第13話 逢魔の森とクローディアの真実(3)
「私が生きていたことも不思議がっていたよね」
二十年前、本人が主張するところによれば冤罪だが、罪を問われ国外追放の刑に処されたクローディア。
「森に追放された時、もちろん私も絶望したし、私をそんな目に合わせた連中のことも恨んだ。でも、この森には入ってくる人間を陰で見守っている存在もいるの。追放されたのが、本当に多くの人を傷つけたり殺したりしてきた輩なら、魔物に襲われても無視するけど、そうでない者がやってきたときには、見守って危ない時には助けて保護してくれる、エルフはこの森の中で人間の味方となってくれる数少ない一族なのよ」
「エルフって……」
「うん、瘴気によって生み出された人知を超えた力を持った存在が魔物なら、エルフは森の聖なる木から生まれる生身を持った精霊に近い存在」
「僕たちの国じゃエルフの王を『森の主』と呼んだりするよ」
クローディアの説明にアルベルトが付け足した。
「えっ、じゃあ、『森の主』って?」
「私は最初から『魔物』なんて言葉は使わずそう言っていたけど、かってに究極的に恐ろしい魔物の王か何かと勘違いしてたのは王宮の連中だよね」
クローディアはいたずらっぽく肩をすくめた、そして話をつづけた。
「彼らに保護された私は、森の反対側にある国の女王に引き合わされ、その国の一員として暮らすことを許されたんだ。私たちが今いる国の女王はね、半分だけエルフの血を引いた方なのよ」
ハーフエルフの女王の国!
伝説の中でしか存在しえなかった国は思っていた以上に夢幻的な姿をしているようだ。
「先代の王とエルフの娘が結婚して生まれた女王なんだ。他の貴族たちも彼らの子や孫にあたり、わが国の魔法は飛躍的に発展した」
アルベルトがまた補足説明をしてくれる。
「えっ、じゃあ、あなたも?」
シエラはアルベルトに質問した。
「そう、アルベルトは私の夫と同じ英雄の一人ブリステル公爵の息子なの。フリーダ女王と同じくエルフの血を引いているのよ」
クローディアが説明した。
「魔物に対峙できる魔法を使える者が増えたおかげで、森の各所に拠点を作り、そこで定期的に魔物を狩る活動もできるようになった。そして森の反対側までたどり着き、その先に存在する国々のことも知ることができた。我々はそれらの国々にひそかに出入りし、調べることができるようになったんだ。そんな時にエルフによってクローディア殿が保護され、さらに詳しいことを知ることができ我らが国づくりに大いに役に立った、そう聞いてます」
アルベルトがハーフエルフの女王の元でなされた国づくりを簡単に説明してくれた。
「私はただ、元いた国の社会的な構造や仕組みとか、知っていたことを女王や重臣に話しただけよ」
「そのおかげで街道が整い、学校教育が整備されたのですよね」
クローディアも貢献したみたいだ。
彼女は照れたように咳ばらいをし、さりげなく話題を変えた。
「数十年ぶりに生まれた国に入って探ってみれば、過去に私がされたような目にあっている令嬢がいるって耳にした。卒業パーティで冤罪をふっかけるとか、あの国の王家や高位貴族の慢心と非道ぷりは何も変わっていないなと実感してね。それで、被害を受けた令嬢、つまりあなたのことを調べたら生家にすら大事にされてないことが分かったから、一計を案じたの」
「あの、生家って……、わたしはあの家の本当の子じゃなかったみたいだし……」
「何言ってるの! あんな話でたらめに決まっているじゃないの。そもそも怨念の主の私が生きているわけだし!」
「ええっ!」
シエラは仰天した。
「あの、でも……、私の髪は……」
「まるで月のしずくのような花。光に当たると虹のように様々な色にきらめいて本当にきれいです。言ったでしょう、エルフの血が濃いものは植物に似た色合いになるって。僕のように葉っぱの色に近い人もいれば、花の色に近い髪色の人も、我々の国にはたくさんいますよ」
アルベルトが口をはさんだ。
今まで、自分の髪をそんな風に言ってくれた人はいなかったので、シエラは泣き出してしまった。
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