2-15.「王女謁見」

 

 ミリタリアとの買い物というSランク級の任務の達成から三日ほどが経った。この三日間ミリタリアは屋敷にずっと滞在してはいたものの、屋敷での食事と一回二人でCランクの依頼を受けた以外に関わることはなかった。どちらかといえば王都に来てからというもの真面目な話しかしていなかったクライアとヘットに付き合わされた時間が多い。屋敷の庭でゲートボールを一緒にしたりなどいかにも年寄りらしい遊びだった。別に楽しめたから構わないが。


 とまぁそんなわけで今日はついに王女様と会う日だ。俺はベットから降りると普段の朝と同じく最低限の身だしなみだけを整えて自室を出る。そして朝飯をクライア達と食べ終え、そこからは昼までのんびりとして、昼飯を食べてまたのんびりとする。

 王女様とのパーティは夜七時からなので五時頃から屋敷のメイドさん達に髪を改めて整えてもらったり、服を皺などなく着れているかの確認をする。

 そして時刻が六時を回った頃、俺はクライアの家の馬車に乗せてもらいパーティーの会場に向かう。パーティーの会場は王女様がメインのパーティーであることからか王都の中心に位置する城で行うらしく、それ自体俺はかなり楽しみでいた。城というのは実にロマンがある。

 ちなみに付き添いで数名の騎士が城から派遣される予定だったが、クライアが以前のこともあったからか断ったらしい。代わりと言っては何だが屋敷から一人の執事と護衛の騎士を数名つけてくれた。

 執事さんは普通に真面目そうな人なので、馬車の中で少しだけ会話したが特に何かが起きるわけでもなく適当な雑談をしただけで終わった。最近初対面してそれなりに会話を交わした相手は全員が例外なく変な奴らだったので、久しぶりのそういう出会いに俺は謎の安心感を覚えた。

 かくして俺と執事さんと騎士達、最後に馬車の運転手で城に着いたわけだがここで俺以外の者たちは帰るように城の衛兵達に言われてしまう。俺はここで断って面倒になるのを避けるため従うように言うと、大人しく彼らは帰っていった。流石に王様がまた俺を殺してくる可能性は無いと考えているがために、俺自身は彼らを帰らせることにさして不安はなかった。問題はクライア達が後で色々言ってくるであろうことだが、これはまぁどうとでもなる。今はそんなことより話を円滑に進めること優先だ。

 ちなみに帰りは別途で馬車を出してくれるそうなので帰りの心配もないとのことだ。当然と言えば当然だが。

 俺は衛兵に本当に俺なのかなどの確認をされた後、城に入った。

 城の中はイメージ通りの感じで、赤色のカーペットで地面は埋め尽くされていて明かりがどこにでもさしており、暗いとこなど一切ない。それこそ世界一有名なネズミを使った会社の映画とか、それの冒頭に出てくる有名な城みたいなイメージが近いと言えるだろう。


 そうしてそんな城の中を衛兵に案内されてから少しして、ついに一つの扉の前に着く。かなりの大きさなのでこれがパーティ会場の扉と見て間違いないだろう。

 扉の両脇には二人ほど見張りの騎士らしき人たちがいてその二人に俺が招待客であることを、俺を案内してくれた衛兵が伝えてくれる。そして扉の前の衛兵二人が扉を開き、俺はようやくその中を見ることとなった。





「これは…」


 内心ではかなり興奮していたがそれを習った礼儀作法に従って抑える。ただ一言だけそう漏らすと俺は辺りの光景をしっかりと見渡す。


 すると見覚えのあるやつが一人だけいたが、話しかける気力も特に湧かないので適当に時間を潰すことにした。

 パーティー会場はシャンデリアがぶら下がり、中心にはいくつかの大きな丸テーブルがあり、その上には多くの料理が積まれていた。その周辺にはプレートもたくさんあるのでご自由にお取りくださいと言うことだろう。

 人はかなりいるようでやっていることは様々だ。テーブルの上の料理を取っているもの。他の客人達と会話に花を咲かせているもの。あるいは俺同様に一人で佇んでいるもの。階級や年齢なども色々な貴族がいるようなので俺が特別浮くこともなさそうだと安心する。子供の数も決して多くはないがいないわけではないのでありがたかった。おそらくあの王様がそこら辺配慮してくれたのだろう。


 ひとまず俺は料理を食べてみようとテーブルに近づく。俺は近くにある適当な皿を取り、テーブルの上にある料理の中からカルボナーラとソーセージ、それと少量のサラダをとって皿の上に乗せた。

 組合せ的にはあまり良いとは言えないが、こういったビュッフェ形式でそれを言うのは野暮というものだろう。

 料理を座ることもなく、立ちながら食べてみるがかなり美味しかった。ビュッフェ形式なためにかなりの量があるのが功をなし、料理の保温性を高めているようだ。もしかしたら料理の入っているプレートが魔道具な可能性もあるがそんなことはどうでも良いことだ。

 重要なのはこれがかなり美味しいということだ。流石は王族主催のパーティーといったところか。王城なら専属のシェフがいてもおかしくはないし、むしろいて然るべきなのだ。そしてそんな料理が食べられたことに俺はかなり満足していると、俺が先ほど見つけたは良いものを無視していたやつが近寄って話しかけてきた。


「随分楽しそうだけど一味足りないと思わない?それが何か?言うまでもないこと」


「そうそれはa「もう良いってお前とは」


 このうざったらしい口調で喋るやつといえば間違いなく一人だろう。当然そいつの名前はミリタリアというのだがこいつとは今までに散々話したし、今話したいことといってもそんなものは存在しない。


「お前とはもう十二分な話したろ。もしこれが漫画や小説だったら同じキャラが出過ぎて困りもんだぞ」


 俺がそう言うと当然ミリタリアは怒る。しかしパーティー会場ということもあってか、今回はそれを露わにするのを抑えているようだ。


「漫画ってのはよくわからないけど、そこまで言う!?普通に仲良いから話すだけじゃないの!?」


 小さな声ではあるもののそれなりに勢いのある声でそう言い放つミリタリアだった。


「いやまぁ別に良いんだけど、正直お前といると礼儀作法とか色々忘れちゃいそうで」


 そう、俺がミリタリアに近づかなかったのはこれが大きな理由である。ミリタリアといるとせっかく口を固くしていても簡単に破られそうで嫌なのだ。


「別に良いじゃない。ここにいる貴族なんてクリューには関係ない人の方が多いっての」


「俺は良くてもガレス、、父さんに迷惑がかかるかもしれないだろ。究極個人主義のお前と一緒にするなっての」


 ミリタリアは俺がそう言うと何かを訴えるように頬を膨らませながらコチラを見つめてくるが、俺がその何かに応えるようにして返事してやることはない。それはそれとして俺は一つ気になることがあるので聞いてみることにした。


「というかお前は何でこんな場所にいるんだよ?お前がこういうのに興味を抱くとは思えないんだが」


 俺がミリタリアにそう言うとミリタリアどこか恥ずかしそうにしながら話し始めた。









「だってクリューがいるから」







 その表情は非常に可愛らしくて、こんな美少女にそれを言われてしまっては俺としては唖然するしかなくなる。真面目な話、普通に可愛いな。

 減点するとすれば今日のミリタリアの服装が相変わらずの十二単だってことぐらいか。いや冷静に考えてなんでこいつはこの場に十二単で来てんだ?頭おかしいのか?まぁそれはそうか。


「、、、何言ってんだお前は」


 俺は少し惚けた後、呆れつつも少し恥ずかし気にそう口にする。そんな俺の様子を見たミリタリアは、即座に恥ずかしそうな表情をやめてニヤリと笑う。


ウッソだよ〜ん!や〜い、や〜い、ひっかかってますねクリューソス君。やっぱり何やかんや言ってのこと好きなんでしょ?ほれ、恥ずかしがらずに言ってみぃ。絶対笑わないから。アハハハハハハハハハハハハハ」


 笑わないっと言ったそばから笑っていること以上にミリタリアに見事に嵌められてしまったことが腹立たしくて仕方がなかった。十中八九冗談であろうと分かっていても全く気にしないなど俺にはできなかったのだ。

 というかこいつ普通の笑い声出せたんだな。やっぱり以前までのあれはふざけていたのか。できればずっとそれでいてもらいたいものだが。


「この間『告ってるのか?』って聞かれて慌ててた奴は黙ってもらいたいな」


 なんとかそう反撃する俺だったが、やや苦し紛れ感が強いか。どこかに逆転の糸口はないだろうか?


「もう、そんなに泣かないのクリュー。のおっぱいでも飲むかな可愛いクリューちゃん」


 俺をさらに困惑させたいのか、俺を赤ん坊扱いした上でとんでもないことを言ってくるミリタリア。現代日本であればセクハラ発言だ。

 正直混乱しそうにはなるもののこれはチャンスだと思い、俺はこの発言に対してこう返す。


「へ〜そりゃありがたいが、ない胸の何処を吸えって、、いえ!何でも無いです!」


 今までのことからミリタリアは年寄り扱いされるのも嫌っていたが子供扱いされることも嫌っていることも俺は知っている。だからこそこう返してやれば絶対に悔しがると思い発言したのだか、そこは逆鱗と表現するのも生優しいほどのものだったようだ。今の発言をした直後から俺に対してとんでもない殺気が送られている。しかもそれを見事に俺一人に集中させており、周りには気づかれていない。しかし俺からすればさらに殺気の濃度が高まるので勘弁してもらいたい。

 というわけで俺は口にし始めていた発言を撤回せざるおえなくなったわけだ。

 俺がそう撤回してからもしばらくの間殺気は放たままだったが、そこからミリタリアが怒りのままに何かを言うこともなく、どんどんと殺気が消えていった。


「はぁもういい。次はないからね」


 ミリタリアは何とか行動に移さずにいてくれるようなので、俺はそれにすぐさま頷く。

 俺はこの話をとっとと変えようとミリタリアに改めて問いかけることにした。


「それでさっきのが嘘なら結局何でミリタリアはここにいるんだ?」


 俺が話を戻すようにそう口にすると、ミリタリアは思い出したかのように話し始めた。


「あぁ!そう言えばそんな話だった。単純な話で護衛だよ」


 俺はそれを聞き、なるほどな、と納得することは簡単にはできない。一番強いやつが王城という一番権力の集まる場所を守ること自体は特に違和感があるところではないのだが、それはその一番がコイツでなければの話だ。強さとか権力の一番以上に、一番イカれてるやつで平気かという疑問は当然あるわけで。まだ他の星騎士の方がまともに仕事するだろう。


「クリューが失礼なこと考えてそうだけどそういうわけだからクリューにばっかかまってらんないんだよね、は。クリューと違って知り合いも多いからさ」


「そうかい。だったらとっととその知り合い達に迷惑かけにいってこい。俺は隅で一人過ごしてればいいからさ」


 俺がそう言うとミリタリアは意地悪そうな笑みを浮かべて俺の方に言ってくる。


「でも残念!には因束の環眼マティリアコスモスがあるからこの程度はクリューとの会話の片手間でもできちゃうんだ。やっぱってすごすぎない!」


「はいはいすごいすごい。結局お前は何が言いたいんだよ」


「最初に言ったでしょ、ただ仲がいいから話したいと思っただけ。パーティーに来た目的は護衛だけど今この場にいるのはクリューと話したいと思ったからだよ」

「クリューが変に避けるから話が逸れたんじゃないの?」


「うっ」


 それを言われると俺としては反論のしようもないか。まぁそろそろ皿に乗せていた料理が無くなりつつあるから、料理を追加するのを口実にミリタリアから逃げるとしよう。


 俺はミリタリアに自分の非を認め、ことわりを入れてから料理を取りに行く旨を伝えようとする。しかしそのタイミングで俺の隣に一人の大人の男性がやって来た。

 その男は四、五十代であろうと考えられ、赤色のスーツを着飾っていた。俺とこの男の二人以外でこのパーティー会場にいる男のスーツは色々な色があり、カラフルだった。中でも白や紺は比較的多めにあったので、やはりこの間ミリタリアが普通めの色と言っていたのは正しかったようだ。ちなみに黒スーツは当然いなかった。また、女性はミリタリア以外ドレスを着飾っていた。色についてはこれまた色々な色があり、こちらは黒色もあった。

 話を戻すと、俺の体格は子供なために話しかけてきた男の顔を見るためにはかなり見上げなくてはならない。超能力で浮けば目の高さを合わせることはできるが、この場でそれをやれば混乱が生まれる可能性も高いし、隠す気はもうあまりないとしても見ず知らずのコイツに知られたいと思うわけでもない。そのため俺は嫌々ながらも仕方なく見上げていた。

 男は俺と目を合わせると同時に口にし始める。


「初めまして、レーベン家のクリューソス君であってるかな?」


 男がそう口にする中、俺はテレパシーでコイツの心情を読み取っていた。この感じは純粋な興味とかもあるが最も大きいのは弱みを握ってやろう的な考えだな。父のガレス含めて俺を利用してやろうという感情が見て取れる。

 とはいえこの場において無視という選択をとるわけにはいかない。俺はその問いかけに答えることにした。


「はい、お知りいただき光栄です。私がレーベン家の次男として生を受けたクリューソス・レーベンというものです」


 できる限り礼儀正しくそういう俺を見て隣のミリタリアが驚いているように思えるが、今コイツに反応すると面倒にもほどがあるので、眼前の男との会話に集中する。


「礼儀正しい子だ。レーベン家の教育は中々に良いものらしい。ではそれに倣い私も名乗るとしましょう」


 そう言って男は俺に対して名乗り始めた。


「私はベルカ・トルートルといいます。トルートル家の当主としてレーベン家はもちろんクリューソス君個人とも良好な関係を築けることを期待しています」


 この男はそう言うがはっきり言って俺としてはそんなことをする気はない。それにはこの男が俺のことを利用してやろうという考えていることが分かっていることもあるが、それ以上にこちらを見下す考えがあることが大きい。特にレーベン家単体に関しては俺個人以上に見下しているのが分かった。こんな奴と仲良くしろというのは少なくとも現状損得勘定なしで判断するなら無しと言えるだろう。仮に勘定したところで有ると断言するレベルでもないだろう。

 とはいえ表面上だけでも返答する必要はあるので回答を告げる。


「はい。私はあくまで一息子でしかないため家の方針には口出しできませんが、それでも家に帰り次第父ガレスの方に此度の件について進言しておきます。勿論私個人としてもベルガ様とは良好な関係を築けたらと思っております」


 俺がそう言うとベルカという男は少し不愉快そうな感情を発しながらも、次の話を移ろうとした。

 不愉快そうなのはおおむね俺ごときが本当に一貴族の当主たる自分と対等に関係を築けると考えているような発言に感じたからだろう。自分から言ったこととはいえそこには少なからず不満があるのだろう。

 俺が今まで会ってきた貴族は皆普通に良い人、ないしはおかしくはあるものの良い人の二つだった。こうして初めて普通のゲス野郎に会ったわけだがやはりこういったイメージ通りの貴族が本来は多いのだろうな。

 そりゃガレスも礼儀作法云々が嫌いになるわけだ。


「ところで此度のパーティーは王女様とクリューソス様が会うことをきっかけに開かれたパーティーのようですが、クリューソス様は王女様とはどのようなご関係で?」


「私と王女様は今日初めてお会いするので、関係としてはまだありません。強いていうのならば同年代といったところでしょう」


「そうだったのですか。若き天才と称されるクリューソス様と『』と称される王女様が初の出会いとは確かに祝われてしかるべきことかもしれませんね」


 この男はそう言うが、今の発言にはひっかかるところがある。それは二つだが軽い方からいくと俺が若き天才であるという認識がすでに共有されていることだな。もともとパーティーに招かれたときからそのような話ではあったのだが、これで明確に俺以外の来客にもそのことが明かされていると分かった。

 そしてもう一つ、これが一番重要だ。王女様は禁忌と称されていることだ。俺は王様が王女様を溺愛していることから異常者ではないと考えていたがもしかしたら違うのかもしれない。俺がクライアから聞いた王女様に関する情報はそんなに多くなく、強いて言うなら王女様は滅多に外に出ないということだけだ。


 赤スーツの男はもう俺と話したいことは無くなったのか、その場を去ろうとする。俺としてもとっととその下卑た視線が消えてくれると助かるので特に止めることもしなかった。

 男が離れる動作をし始めるとすぐにミリタリアは俺に声をかけてきた。ミリタリアにしては小声だがベルカという男に聞かれないようにするための配慮だろう。


「クリューって、そんなふうにも話せたんだね」


 案の定あの男と話していた時のミリタリアの反応の予想通りだった。ミリタリアに俺は呆れるように返答する。


「当たり前だろ。いきなり貴族何かに目つけられたくないからな。必要に応じてそういったのを使い分けてるんだよ」


 俺も小声でそう返すが、ミリタリアはその答えに納得のいかない様子。


「それじゃあクリューはへの敬いを必要ないものと考えているんだ」


 咎めるようにそう言うミリタリアだがこれに関しては明確な言い分があるのですぐさま返答できた。


「いや、お前が礼儀正しくなくていいって最初のときに言ったんだろうが」


 俺の記憶が正しければミリタリアは過度な敬いは殺す的な発言をしていたはずだ。だから俺が責められる所以はないはずだ。まぁ過度ではない普通な敬いすらしてないが、そこら辺はどうとでもなるだろう。

 ミリタリアは俺にそう言われると言い返すところがないのか押し黙ってしまう。


「ん。、、まぁ、それもそうだったね」


 ミリタリアがそう言い、ようやく会話が一区切りされたようなので、俺は今度こそと料理を取りに行こうとする。

 その時だった。今度は俺の背後から声が上がる。いくつかの声があるので複数人がそれに反応していることが分かる。

 何事かと後ろを振り返る俺の目に映ったのは、俺がパーティー会場に入るときに通った扉が再び開かれ、その中心にいる一人の少女だった。

 この場所このタイミングでここまでの声が上がるということはあの少女の正体、その可能性として思い浮かぶのは一人しかいなかった。俺が知らないだけの有名人説もないわけじゃないが、可能性として高いのはやはりその人だろう。


 その少女は開いたドアからそのまま直線で突き進む。その後ろにそれなりの距離をあけて護衛の騎士らしき人物が二人ほどついて行っている。

 少女の通る道を開けるように、元々その場にいた人達は皆離れていく。いくら道を譲るためといえど開けすぎでは?少し不自然に思うほどに彼らは元の位置から距離をとっていた。まぁ不敬罪になり得る可能性を少しでも減らしたいと考えるならおかしなことでもないがしかし。


 少女はパーティー会場の一番奥にあるステージの上に立つと話し始めた。


「皆さん、今日はわたくしのためにこうして集まって御足労いただき感謝いたします」


 少女はそう言うと身に纏っている黄色のドレスを捲し上げるような動作をしながら礼をする。


「この場で多くの人が多くの方々との交流を得て、深めることのできることを祈っております」

「ご存知の通りかと思われますが、此度のパーティーの目的はわたくしとあるお方の出会いの場として設けられました。ですので皆様に何かを強要するようなことは決してございません。時間が無くなるまではお好きなようにお楽しみくださいませ」


 そう口にし終えた少女は突如として俺の方を向き、俺達は目を合わせる。これの意味するところは貴方だけは例外ね、ということだろう。


「最後に少しだけ言わせていただいてこの話を終えたいと思います」


 そうして一息ついてからその少女は口にし始めた。


「此度は本当にお集まりいただきありがとうございました。わたくし、第一王女であるエルスサテラ・リオレスのパーティーを是非ご自由にお楽しみください」


 そんな宣誓と共に会場内には拍手の音が鳴り響く。俺も変に目立つのを避けるために手のひらを叩き合わせて拍手する。やはりあの少女は王女様で間違いないようだ。

 拍手の音が止んできた頃合い、ようやく俺は先ほどから感じていた違和感や不可解な点について考え始める。

 まず一つ目に王女様を守るための騎士の位置が護衛にしてはあまりにも距離を置いている点。はっきり言ってあの距離しか離れていないなら俺でも今すぐ殺そうと動けば殺せる気がする。勿論実は騎士のスピードが想像以上に速い可能性もある。だがそれにしても万が一を考えるならもっと近くていいはずだ。近づきすぎて速く動く邪魔にならないようになどの理由でとる距離はとっくのとうに越している。

 まずはこの違和感があった。そして次に二つ目の不可解な点。道を譲った時からだがあまりにも俺やミリタリア以外の人間の王女様に向ける感情がおかしい。俺はテレパシーで昔から人の感情をよく感じてきたからこそテレパシーを使わなくても表情を見れば何となくその人の持ってる感情が分かる。特に負の感情に関してはな。

 テレパシーは俺とその人物との間での感情を検査するのには向いてるが、他者と他者の間の感情に関して把握するのは向いていない。一応対象の精神状態を軽く察することはできる。だがその感情がどこへ向かうのかまでは判別が効かない。となると直接どこへ視線が向かっていくのかを見る必要がある。どうせ顔を確認する必要があるのだからこそ今回はテレパシーを全員に対して使わず、こうして殆どを経験則で彼らの感情を読み取ってるわけだ。そして長々と説明したがそうして読み取った感情というのがはっきり言って王女様に普通向けるようなものではない。

 奇異なものを見るような感情がわずかにありつつも、次に恐怖、そして純粋に逃げたいという逃避欲。はっきり言ってこんなものをいち少女に抱くのは異質だ。

 だが簡単にありえないと否定できないのは、隣にいるミリタリアとかいう存在が大きわけだが、俺はそこまでの強さがあの王女様にあるとは正直思えない。

 ミリタリアにしろタラバにしろセコンドにしろ、あるいは前世で出会ったの人達や神にしろ、独特の風格があった。必ずしもそれらは強者の圧としてのものではなかったが独特のものがあったのは間違いないだろう。

 そんなものを一切感じないあの王女様にあそこまでの感情が集中する理由はやはり不可解だ。


 俺なりに理由を考えるなら二つだった。

 一つは王様が実は悪逆非道な存在で、彼が溺愛してる王女様に万が一何かがあったら何されるかわかったものではないから少しでも関わらないようにしている。

 だがその可能性は低いと俺は思う。まずその場合あの二人の騎士は離れるよりももっと近づくのではないだろうか?だって万が一と言うのであれば、自身が何かをしてしまう恐怖よりも、自身が騎士としての役目を果たせないことを危惧するのではないだろうか?

 もちろんこれにはいくらでも理由づけて反論できる。そこまで頭が回らなかったというものから、ミリタリアがいるので今回は守れないというリスクを危惧しなくなったなどな。

 だが可能性が低いのは変わらない。それに俺が王様と実際話してみて悪逆非道な存在とはとてもじゃないが思えなかった。国のためなら非道にもなろうが、ここまで恐れられるというのには理由なき非道でなくてはならないだろう。だが俺にはそうは思えなかった。

 やはり総合的に見て、この可能性は低いと言えるだろう。

 では俺が考える可能性二つ目は何なのか?それは王女様が何らかの形で自身の意図に反する何かを持っている。そういう可能性だ。

 この場合の何かとは例えば触れたら爆発する爆弾とかだ。これならば禁忌と称されるのにも納得がいきやすい。だがその場合はその場合で問題が発生する。こんな公の場にそんな存在を連れてくるだろうかということだ。

 結論は出そうにないので手っ取り早く答えを聞くこととしよう。俺はコイツなら知ってるだろうと隣にいる人間に聞くことにした。


「ミリタリア、王女様は何か問題でも抱えているのか?」


 俺がミリタリアにそう聞くと、ミリタリアは少し悲しげな表情を見せた後口にし始めた。


「それは言えない。多分王女様自身が自分で説明したほうがいい気がする」


 ミリタリアはそんな王女様の自主性を重んじる発言をする。口軽なこいつでさえこう言うということはやはり何かしら大きな事情があるのだろう。それを人伝で聞くのは本人にとってはあまり気持ちの良いものとは言えないだろうし、実際ミリタリアはそう判断したのだろう。

 俺としてもこれから話し合うであろう人に対してそんなことはしたくない。


「そうか分かった」


 それだけ言うと俺はその話を止めた。ちなみに王女様は俺たちが話している間に再び扉を通り出ていってしまっていた。

 俺はこの会話に区切りがついた今度こそと料理を取りに行こうとしたときだった。本日もう何度目かの呼び掛けにあった。


「少し良いでしょうか?」


 背後から聞こえてくる声に応えるように後ろに振り向くと騎士らしき甲冑を身につけた老人がいた。そして俺はこの男に見覚えがあった。先ほど王女様から距離を空けて護衛していた二人の騎士のうちの一人だ。


「はい、何でしょうか?」


 改めて礼儀正しき状態になる俺はそう口にした。


「王女様からクリューソス様を案内するようにと仰せ預かっておりますので、お呼びに参りました」


 そう目的を口にする老騎士の言葉に嘘はなさそうだった。これはテレパシーで確信した情報だから間違いない。

 しかしやはりと言うべきか話す場所はここではないようだ。王女様が目を合わせてきたり、ここを出ていったときから何となく察してはいたがを気にせず内密な話をしたいということなのだろうか。だとしたらこの人やもう一人の騎士の方もその『』の枠組みの中に入るのかなどの疑問は尽きないが、ひとまず答えを口にしよう。


「そうでしたか。でしたら王女様を待たせるわけにもいきません。早速向かうとしましょう」


 俺がそう答えると老騎士は案内するように動き始めたのでその後についていく。ミリタリアには軽く手を振りお別れを済ませた。ちなみにミリタリアも手を振り返してくれていた。

 そして俺は持っていた皿を使用済み皿を置くスペースに置いてから、扉を通ってパーティー会場を出る。そこからしばらく歩いた後、俺は老騎士に一つの質問をすることにした。


「騎士様、一つお聞きしてもよろしいだろうか?」


「はい、問題ありません」


 俺は本人がそう言うので遠慮なく質問することとする。


「王女様は危険な何かを抱えているんですか?」


 俺がそう言うと老騎士は驚いたような顔を見せながら話し始めた。


「クリューソス様は知らなかったのですね。でしたらそれはエルスサテラ様自身から聞いた方が宜しいかと。ご期待に応えぬご無礼をお許しください」


 そう言いながら頭を下げる老騎士に対して俺は言った。


「いえ、そんな気にせずとも平気です。それではお詫びついでにもう一つだけ質問を。騎士様は王女様のことがお嫌いですか?」


 そう言うと老騎士は再び驚くもののすぐさま落ち着いて話し始めた。


「決してそんなことはございません、むしろその逆です。エルスサテラ様ほどお可愛い王女はいないと、私ももう一人の騎士のものも考えています」


 テレパシーで反応を見るにこの発言に嘘はない。となるとやはり王女様自身がとんでもないやつで避けられてる可能性は低いか。

 老騎士は続けて話す。


「だから私たちはエルスサテラ様には幸せになってもらいたく、苦しむようなことなどあって欲しくはないのです」


 そう口にする老騎士の顔は確かな慈愛と共に悔しさのようなものがあった。この場合は王女様は大切だが自分では幸せにしてやれない的なことだろう。

 やはり王女様の問題もまた色々と面倒そうだ。


「大切なんですね王女様が」


 俺がそう問いかけてみると、騎士様は笑みを浮かべから口にする。


「はい、私の騎士としての全てを賭けてでも大切なお方です。ですからクリューソス様には失礼ですが一方的な期待を寄せているんです」


 この場でそんなことを言われるのは普通に予想外ではあったものの、俺は口を挟まずに続きを聞く。


「エルスサテラ様が自分から誰かに会いたいなどと口にしたのはクリューソス様が初めてなのです。そして実際にお呼びまでしました。サルテンツ王を含め、があってからはエルスサテラ様は自身から誰かに会うのを本能から恐れておるようですので」


 『』というのが何なのかは気になるが、さっきの様子を鑑みると恐らくそれを聞いたところでまた本人に聞いてくれと言われるだろな。

 それにそれとは別に気になることもある。王女様が自分から会いたいと口にしてこの場に呼んだ。この老騎士はそう言ったがそれは俺の予想だにしていなかったことだ。というのも元々この謁見自体は完全に王様が仕組んだものと考えていたからだ。王様は予言があり、その結果俺を王都に招待したはず。となると王女様が求めたから俺を呼んだという話はおかしくなる。なのにこの騎士の発言はそれらの事情を鑑みていない発言に聞こえる。となると、元々は王女様が俺を呼ぶように頼みこみ実際に呼ぼうとした。だがそこに予言の話が出てきて、元々の話にこじつけて俺を殺すよう指示したということか?

 俺はそんなことを考えこみ、話をしてくれる老騎士に未だに相槌を打つことも普通に返答することもなかった。そんな俺の様子を見て、黙って続きを促しているのだとでも思ったのだろう、老騎士は続きを話し始めた。


「エルスサテラ様がクリューソス様に何を求めているのかを私は知り得ていません。ですがエルスサテラ様があの日以来ついに新しい一歩を歩み始めたのは間違いようのない事実なのです」

「ですから是非、誠に勝手ながら言わせてもらいます。エルスサテラ様の期待にお応えください。これは私個人からの取るに足らないお願いですが、何卒よろしくお願いします」


 そう言って立ち止まった老騎士は深く頭を下げる。俺はその態度に感じるものがありつつ、口を開く。


「内容によるとしか言えませんが、、そうですね。そう言われては簡単に王女様に求められるであろうことへの可否は決めれませんね。王女様が何を私に期待しているのか、それは分かりませんが、やれる限りの最善は尽くすとレーベン家に誓って約束いたしましょう」


 貴族にとって家名に誓うことは最大限の誠意を示していることになる。口約束に過ぎずともその効果は絶大だ。この老騎士はそれがわかっているのだろう、深く頭を下げながら口にする。


「感謝致します!」


 そこからは多少の雑談をした後、王女様が待っている部屋に着くまでは無言が続いた。途中に騎士に聞いたことだが王女様の待っている部屋は王女様の普段過ごしている自室らしい。そうなると俺は女子の部屋に入るわけで、そうなると少し緊張してくるな。


 そしてそれとは別に俺はその無言の中色々なことを考えていた。

 王女様は俺に何かを期待している、、、か。思い当たることはある。パーティー会場で王女様と目を合わせた時のあの感じ。あれは確かに俺に何かを期待しているように感じだ。テレパシーで読み取ることこそできなかったが確かに期待されているのを感じたのだ。何故かは分からないが。

 だがあの期待は期待と言ってもどこか普通のものとは異なるように思えたのだ。これもまた何故かは分からないが。


 そして俺はついに王女様が待っている王女様の自室に到着する。

 王女様の自室の前には王女様を守っていた二人の騎士のうちのもう一人がいた。部屋の外の護衛ということだろう。


 俺は彼にも軽く会釈すると、その彼がドアを開けてくれた。

 ドアの向こうには何があるのかそう考えながら部屋の中を見た俺は、そのあまりの光景に絶句する。

 ひとまず俺は部屋の中に入る。するとドアはすぐさま閉められたので、これは完全に二人でごゆっくりということだろう。


 さて、何故俺が部屋を見て絶句したかと言えば、特に何もない。

 ふざけるな、と思うかもしれないが俺が絶句した理由はないのだ。言い方を変えるなら何もないからこそ絶句したのだ。

 この場合の何もないとは文字通りの何もないだ。つまり今この部屋の中には俺と王女様以外何もないということ。だから普通過ごす上で必要なベッドもテーブルも椅子も、あるいは収納スペースの棚や趣味の道具。そう言った何から何までなかったのだ。

 言ってしまえば新築の何もない部屋のような光景は、王女様の自室であるとして入った身の俺からすれば唖然として然るべきものだったのだ。

 そんな光景に唖然している俺に、一人の少女が話しかけてくる。今この部屋には二人しかおらずそして女性となれば一人しかいないわけなので俺に話しかけてくる少女とは当然王女のことだ。


「クリューソス様、労いのお茶やお菓子を用意できず申し訳ございません」


 この部屋にはティーカップどころかテーブルや椅子もないのでそれも当然なのだが、この場合の問題は何故そんなものすらないのかということだろう。だがそれを言ったところでどうしようもないので俺は王女様がそれを気にしないような発言をすることにする。


「いえ、そういったことは気にせずとも平気です。パーティー会場で食事は好きなだけ済ませましたから。むしろそれらがあった方が困ったくらいです」


 本当は食べたい料理をいろんな奴らのせいで食べられずにいるので、腹的にはまだまだ心もとないのだがそれを隠してそう口にする。そんな答えを聞いた王女様は安心したような笑みを浮かべる。


「そう言われると助かります。実はこの部屋でそういったものを用意できないことを見越してパーティー会場では多くの料理を目一杯に作っておくよう、コックに伝えておいたんです」


 その王女様の優しい気遣いを俺は見事に無駄にしていたわけだが、何とかそれを表情に出さないようにする。はっきり言って多少罪悪感を感じてきているが、その罪悪感を一部でもいいからミリタリアに、残り全てをあの下卑た貴族に渡したいところだ。


「そうでしたか、お心遣い感謝致します」


 そう言うと王女様は笑みを浮かべた後、すぐさま表情を正した。

 こう言うのも何だがその顔はかなり可愛らしかった。改めて王女様の容姿を解説するとミリタリアよりもやや短く、肩を少し越したくらいの長さの金色の髪。そして見るもの全てを虜にするだろうと言うぐらい透き通った翡翠色の瞳。顔つきはかなり可愛らしかった。ミリタリアは美しさも兼ね備えていたが、王女様は美しさが少ないが、その分さらに可愛さを追求しているような印象を覚える。

 はっきり言って確かにこれは美少女だし少し話しただけで惚れてしまっても無理はないと言えるだろう。俺はそうはならないが、事前にミリタリアという認めたくはないが容姿だけは美少女と会っていなければ、惚れるとはいかずとも冷静とはいかなかったかもしれない。そう言う部分は素直にミリタリアに感謝だ。

 ちなみに王女様は黄色のドレスを着ており、金色の髪と合わさって可愛さ成分の強かった王女様の美しさを補強しており、それは総合的に見たときにかなりの美しさを誇っていた。

 そしてそんな王女様が表情を正して俺に言う。


「早速なのですが、今回このような形でクリューソス様をお呼びしたことの本題に入ってもよろしいでしょうか?」


 そう言う王女様の表情はやはり真剣そのものでふざけた返答などは絶対に許されない雰囲気だった。俺はそのやけに重苦しい雰囲気に萎縮することもなく、返答を口にする。


「えぇ、入ってもらって構いません」


 俺がそう言うと、王女様は美しい金髪を揺らしながら一息ついてから、その本題というのを口にし始めた。


























わたくしを殺してはもらえませんか?」






 その内容は当然当事者である俺にとっても、部屋の外にいる騎士にとっても、そしてこんなことを言っている彼女本人の父親でさえ予想外なものだったであろう








 殺しの依頼だった。

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