第160話 中間管理蛇の憂鬱
えー、結局、魔生対としてはドラゴンが魔法少女ゾンビによる魔法によって生まれた何かしらである事は公表しませんでした。
ただでさえ、誰かが手引した魔法少女ゾンビによるテロ事件が多発してる現状でドラゴンもゾンビだったなんて発表したらどうなるかはフランスを見ればわかりますからね。
恐らく、全世界でゾンビ狩り……いえ、あえてこう言いましょう。魔女狩りが発生することは想像に難くないです。
そうなれば、白さんが拾ってきた善良系ゾンビの3人も、それを保護している魔生対も、というかそもそも私だって様々な非難に晒されてしまうでしょう。
というかですね?
この惨状を作り出したのに一役も二役もかってるふぁっきん邪神はどこに行ったんでしょうね?
テロ活動が開始されてからこっち、邪神系のじゃロリは一切姿を表さなくなりました。
これ、絶対怒られると思って逃げてますよね?
と、そんな事を考えながらいつものように影からにゅるっと魔生対に出勤します。
ちなみに、びっくりするからという理由で待機室に直接出勤するのは禁止にされました。
なので、最近だと基本的に無人の会議室に出てから各々の目的地へ移動する感じになってます。
で、学生でもメカでも無い私は基本的に待機室へ直行してだらだらするのが日課なわけなんですが……。
なんか、待機室のドアの前でえっと、忍者の子……。八瀬さんでしたっけ?が部屋の様子を伺いながらまごまごしているのが見えました。
「どうしました?中にブチギレてるザマさんでも居ました?」
とりあえず、気さくに声をかけてみましょう。
「ひぁっ!ぬぅ、セヴンス殿ですか……。そのぉ、部屋の中に、黒くて大きな蛇がいるのでござるぅ!せっ、拙者、蛇はだめなのでござるよぉ!」
あ、いつもは必死で隠してるござる口調がダダ漏れになってます。
なるほど、焦ると普通に出ちゃうんですねこれ。
というか、魔生対の待機室に居座る黒蛇なんて一人しか思い当たらないですよね。
「あ、それは蛇であって蛇じゃないので大丈夫です。人間に害を……基本的には与えませんから」
シアちゃんが逃げ回ってる現状、ゾンビ関連の話を聞ける相手はイツァナグイしか居ないので会いたかったんですよね。
まあ、怯える八瀬さんは可愛そうですがスルーして扉を開けましょう。
「おいすー。胃薬要りますぅー?」
バッグからザマさん愛用の胃薬を取り出しつつにこやかに入室します。
まあ、にこやかに入室しつつ、テーブルの上でうねうねしてるイツァナグイの首根っこを引っ掴んで即確保するわけなんですが。
「胃薬なぁ……。お主から貰うと効果があった気がしてほんの少しだけ気が休まるのじゃよなぁ……」
蛇らしからぬ精神的疲労でぼどぼどになった表情を浮かべて項垂れるイツァナグイ。
……あ、これ中間管理職系のストレスを味わってる最中ですね?
昔勤めてたブラック企業の鬱になって辞めた上司と同じ表情をしています。蛇なのに。
ちなみに、私はその上司が辞めたのを見て辞表をネットから拾って来て自分とこの上司の顔面にぺしーん!ってやって辞めて来たんですけどね。
あ、よく考えたら辞表叩きつけた当日に本人失踪って色々手続きめんどくさかったんじゃないでしょうか?……いや、めんどくさい仕事させても特に問題ないですね。酷い会社だったので。
「で、どうしました?話聞きますよ?」
まあ、何にしろ用事があるのは多分私でしょうし、仕事はサクッと終わらせて少しでも休める時間を作ってあげられ……るのかなぁ?
とりあえず、水を向けてみるとそこそこ勝手知ったる仲ですので?イツァナグイはつらつらとお話を始めました。
「まずなぁ、わしらが生き返らせたものが悪人に利用されて悪さをしている事、これの謝罪をさせれくれ。正直、これに関してはシアシャル・グラゼが「セヴンスで成功したんじゃしばんばん生き返らせてしまえばいいのじゃー」とかほざいて見境なく蘇らせたのが悪い。そもそも魔力保有者に適した年齢の少女がバタバタ死んでおる地域とかの娘を生き返らせても碌な事にならんとは言ったのじゃが……」
まあはい、シアちゃんですからね。
ヤツなら部下のそんな言葉を気にもせずにバンバン生き返らせ、その上で放置とかやってもおかしくありません。
というか、治安の悪い地域で魔法が使えるようになった上に再度死なない限り元の姿が絶対にバレない状態とか、犯罪行為に走るのが目に見えてますよね。
「ちなみに、そのシアシャル・グラゼ本人は火消し……というか、生き返らせた中で元々素行の良くなかった者を封印して回っておる。あ、既にやらかしたものは手遅れじゃとか言って放置しておるがな」
うーんこの。
せっかくだからあのドラゴンとか処理してもらいたかったんですが、この分だとアレと私達が戦うのを楽しみにしてるから放置してるっぽい面もある気がしてきました。というか、シアちゃんの性格を考えると私達の仲間に被害が出ない限りは手を貸してくれない気がします。
まあ、怒られるのを嫌がって逃げてるとかじゃなかっただけマシでしょうか。
「いや、待ってください。聞き流しそうでしたがこれは聞いとかなきゃダメですよ。まず、封印ってなんです?」
「あー、シアシャル・グラゼ曰く対象の時間を止めて亜空間に放り込んでおく的な処置らしいんじゃが……、わしの職分ではないので正直良くわからん。なんか、おぬしらの組織で更生させられれば楽じゃがとか言っていた様な……」
……自分のやった事の後処理を面倒くさがってこちらに投げるムーブは邪神この上ないんじゃないですかね?やっぱなんかお仕置きしとくべきですよねアレ。
ヤツの分だけ毎回デザート用意せずにみんなで美味しい美味しい言いながら食べるのとか地味に効果ありそうな気がします。
あ、ちなみに、私とイツァナグイが会話しているのを見た八瀬さんは人語を解する蛇という所で好奇心が恐怖を上回ったのか忍者特有の忍び足で音もなく入室してイツァナグイを観察しています。
あ、その後ろからちょっと税金で賄われている魔法少女の教育と同じ環境で学ばせて良いものかとザマさんの頭を悩ませているゾンビ3人娘もついてきてますね。
そういえば、この3人ってイツァナグイとは面識あるんでしょうか?
「なっ!あの時の蛇!?」
イツァナグイを見て思わず声を上げるアデリーちゃんと、そのアデリーちゃんを守るように前に出てかばうエルナさん。
なお、リアさん?は「あー、生き返らせてくれた蛇さんですね」とのほほん顔です。
まあ、どうやら面識はあった様です。
「うむ、息災か……などと問うのも野暮じゃよなぁ。おぬしらにも謝罪をせねばならぬと思っておった所じゃ。あいすまんかった……」
そして、会話はまずイツァナグイの謝罪から始まりました。
「最初に手を付けた個体がセヴンスじゃったせいで、生き返った人間はなんやかんや上手くやるものだと考えてしまってってな。見通しが甘かったようでぬしらには苦労をかけた」
……いや、それをやれって命令したのシアちゃんですよね?イツァナグイはそれに逆らえない存在なんですからそこまで下手に出なくても良くないです?
「そこまで深く謝罪しなくてもいいと思いますけどね。そもそもそこの3人だって生き返らなかったほうが良かったなんて思ってないでしょう?」
私と違って、死んだ直後に復活だったのかスマホだって持ってましたし?そりゃ、かなり不便ではあったと思いますけど「死んでたほうがマシ」なんて事は考えてないと思うんですよ。
というか、本当にそうなら即座に変身解除して死体に戻ればいいだけですから。
つらい思いもしたかも知れませんが、魔法だって使えるようになってますし、損しかしてないなんて事はありえないんですよね。
私の言葉に、
「確かに、突然の蘇生やそれに伴って起きたトラブルに振り回されはしたが、死体のままのほうが良かったのかと問われれば確かに否だな。イツァナグイとやら、謝罪は受け入れるし、むしろ我々からも感謝の言葉を返させてもらいたい。私達を生き返らせてくれて、ありがとう……」
謝罪と感謝の言葉を聞いて相好を崩すイツァナグイ。胃薬が効いたと錯覚したときよりよっぽどいい笑顔してるじゃないですか。
「見つけた!イツァナグイ!探してた!」
と、そんなちょっといい雰囲気が流れ始めたところに雛わんこが駆け込んできました。
「前に言ってた機構、出来たから見て!こっち!偽装根源による多重化!他の根源だとダメだったけど、セヴンスさんの……で!……、でも本人は……!」
お菓子の欠片と思しきくずが大量にくっついたいつものだぼだぼパーカーと、徹夜明けと思しきハイテンションっぷりでテーブルの上のイツァナグイを両手で抱えると、そのまま謎の単語と理論を垂れ流しながら技術部の方へと駆け抜けていく雛わんこ。
……正直、雛ちゃんと謎理論を議論してたときのイツァナグイが知る限り一番楽しそうだったのでアレはあえて放置したほうが良い気がしてきました。主にイツァナグイのストレス解消の為に。
しかし、シアちゃんが火消しに回ってるならゾンビによるテロ活動はこれから減っていく感じなんですかね?
何にしろ、ドラゴンを早いとこ処理しないとアレがゾンビ案件だってバレた瞬間大騒ぎになりそうなんですよねぇ。
前回の検証で色々手がかりが見つかったらしく、国家機密チームも毎日フル回転で色々探してるらしいので期待して進展を待ちましょう。
……まあ、私がドラゴン側だったら逆に今何かアクションを起こさないと追い詰められるだけなので、近々何か足掻いてくる予感がします。
この勘、外れてくれませんかねぇ?
☆★☆★☆★☆
以上、シアちゃんとイツァナグイの動向でした。
シアちゃん、仕事してるように見えて、動機は「セヴンスはともかく、藤の娘を怒らせると怖いから」というアレなので倫理観とかそういう殊勝なものからではないです。
さて、追い詰められつつある悪人チームの動向や如何に。
あと、いつもいつも感想や☆やレビューありがとうございます。
作者という生物はこういう読者からの反応を食料にして生きる謎の生命体なので、拙作以外でも気に入った作品、作者の方には反応をしてあげて頂けると作品自体の寿命も伸びたりするんじゃないかなと思います。
感想やレビューや☆には栄養がありますからね。
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