第147話 何なのだこの国は(ずずずーっ
幸運にしろ不運にしろ、想定外の事態は重なって起こるものとよく言われるがその通りだと今この瞬間、眼の前に並んだ特盛のちゃーしゅーめん3つを見つめながら実感している。
空腹を訴える腹に逆らえずフォークを手に取り、可能な限り上品にれんげ?にスープを掬いフォークに巻いたヌードルと共に口へと運ぶ。
……日に一度の食事で食いつないでいるが、その一度が満足できる食事であればそれなりに満たされるものなのだな。
少々匂いが強いが、それを上回る味と食感に舌鼓を打ちつつ私はここ数日の出来事に思いを馳せた。
リアとエルナの提案を受け、魔女セヴンスと会うべく日本へやってきたわけだが……。
計画は最初の段階で暗礁に乗り上げてしまった。
なにせ、ヨーロッパ諸国の魔力保有者と扱いが全く違うのだ。
ちょっとネットでの調査やパパラッチに鼻薬を嗅がせて情報を探せば身元や住所があっさりと割れるわが祖国やEUの国々と違って、魔法少女達の正体に全く迫れないという状況にはかなり驚いた。
というか、まずパパラッチが居ない!警察が賄賂を受け取らない!
トウキョウの郊外にあるSDF基地の傍にマセイタイの本部があることはわかったが、流石に直接乗り込んでセヴンスに会わせろと交渉しに行くのは流石にリスクがあるので控えている。
一度、電話でアポイントメントが取れないか確認だけしてみたが、流石に身元不明の人間には取り合えってもらえなかった。
……以上が、この国へやってきて起きた悪い事だ。
いや、流石に文化が違いすぎる上に変身を解除できない我々
この国の、特に人口密集地で生活している人間は良い意味で他人の格好に興味が無い様子だった。
セーラー服を着たゴツい男性や冷蔵庫と似た名前の宇宙人の格好をしている人物さえ普通に店舗が利用できるぐらいなのだ。ただ髪と瞳の色が多少奇抜なぐらいの私達はさして気にもされて居なかった。
そんなことよりも、平日昼間に学校にも行かずに出歩いている事の方が気にされたぐらいだ。
私の魔法がしっかりと機能したのも良かった。
何せ私の根源は
フランス語やドイツ語に対して何の問題もなく機能し、会話・読文が可能なのは確認していたがバベルなんて単語が出ていたからな。原罪教の勢力圏でしか効果がない可能性も考えていたが杞憂だったようだ。
おかげで私の魔力圏の内側でなら、リアとエルナも問題なく日本人と会話が出来ているし、メニューや標識もちゃんと読めている。
日本人の平均的英語力と私の日本語力を鑑みて、コレが機能しなかったと思うと少し背筋が冷える……。
マホウショウジョ達の戦闘に警察が介入しないのも都合が良かった。
私の
まだ私がこの魔法に慣れていない頃に認識の完全阻害を頼んだ時にはひどい目にあったからな。通行人に認識されず、歩道から弾き出されて轢かれそうになった時はこんな終わり方はしたくないと酷く焦ったものだ。
世界への嘆願はキャンセルすると精霊が拗ねて数日間に渡りお願いが通らなくなってしまうからな。可能なら一度通した嘆願は期間の終了による効果消滅を待ちたいと考えるのが普通だろう?
私の魔法は効果の大小で魔力消費に変化がない代わりに、時間の設定が自分で不可能なのと、効果の強制終了が難しいという点が弱点となっている。
……フランスでは警官が戦闘区域で我々を発見する度に容赦なく銃撃を開始していたから、これは心底ありがたいのだ。
お陰で、『魔力を持つものから隠密』という嘆願と、『戦場への移動』の嘆願だけで食べ残しに存分にありつくことが出来ている。
時期も良かった……という事になるだろうな。
我々が日本へ来るのと時を同じくして、世界各国で
お陰で世界のあちこちでゾンビが居る、人間に仇をなす
変身を解除出来ないこと、体温と心拍数がとても低く、食事を取らなくても魔力さえあれば生存できるのも既に報道されている。
なぜか、日本ではそういった海外の報道に対して
……まあ、あのテロや犯罪に走った
同族ならば、犯罪やテロで食料を要求しないはずがない。空腹で死ぬことは無いが、空腹が辛くないわけではないのだ。
死ぬ前に暴れたかったなんて言いながら要求するのが酒、麻薬、政治的ナニカで完結するなんてまずありえない。
実際には先に満足に足る要求を誰かに叶えてもらった後に、どうせ死ぬのなら約束は果たすと行動している可能性が非常に高い。
なにせ、
で、何より良かったのが魔力保有者に対する扱いの違い……というか、なんなんだろうなコレは。
おっと、ヌードルが伸びる?前に食べてしまわねばもったいないな。
このラーメンにしたってそうだ。
所持金が心許なくなってきた我々は、この店舗に入って3人で1杯のラーメンを食するつもりで注文をしたのだ。
財布を忘れてきたので手持ちが少ないからお昼はコレで我慢する予定だ。なんて下手な嘘をついて……。
ところが、出てきたのはご覧の通りのこの店で一番高いメニュー3人前だ。
「いやぁ、うちのかかぁが前に魔法少女に助けられた事があってよぉ。そんときゃ礼も出来なかったもんだから何かの拍子にうちの店に魔法少女の、ほら、セヴンスちゃんとか変身したまま飯食いに出かけてるっていうじゃねぇか。そんな感じで店に来てもらう事があったら可能な限りサービスするって決めてたんだよ」
ラーメン1杯を頼んだ我々に対して、ちゃーしゅーめん大盛りを3つサーブしていった店主はそう言っていた。
店内を見渡せば、神棚?に月をモチーフにしたグッズと魔法少女の写真が飾られている。
……なるほど、転移の魔法によって現場に到着するまでの時間が他国に比べて圧倒的に短いために避難が完了してない段階でマホウショウジョが魔物と戦闘開始するケースがかなりあるのだろう。
映像ではなく、生で戦闘の様子を見れば年端もいかぬ少女が如何に必死に魔物と戦っているか否が応にもわかろうというもの。
それを目撃した民衆が一般的な感性を持っているなら、当然彼女たちへの感謝の念を示すのは想像に難くない。
この国でマホウショウジョ達がのびのびと生きていける理由はこのあたりにあるのだろう。
まったく、何なのだこの国は(ずずずーっ
結局、店主はラーメン1杯分の代金すら受け取ってくれなかった。
最後に、メニューには無い持ち帰り用のライスボールまで付けてくれたのは我々がマセイタイのマホウショウジョでは無いと気が付いていたからだろう。
店内に設置されたテレビから海外での
なぜ、私達に無条件とも思える信頼を向けるのだろうか。
空腹というストレスから解消され、この国なら理不尽な目に合う可能性が低いという安心感からだろうか。
初夏の夜風が眠気を誘い、公園のベンチでくつろぐ私の両側でリアとエルナが船を漕ぎだしている。
……実際、私もかなり眠い。
この気温なら心地よく眠れるだろうか……。雨が……降らなければ良いな……。
そんな事を考えながら、私は睡魔に身を委ねた。
「貴方達、こんな所で寝ていたら濡れちゃうと思うんだけど大丈夫?」
澄んだ、心地よい声に目を覚ましてみれば身体は霧雨に降られて軽く濡れていて……。
眼の前にはこちらに傘を差し出し、優しい眼差しで微笑む髪の長い少女。
肩から下げたバッグにはウサギのキーホルダーと、少し不釣り合いな銃のキーホルダーが揺れていた。
☆★☆★☆★☆
匂いが強いラーヌン=とんこつ
家系ではないです。特盛の家系ラーメンなんて常人が食べられる量ではないので。
魚介豚骨ラーメンを豚骨ラーメンとしか表記しないお店は滅びればいいと思います。(過激派)
日本に来てから割と平和に暮らしてる
世界への嘆願 は何でも出来そうですがお願いしてから効果の発動まで時間がかかる上に攻撃範囲の指定が難しいとか戦闘ではちょっと使いづらい魔法だったりします。
それを補うのが今回セリフのなかった二人の仲間の魔法って感じです。
そして、銃とウサギのキーホルダーをバッグに付けた少女。
一体誰なんだ……。
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