Day.2 炊飯器で作る全粒粉のパンと、いろんなアレンジ
AM5:00
携帯のアラームを止め、静かにベッドから抜け出す。
昨日は夜遅くまで海外ドラマをまとめて見てしまった。まだぼーっとしている頭を目覚めさせるために、冷たい水で顔を洗う。
カーテンを開けるとまだ夜が明けきっていないような暗さだった。つい最近までカーテンを開けると目が覚めるような明るさだったはずなのに。
四季の中で一番夏が好きな隼人は夏の終わりを感じ、ふと寂しさを感じた。
キッチンに行きエプロンを腰に巻くと、パントリーから全粒粉を取り出す。
その全粒粉をボウルに200gと、オリーブオイルを大さじ3杯。そしてベーキングパウダーを大さじ2杯入れて、水を150ml計り入れた。塩はほんのひとつまみで、今回は卵もひとつ入れた。
卵を入れないと、もっちりとした食感になり、それはそれで美味しいのだが、今回は冷蔵庫に卵のストックが多くあったので入れてみた。
ボウルに入った材料をヘラでよく混ぜて、そのまま炊飯釜に移す。そして炊飯スイッチをON。
ピピピーと軽快な電子音が鳴り、あとはお任せするだけだ。
オーブンを持っていないため、パンなんて焼けないと思っていたが、炊飯器でパンが焼ける!というネット記事を見て試しにやってみたのが始まりだった。
記事ではホットケーキミックスを使用していたが、最近健康に対する意識が高い隼人は全粒粉で作れないかと考え、試してみたら思っていたよりもいい感じに焼けたのだ。
炊飯器に「50」と残りの分数が表示されているのを確認して、隼人は冷蔵庫からアボカドと卵を取り出した。
片手鍋に湯を沸かし卵を2つ入れる。その間にアボカドをサイコロ状に切った。皮と種が綺麗に取れるアボカドが当たると嬉しい。アボカドの目利きにはだいぶ長けていると思うが、時々失敗することもある。
10分ほど茹でた卵も同じように細かく刻み、アボカドと合わせてマヨネーズで和えた。レモンシロップを小さじ1杯と塩胡椒を少々かければ、アボカドと卵の簡単タルタルサラダの完成だ。
果穂が職場で貰ってきたシャインマスカットも何粒かもぎ取り洗っておく。
そこまでしても、まだパンが焼きあがるまで時間があるのでビンと缶のゴミをマンションの下まで出しに行った。
まだまだ日中は暑いが、朝晩は涼しい風が吹く。少しずつ明るくなってきた空をしばらく眺めてから、再び自宅に戻った。
キッチンに戻ると、タイミングよく炊飯器が炊き終わりを告げている。
両手にミトンをはめ、釜をひっくり返しまな板にパンを置く。
円盤状のそれは、あまり見た目は良いとは言えない。初めて作った時は「これ…美味しいのか?」と不安になったのを覚えている。
丁寧に包丁を入れ、薄めにカットした。4枚だけ皿に取り、あとはタッパーに入れて保存。
保存料は何も入っていないため、2〜3日で食べ切らないと大変なことになる。
以前、大事にとっておいたパンにほわほわとしたカビが生えているのを発見し、果穂と一緒に悲鳴を上げたことがあった。
AM6:30
「おはよー」
果穂が寝室からとぼとぼと歩いてきた。
「おはよう。もう出来るよー」
「ありがとー」
焼きたてのパンをトースターで表面だけ少し焼き、アボカドと卵のタルタルサラダを塗る。横にシャインマスカットも盛り合わせた。
淹れたてのホットコーヒーもテーブルに置き、顔を洗ってきた果穂もテーブルについた。
「「いただきます」」
タルタルサラダがこぼれ落ちないように、慎重にパンに齧り付く。全粒粉の香ばしい風味と、アボカドのクリーミーさが非常にマッチして美味しい。
「タルタルめっちゃ美味しい!やっぱしょっぱい系もいいね」
果穂に喜んでもらえることが何よりものご褒美だ。大きな口でパンを頬張る果穂を見て微笑み、隼人は水々しくて粒の大きいシャインマスカットを、一粒口の中に放り込んだ。
「このシャインマスカット甘くて美味い」
「本当?…あ、本当だー!今日お礼言っとこう」
「どこかのお土産だっけ?」
「ううん、ふるさと納税の返礼品だって」
「そっか」
そんな何気ない会話をしながら、朝食の時間を楽しむ。
一緒に住む前は、お互い家を出るギリギリの時間まで寝て、朝食なんて食べずに仕事に行くのが基本だった。それが今ではどんなに忙しくても、この時間は大事にしようと、2人で決めている。
「ご馳走様ー。美味しかった」
果穂が2人分の食器をシンクに下げ、隼人がテーブルを拭いた。
そのまま果穂は自分の身支度をする為寝室に戻り、テレビの天気予報で雨マークがついていないことを確認し隼人は洗濯機のスイッチを入れた。
「もうこんな時間だー」
バタバタと小走りで果穂が寝室から出てくる。
ハーフアップにまとめた髪は毛先が少し巻かれていて、柔らかい素材のリボンが後頭部で揺れている。
「今日の髪型かわいい」
「本当?ありがとう」
嬉しそうに笑う果穂の髪を柔らかく撫でた。
毎朝、時間のない中しっかりヘアメイクをきめてくる果穂にはいつも感心する。
「じゃあ、行ってきます!」
「うん、気を付けてね」
廊下を歩く背中が見えなくなるまで見送った。
遠くでは、まだ蝉の鳴き声が聞こえている。
Next moaning
AM7:00
「あ、今日はオープンサンドだ!」
テーブルを見て果穂が嬉しそうに呟く。
今日は、昨日作った全粒粉のパンにクリームチーズのペーストを塗り、半分に切ったシャインマスカットを並べオープンサンドにした。
果穂がもらってきたこのシャインマスカットが甘くて美味しいのは昨日の朝確認済みだ。
「「いただきます」」
声を揃えて、パンを頬張る。
「美味しい!クリームチーズがちょっとしょっぱいのがまたいいわー!」
「果穂、あまじょっぱ好きだもんね」
クリームチーズのほのかな塩味がシャインマスカットの甘さを引き立てている。横に添えた目玉焼きの焼き加減も、我ながら上出来だ。
「このオープンサンド、あと5枚はいける!」
「まだ作れるよ?」
あっという間に平らげ、まだ物足りなさそうな果穂に笑いながら問いかける。
「うーん…でもお腹いっぱいになると眠くなっちゃうから我慢しとく!」
「おっけー」
その気持ちは隼人もよく分かっていた。朝や昼にしっかり食べすぎると、血糖値の低下と共にそのあと急激な睡魔に襲われるのだ。
甘めのパンとブラックのコーヒーがよく合う。
最後の一口を飲み干し、手を合わせ「ご馳走様」と呟いた。
Next moaning.
AM7:00
「いい匂い!もしや桃だな?」
果穂の嗅覚は鋭い。警察犬並みだ。
今日は、ざく切りにした桃とギリシャヨーグルトを和えたものを全粒粉のパンに乗せた。
「よく分かるね?」
「桃の香りって大好き!もう、こんなの絶対美味しいじゃん!いただきます!」
確かにスーパーで桃の香りを嗅ぐと、買う予定はなくてもつい手に取ってしまいそうになる。何を隠そう、この桃もそういう経緯で購入したものだ。
「美味しい!これヨーグルト無糖?」
「無糖。で、ちょっとハチミツ混ぜてる」
「最高」
3日目のパンは水分が飛び少しパサつく為、水分量の多いものを合わせると良い。中でもギリシャヨーグルトは、塗るのにちょうどいい硬さで隼人のお気に入りだった。
「ヨーグルトの水分が染みて、パンがしっとりしてる!ヨーグルトはチーズみたいに濃厚になってるし、桃も瑞々しくて美味しい!」
果穂の詳細な食レポはいつも隼人を喜ばせてくれる。美味しいものは美味しいとしか言えない隼人は、果穂の語彙力を密かに尊敬していた。
「今日も美味しかったー。ありがとう。ご馳走様でした!」
果穂が満足気に手を合わせる。
「食器そのままでいいよ。支度しておいで」
「ありがとう」
小走りで寝室に戻る果穂を見ながら、空いた食器を片付けた。
キッチンがまだ桃の香りに包まれている。
To be continued…
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