えるでしょう。

 久々の傍らに愛しい人の居ない戦場ではございますが、その愛しい人の安寧のためにも本日の魔物、討ち取らせて頂きましょう。


 ……なんて意気込んでみたのでございますが。

 「今回は八瀬さんの実戦訓練としましょうか。水流崎さん、サポートお願いできる?」

 などと、彩月さんに言われてしまえば断る理由は思い浮かばず……。

 わたくしが転移で先行して足止めし、八瀬さんがヘリで現着するまでの足止めをすることに相成りました。

 まあ、今回の魔物は何に触発されて現れたかは定かでは有りませんが優希さんの活動開始以降頻繁に出現する「百合の魔物」との事。

 既に幾度も対峙した魔物でございますので、特に問題なく足止め出来るかと存じます。

 ただ、最近少し警戒が必要な件がございますが。


 久々に葦亘理宇比売あしわたりそらひめさんによる転移で魔物の出現場所へほど近いビルの屋上へと移動致しました。

 しかし、葦亘理宇比売あしわたりそらひめさん少し変わられましたでしょうか?

 以前より気負いが無くなったと言うか、転移の魔法を使う際も何処か楽しげな様子が見られました。

 あの、なにか、わたくしの知らぬ所で優希さんが関わっていたり致しませんよね?

 正直、これ以上優希さんが心を割くお相手が増えてはわたくしと過ごす時間が……。

 ……いえ、思えばわたくしも我儘になったものですね。


 さて、魔物の方は……っ!

 反射的に射った矢が百合の魔物の恋人繋ぎのになっている手を撃ち抜かんと奔りました。

 流石に、隠蔽も魔力による付与も一切行っていない反射的に撃ち込んだ矢でございましたのであっさりと回避されてしまいましたが……。

 時間稼ぎを命じられておきながら初手から殺意を持って一矢を放つなど褒められてことではございませんが、今回はお見逃しいただきたく存じます。

 仕方ないでは有りませんか、だって今回の百合の魔物が……。

 ゴスロリと着物の2人組……ではなく、の2人組だったのですから。

 わたくしが見ていない間にその様な組み合わせカップリングで魔物が出現するほどにお二人が近づいたのでございましょうか?

 ……幸い、今回のお出かけのご様子は周囲の方が逐一SNSに投稿してございます。戦闘が終わり次第確認しておかねばなりませんね。

 

 と、開幕の一矢で冷静になったわたくしはその場から少し下がり、西側のビルから死角になる室外機の影に隠れて藤御簾を展開致しました。

 この気配、本日もいらっしゃいますね。

 400メートル程先のビルの屋上でしょうか?

 室外機の隙間から覗き見れば、ライフルを構えた男性がわたくしを狙っている様子が魔力によって強化された視力によって視認できます。

 恐らく、ドラゴンを運用している組織の一人だと思われますが、狙撃手であるわたくしを相手に狙撃を仕掛けるのはあまり良い選択肢とは言えないのではないでしょうか?

 なにせ、狙撃手とは習慣として自分を狙撃するとしたら何処が最適なポイントなのかを考えながら行動する人種でございまして……。

 例え戦闘中でございましても、そうやすやすと狙われて差し上げる動きは致しません。

 それに、殺気も隠せておりませんからね。

 優希さんからお借りした漫画に出てきた邪眼の梟が相手でしたら、貴方はもう既に死んでしまっていますよ?

  ……先にわたくしが射抜いてしまっても良いのですが、彩月さんからもう少しだけ泳がせるように指示が出ておりますので。

 

 などと、遠方の狙撃手を意識しながら足止め目的の射撃を繰り返しているとヘリのローター音が聞こえてまいりました。

 ヘリは魔物の直上まで移動すると停止し……。

 「魔法くノ一・繰紙胡蝶、参ります!」

 100メートル以上の高さから八瀬さんが自由落下を開始致しました。

 まあ、日頃から彼女の訓練を見ていればこの程度は心配する必要がございません。 

 展開した紙蝶を足場に空中で複雑な軌道を描きながら、速度を制御しつつ目標へ迫ります。

 迎え撃つようにバニーガールの姿をした魔物がその手に持った長銃を乱射いたしますが、空中で前触れもなしに鋭角を描いて曲がる彼女を捉える事が出来ておりません。

 一方で、ゴスロリ姿の魔物が自分達を囲うように鋼糸を張り巡らせて防御を固めますが……。


 「紙蝶空蝉」

 先んじて囲いの中で群れを成していた紙蝶と入れ替わる事で八瀬さんは防御を掻い潜り接敵することに成功致しました。

 こうなってしまえばもう、魔力による身体強化無しの状態ですら姿を見失う彼女の体術を相手に成す術はございません。

 近距離用にさぶましんがん?を引き抜いた白いバニーガールも、片手で頼りなく大鎌を振るうゴスロリの魔物も瞬く間に首を落とされ、戦闘は終了致しました。

 顔は黒い靄の様なものに覆われて見ることは叶いませんが、もしあの魔物の表情が見られたならば、それは驚愕の表情で固まっている事でございましょう。


 しかし、今回も前回と変わらずの圧倒劇でございましたし……。

 彼女、繰紙胡蝶さんは既に一人前と言って良い腕前なのではないでしょうか?

 

 さあ、取り急ぎ帰還してSNSの様子を確認致しましょう!

 事と次第によっては優希さんを問い詰める必要がございますし!



☆★☆★☆★☆


マクシムの旦那は理珠さんをものすごく狙撃したいですが、狙撃手に狙撃は通用しづらいという話。

そもそも理珠さんが何処に出てくるかもわかりませんからね。

魔物の出現位置、理珠さんの出現位置、そこを狙える場所 と条件が揃わないと狙撃が成功しないのでなかなか難しかったりしました。


>優希さんからお借りした漫画に出てきた邪眼の梟が相手でしたら、貴方はもう既に死んでしまっていますよ?

『邪眼は月輪に飛ぶ』は名作かつ1巻完結なので一度読んでみるの事をおすすめいたしますわ。

個人的には各国から集められた凄腕スナイパーを紹介されてるシーンが死亡フラグの塊で好きです。


あ、百合の魔物は常に片腕を恋人繋ぎにしてるので、行動制限が厳しくてそれなりに弱いです。普段は2人の空いてる腕をつかって2人がかりで弓を射ってきたりします。

形状は2人ですが実は1体の魔物なのでコレは普通にそれなりの性能の射撃攻撃だったりします。


という事で、次回は雛わんこが新発明を披露します。

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