紗矢
第4話 待ち人
(今日こそパパ、来てくれるかな……?)
保育園から帰ってすぐ、汚してしまった服のことを母親に問い詰められた紗矢は、衝動的に家を出て、気が付けばこの駅に来ていた。あの服は「特別なもの」だから
大切に扱わないといけないということは、紗矢だってわかっていたのに、お絵かきに夢中になって頭から抜け落ちてしまったのだ。
そんなとき、きまって紗矢はここ――電車が止まり、大人たちが行き交う機械の前に来る。
ここで待っていれば、またパパがあの機械の向こうから手を振って抱き上げてくれるかもしれない。
だってパパは言ってくれた。
また必ず紗矢に会いに来るって。
園の庭の桜が咲いていた頃、ママに連れられてこの機械の前に来た紗矢に
パパは確かに言ってくれた。
「いつ」かは約束してないけれど、パパはきっと来てくれる。
だから紗矢は待っている。
いつパパが来てくれるか分からないから。
そうしたらもう、その手を離さない。
一緒に「本当の家」に戻るんだ。
紗矢は祈りを込めて改札を見つめる。
通り過ぎていく大人たちの中にパパがいないか、真剣に見定める。
そうしているうちに、紗矢は不思議な女の人に気づいた。
制服を着た大人たちがいる部屋の前に、髪を後ろで結んだ細い女の人だ。
白いシャツに黒いロングスカートを着たその女の人も誰かを待っているのか、ジッと部屋の中や機械の向こうを見つめながら立っていた。
自分と同じように誰かを待っている人がいる――そう思うと、紗矢は内なる心強さが湧き上がってくるのを感じた。
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