第六話 剣で切り裂かれる

「何やってんだぁ!」

 ローラともう一人のクラスの代表格、公爵家の跡取りで現在の初等クラスではもっとも魔法術の遣い手であるアダムが席を立ってきた。

「へえ、眠りの術、かかってないんだ。まあ、耐性はそれぞれあるか」

「ローラ!」

「痛い……痛いわ……アダム……」 

 ペンが突き刺さった眼球からは体液と血が流れ出ている。

「貴様ぁ!」

 とアダムは腕を振り上げたが、

「早く治療してやったら?」

 とソフィアに言われてはっとローラに対して治癒呪文を唱え始めた。

「うっそ、邪魔しちゃお」

 ソフィアの手に小さな炎が生まれ、それをアダムの方へ投げつけた。

 アダムはその炎を自分の魔力で打ち消した。

「へえ、やるぅ。じゃ、剣召喚」

 そう言ったソフィアの手に銀色に輝く剣があった。

「剣を召喚だと!? そんな技……初等科で出来るはずが……」

 とアダムの気が退いた。

「ふふふ、本当にローガンお兄様が徹夜で作って下さったこの冊子、役に立つわ」

「そんな貧相な身体や腕で剣が使えるはずがない!」

「そう? でもね、この剣、凄く軽いんだよ? 実際の鍜冶屋で鍛錬した剣とは違う。魔法で精製した剣だからさ、重さも強さも自由自在らしい」

  ソファアはその剣を軽々と振りかぶり、アダムの首めがけて振り下ろした。

「うわぁぁぁぁ!」

 恐怖に駆られてアダムはその場を飛び退き、剣の先はまだ蹲っているローラの左顔面を切り裂いた。

「ギャアアア!」

「ローラ!」

 ローラに気を取られたアダムの背中を一刀両断、としたいところだが、慣れない魔力と剣召喚という大技を使ったソフィアは自分がめまいを感じ、その身体がよろめいた。

 アダムは一瞬ソフィアをやるのが先か、それともローラを回復させるのと悩んだ。

 だがソフィアはその瞬間も攻撃を止めなかった。

 剣が消えればその手で足でアダムを攻撃しながらポケットを探り、夕べ、ローガンの目を貫いたフォークを取り出し、それをアダムの首筋に突き刺した。


「ソフィア!」

 の声に振り返るとオスカーがよろめきながら近づいて来ていた。

 猛烈な睡魔と戦っているのか、まぶたは下がろうとしているし、腕も足もぷるぷると震えている。

「止め……るんだ」

「あ? あんた、今までこのあたしをいじめてた連中を一度でも止めてくれた事がある? こいつらもクラスの連中も! 謝って泣いて許しを乞うソフィアをいじめるのを止めた事があるの?!」

「そ……それは……悪かった」

 とオスカーが言った。

「裸にされて倉庫に一晩閉じ込められた事もある。何か物がなくなればメイドの子だからと疑われ、身体が触れたりすればバイ菌扱いされて、面白半分に攻撃魔法の実験にされて、水をかけられ、火をつけられ、制服を切り裂かれ、そんな時、あんた一度でも助けてくれた事があるの? あたしがこいつらを殺したって、あんたには何の文句も言えないはずよ! 言っとくけど、こいつらだけじゃないのよ? 伯爵家の兄姉、クラスの連中、教師、あんただって的なんだから。人の心配をしてる暇はないんじゃねえの?」

「え……そ、そんな」

「心配しなくても順番にやってやるから今は寝てな!」

 ガクッと身体が床に崩れ、オスカーはついに睡魔に捕まって意識が消えた。   


 ソフィアは首から血を流しているアダムとローラに近寄った。

 両手で二人の頭をがっと掴み、そして最後の呪文を唱えた。

「ひぃ……力が……」

「あんたらの魔力貰うわ。全部、吸い取ってやる、ぜーんぶね、知ってる? あたし、あんたらの体内から魔素を吸い上げられる魔法知ってるんだ」

「た、たすけ……て、お願い……」

「ふん」

 とソフィアは言い、魔力も気力も吸い取られ二人はその場で意識を失った。

 

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