師炉夫妻襲来
勇魚とデート!? そして現れる師炉夫妻
途中で車から新幹線に乗り換えた。
発車まで少し時間があったので勇魚と一緒に駅内を巡ってお菓子やら飲み物やら駅弁を買った。もちろん費用は『ダン室』のツケにしてやった。こっちは命懸けでダンジョンを攻略するんだから、それぐらいしてもらってもいいはずだ。
新幹線の中じゃちょっとした旅行気分だった。隣には同級生の美少女がいて、美味しい弁当と会話を楽しむ。和やかな雰囲気に会話も弾む。
「見て見て能見くん! 富士山がきれいに見えるよ!」
「おぉ~! スゴいなぁ~!」
なーんて、時々景色を二人で眺めたりなんかして修学旅行って感じ……ま、中学の修学旅行のときはヤロー共としか話してなかったけど。
俺も成長したのかな、としみじみ思う。あの頃は女子と話すなんて夢のまた夢、ヤロー共とアニメ、ゲーム、漫画、ラノベの話題ばかりで色気もクソもなかったもんね。まぁ、それはそれで楽しかったけども。
それを思うと、ヒョロガリからマッチョメンという見た目はもちろんだけど、女子と話すことすら覚束なかった中学の頃からは考えられない大変化だ。大出世といっていい。
つい最近まで一般陰キャ男子高校生で女子とまともに喋ったことのなかったザ・冴えないオタクくんだった俺が、まさかのまさか世界的有名な冒険者の娘にして現役女子高生美少女冒険者の師炉勇魚とこうやって二人っきりで……ん?
二人っきり?
しかも女子と?
これってさ、アレじゃない?
つまり巷で言われるところのいわゆる『デート』ってやつじゃない!?
今俺、人生で初めてデートしてる!?
しかも美少女と!?
思いがけない唐突な幸せが俺を襲う!?
『ノーキン、お前、変わっちまったな……』
なんて嫉妬に満ちたグラの声が聞こえてきそうだった。
悪いなグラ、俺、一足先に大人になります。
羨ましいか?
羨ましいだろ。
悔しかったらお前もマッチョになるんだな。
いや、グラの幻聴なんて相手にしてる場合じゃない。今はデート中なのだ。勇魚の相手をしてやらないと彼女拗ねちまうからね。フッ、モテるマッチョは辛いぜ……。
……俺、いくらなんでも調子に乗りすぎだな。
もし、こんなこと考えてるって勇魚にバレたらまず間違いなくドン引きされる。冷静に客観視してみるとかなりキモい思考だ。振り返るのも恥ずかしい。さっさと反省しよう。自分を省みてこそ真のマッチョだと俺は思います。
それはそうとして、勇魚はかわいい。
眩しい笑顔、キラキラした瞳、楽しそうに話すときの上ずった声、弁当やお菓子を食べるときの小動物的を思わせる小さなモグモグ、髪をかきあげたり、箸を持つ手や身振り手振りの一挙手一投足、どこをどう見ても全てがかわいい。
ホント、かわいいなこのコ。かわいすぎて男なのに嫉妬しそう。ここまできたら罪だろ。かわいくて死刑になりかねない。それだけ勇魚のかわいさは罪深い。それでもきっと勇魚は無罪になる。美少女は無罪ってどっかのパイレーツも言ってたし。
この頃は俺もようやくそんな勇魚のかわいさにも慣れてきて、緊張することも減ってきた。
でも、その代わりに勇魚がちょっとでもかわいらしい仕草をすると、今度は俺の表情筋がだらしなく弛緩するようになってしまった。
でへへ、勇魚はホントかわいいなぁ、頬がだらーん、ハッ! いかんいかん! ゆるゆるに緩みまくったマッスルなんて見てられん! しっかりせねば! ってな感じで気をつけなければならないこと多々あるので、勇魚といるときは結構神経を使う。
そんなわけで、肉体はどこに出しても恥ずかしくないマッチョタフガイになった俺ではあるが、心の方はまだまだヒョロガリ童貞だ。
こればっかりはかわいい女の子、つまり勇魚と接することで心のトレーニングをして精神的筋肉を付けていくしかないだろう。ローマとマッチョは一日にしてならず、だ。中身が出来上がるのにはそれ相応の時間がかかるわけですな。
『なーに殊勝ぶってんだよ! 師炉さんとイチャイチャしやがって! しかも下の名前で呼んでるだと!? うらやまけしからん! お前、本当に変わっちまったよ……!』
うるせー脳内グラ、ちょっと黙ってろ。
男のジェラシーは見苦しいってハンターハンターでも言ってたぞ?
モテたきゃ嫉妬よりも筋トレを頑張れ。俺ができるアドバイスはそれだけだ。
しっかし、真夜中の雷より苦手だった女子との会話がここまで弾んで楽しめてしまうとは思っても見なかった。
脳内グラの言う通り、俺は気が付かないうちに肉体だけじゃなく中身の方も変わってしまったらしい。
これもやはり『マッチョ効果』だろう。筋肉増強による身体的負担が軽減されることで、同時に精神的負担をも軽減するのかもしれない。
ひょっとしたら筋肉量と幸せの量は相関関係にあるのかもしれない。うーん、ノーベル賞級の発見だな、こりゃ。『マッチョ相乗効果』としていつか論文にして公表しよう。ノーベル筋肉賞も夢じゃないな。
やはりマッチョだ。筋肉は人生を向上させ、全てを解決する。
さぁ、皆様も俺とレッツ筋トレ! お前もマッチョにならないか?
ま、俺のマッチョは<ユニークスキル>である<
とまぁ、この数日間は俺史上一番、女子との会話が弾んだそれはもう楽しい楽しい夢のような日々だった。
こんな毎日が永遠に続けばいいのに……俺は心底そう思った。
が、そんな願い虚しく、終わりはいつも唐突にやってくる。
現地に到着してからも俺と勇魚はカフェを巡ったり食事をしたり、しばしの間デートを楽しんだ。というのも到着したときにはダンジョンの成長段階が第二ステージで、攻略不可能だから他にやることがなかったのだ。
しかし到着から四日目、現地のホテルに設置された臨時攻略対策室で、ついにあの夫妻との邂逅を果たしてしまった。危険なダンジョン攻略を俺に強制した全ての元凶であるあの夫妻だ。
「君が能見琴也くんだね? 私は勇魚の父、
「妻の
ネットや写真でしか見たことのない、冒険者を志す者なら誰もが憧れるあの世界的に有名なダンジョン冒険者夫妻が唐突に俺の目の前に現れた。
うぉー、すげー、あの超有名人が、誰もが憧れる世界的ダンジョン冒険者ナマで拝めるなんて、ひゃー、感動です、ぜひ握手を、写真を、もう俺は興奮の絶頂に……とはならない。
なるわけない。むしろ敵意と警戒心が俺の中で高まる。
なんせこの夫妻はいたいけな一般マッチョ高校生に前代未聞の危険なダンジョン攻略を強制した大元凶なんだから。
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