第11話 デスペラード6

 タイラーは、警備隊本部に隣接する病院に来ていた。


「もうすぐ退院と聞きました。」

 短い挨拶の後、タイラーはベットの横にある椅子に腰掛けた。


「あぁ、すぐ働かせやがる。」


「必要なんですよ、ステファンが……。」

 確かに、戦闘中の怪我は、結構な重症と思えたが、警備隊に対しては最新医療で治療し、さっさと現場に戻すらしい。

 もう少し休ませてあげたい気がするが、今回の不可解な事件には、ステファンのような物知りが必要だ。

 タイラーは、微笑んだ。


「お前が、珍しく笑うんだから、本当に必要とされているんだな、きっと。」

 ステファンも、力なく笑った。

 まだ、若いはずのステファンも、疲れた表情をしている。


「なんだか、奇妙な殺人事件が起こっているんです。」


「ジョンリーに聞いたよ。」

 ステファンは、ため息をついた。


「頭は、最近、殺された少年のもの。体は、アンドロイド。アンドロイドは、第一セクターの金持ち連中しかなれない、あるいは第三セクターに廃棄してる失敗作のアンドロイド。そして、ペッタンコな死体、血溜まりもない。」

 ステファンは、顎に手をやりながら考える。


「アンドロイドについては、成功、失敗、数値は我々には知らされない。未来はどうなるんだろうな。……きっと過去の人達もふと思ったりしたんだろうな。まさか、こんな酷い未来なんてな。」

 ステファンは、自分の手を見つめていた。


 タイラーも、ステファンの手を見つめた。

 何でも器用に作る手。

 ライル・クアンのバーンズライダー3号は、彼が改良した物だ。

 細く、少し傷痕が残る手は、物を作り出すだけでなく、たくさんの人を殺してきた。

 それは、自分も同じだけど……。



 人類は、どんどん進化していったはずだ。


 ただ、追いついて行けなかったのは、普通に暮らす人達。


 才能ある者は、作り出す。


 人型ロボットを作り続けた。

 人と同じように考えられるようにと人工知能を作りだした。

 だが、人と人、企業と企業、国と国。

 互いに協力し合うことは難しい。

 才能ある者は僅か。


 不完全な物作り。


 不完全な廃棄処理。

 作り出したが、廃棄が出来ない。



 捨てることも、壊すことも出来ない。

 地下深くに、保管。

 海に廃棄。


 そして、戦争。


 原子炉に爆弾を落とすだけ。


 地下深くにある場所に、爆弾を落とすだけ。


 世界は、簡単に壊れた。


 生き残った人は、思った。


 生きたい、死にたくない。殺される前に、殺せ。


 ただ、それだけで無理矢理進化した人類は、歪なアンドロイドを作り出した。

 それが、今のアンドロイド。


 体だけ進化、頭だけ進化。

 どちらかが欠け、失敗。

 金をかけられる者達は、永遠の命を求める。


 だが、人間にある感情が邪魔をする。

 体は、快適に動いた。

 だが、人は、いつでも納得いかないものだ。


 不服。


 その感情が、犯罪と分かっていたことをいとも簡単に正当化する。


 それが繰り返され、今の世界。



「大丈夫か?」

 ステファンが、そっと肩に手を置いて微笑んだ。


「タイラー、たぶん過去に生きていた人達も、最低、最悪と思う時があったはずだ。それでも、前を向いて進んだはずだ。叶わなくても神様に祈ったはずさ。あとちょっと頑張ろうって。」


 タイラーは、頷いた。


 そうだ、まだ頑張れる。第三セクターから、這い上がって第ニセクターにいる。


 まだ、生きたい。


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