第六十九話 夕食
「ナイト様、紹介しますわ。兄のマルクと従兄弟のローガン、そして一番下の妹のソ、ソフィアですわ」
とケイトが震える声で言った。
マルクが立ちあがり「ようこそ」と言いローガンもソフィアも挨拶をした。
ナイト・デ・オルボンは皆の顔を見回しさわやかな笑顔で
「愛する婚約者のご家族のお会いできて光栄です」
と言いケイトは頬を赤らめたがオルボンは続けて、
「これはまた可愛らしい妹姫だ。美しい蕾みはさぞかし美しい大輪の花を咲かせるだろう」
と言った。
ケイトはぱっとソフィアを見たが、じろっとにらみ返されて視線を逸らした。
「い、妹はまだ子供ですわ、ナイト様」
「そうかな? 彼女が本来の婚約者だったと聞いているが?」
「そ、それは……」
「オルボン侯爵家との婚姻ですからソフィアのような未熟者にはとても務まりません。ケイト姉様は魔法学院では優秀な成績を修めているし、貴族の長女としての心得やマナーもすでに完璧です。侯爵家に嫁ぐのはケイト姉様が相応しいかと」
とローガンが優しい笑みをたたえて言った。
マルクはうんうんとうなずき、ケイトは焦った様な顔でナイトを見た。
ナイトはソフィアに視線を向けてからローガンに、
「なるほど。放したくはないのは分かるが伯爵家よりも侯爵家の方が格は遙かに上。金でも権力もここよりも有意義に使えて遙かに居心地がいいはずだ」
と言った。
「いいえ、あなたも全てを承知でここへこられたのならシナリオに従ってもらいましょう。あなたの悲願に我々は手を貸すのですから」
とローガンが答えた。
二人の視線が合い一瞬バチバチッと火の柱が立ったが、
「分かった、分かった。右腕から両足まで揃ったんじゃ敵わない。私の役目を全うしよう」
ナイトはローガンと側に控えているワルドを見てニヤッと笑った。
「今日は右足はいないようだが?」
「彼は旧友に会いに行ってますよ。あなたが二、三日滞在するご予定ならすぐに会える」
「それは何よりだ」
ナイトは食前酒のグラスを持ち上げて乾杯の意を表した。
メイド達が給仕をし食事が始まったが、ソフィアは黙って目の前の皿の肉をナイフで切り分けるだけだった。
ヴァンパイアに興味が無いこともなかったが、ケイトがナイト・デ・オルボンの気を惹こうと必死なのが滑稽だった。
「ケイト、オルボン家へ嫁ぐのなら、我が伯爵家は俺が継ぐのでいいのだな? お前、俺を廃嫡して実権を握りたかったのだろ?」
マルクにそう言われてケイトはばつが悪そうな顔をしたが、
「マルク兄様、私はそのような事を思った事はありませんわ。ただ、お父様が兄様がいつまでもそんな風であれば考えると仰っていただけで。そうならないように兄様も領地経営の仕事などをなさればいいのです」
そう言いながらふんっと笑った。
侯爵夫人になれば社交的に位が上がり、伯爵家よりも羨望されより上級な貴族との交流が始まる。ケイトはもう伯爵家は用なしだったが、伯爵家から援助の要請がくるのは明白でそれはケイトの口利き一つでどうにでもなるものだ。両親も兄弟達もがケイトにひれ伏すしかない今となっては伯爵家の実権など無用だ。
クスッと笑い声がして、ケイトの背筋に悪寒が走った。
「ケイトお姉様、婚約はもう本決まりですか?」
とソフィアが言った。
「ええ」
ケイトは気後れするまいと強気の視線でソフィアを見た。
「でもセブンス……ナイト・デ・オルボン様に秘密にしてる事あるでしょう?」
「え……」
「夫婦になるんですもの隠し事はいけないわ」
「な、何を言い出すの?」
狼狽を隠せないケイトに、
「姉様はナイト・デ・オルボン様で愛してらっしゃるの? ですから婚約をお受けしたの?」
「ええ、そうよ」
と言ったがケイトの声は震えていた。
「そうなの?」
とソフィアは首を傾げてローガンを見た。
ローガンは苦笑して、
「さあ、貴族なんて政略結婚ありきだから愛がどうのは別の話だが、結婚してから愛が芽生える時もあるし、子を成すのは義務として生涯口をきかない夫婦もいる。しかし姉様がオルボン侯爵を愛しているなら素晴らしい事だ」
「そう、それではフレデリック叔父様がお可哀想だわ」
「ソフィア!」
とケイトが大きな声でソフィアを睨んだ。
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