第2話 魔女の告白
国王夫妻がすでに鎮座する中、あのような宣言をちゅうちょせず行った王太子。
つまり、国王陛下も了承済み?
化けの皮?
いったい何の?
基本的にシエラは、自分を大きく見せるために嘘をついたり見栄を張ったりすることはないし、学園での勉強や王太子妃としての教育もまじめに受けている。
いくら王太子が自分のことを気に入らないと言っても、『化けの皮』などと言われるほどのものなどないはずなのだが……?
王太子の言葉を理解しかねると同時に不安にも思うシエラであった。
「あれこれ言うより、証人に入って語ってもらった方が早い。よろしいですな、父上」
王太子は父の国王に確認を取り、国王もまたそれにうなずいた。
「この場にいるものは皆驚くことだろう。公爵家を見舞った忌まわしい災いを」
王太子の言葉と同時に、会場の隅にある裏口へと続く扉が開かれ、そこから紫紺のローブを羽織った一人の老婆が現れた。
老婆はゆっくりした足取りで王太子たちが集まっている広間の中央まで進むと、ひざまづきあいさつをした。
「お初にお目にかかります。国王陛下及び王都のみなさま。私は国の南端、逢魔の森と接するところで細々と、魔法を使って魔物狩りの手伝いをしている老婆でございます。本来なら皆様の前に立つことなどできぬ立場ではありますが、この老婆が見聞きしたことが、この国の将来において重要とのご判断を仰ぎ、まかり越した次第にございます」
「前置きはいい、語れ」
王太子の言葉に老婆は、かしこまりました、と、返事をし、昔語りを始めた。
「あれは二十年ほど前のことでございます。この国の壁を越えて逢魔の森を出入りするのは、定期的に魔物を狩る国の派遣部隊か、冒険者の一団くらいしかありませんでした。しかしある日、丸腰の若い女性がその森に入ってきたのです。もちろんそんな状態で森に入って無事でいられるわけがありません。私どもが発見したときには、その女性は魔物の爪に引き裂かれ、息絶える寸前でございました。女性はご自身をクローディア王女と名乗られたのです」
「クローディアだと!」
その名を聞いて国王は立ち上がった。そして、公爵夫妻は顔を青ざめさせた。
老婆の昔話は続いた。
クローディア王女は自分の意志ではなく、罪人としてこの森に追放されたのだと言った。
しかし、その罪はでっち上げであり、自分に冤罪をかぶせた公爵夫妻が憎い、復讐をしてやりたい。
そう言い残して彼女は森の中で息を引き取った。
「なにが冤罪だ! 当時身分の低かったライアを嫉妬にかられて虐め、犯罪まがいの危害まで加えたのはクローディアではないのか!」
「そうですわ。クローディア様のなさりように私は当時どれだけ苦しめられたか!」
ローゼンシア公爵夫妻が口々に抗議の声を上げた。
「ああ、私はただ当時のことを忠実に語っているだけでございます。亡くなった女性がそのように言い残したのは事実ですから」
老婆は穏やかに反論した。
ローゼンシア公爵と現国王の異母妹だったクローディア王女は婚約者の間柄にあった。
しかし、当時学生だった公爵は今の妻の男爵令嬢と恋に落ち、クローディアとの婚約破棄のため、いじめの話を盛りクローディアを国王の面前で貶め断罪した。
すでに王位についていた国王にとって、側妃腹のクローディアは実母を苦しめた女の娘であり、特段気にかける存在でもなかった。
それよりも彼の望み通りに先王が結んだ婚約関係を解消し恩を売る方が得策と判断した。
そして、彼らが主張するクローディアの『罪』を事実と認定し、国外追放処分を下したのだった。
この国の『国外追放』は、魔物の襲撃から守るためこの国を覆う壁の外へ着の身着のまま追い出されることを言う。
もちろん、そんな状態で無事でいられるわけがないので事実上の死刑宣告である。
追放はこの国の南端の逢魔が森に接している、国で最も頑丈で高い壁の小さな出入り口から行われるのが常であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます