第31話 これからも3人で

 

――おや、だいぶ早いお目覚めだな。


 リビングに入るとそこにはやはりアリサさんの姿がありました。ダイニングテーブルで一人グラスを傾けるその姿はどこか艶っぽく、いつも以上に大人に見えました。

 「気分はどうだ」

 「頭痛いです」

 「初めての酒にしては少々強かったかもしれないな」

 「もしかして帰らずに残ってくれてたんですか」

 「酔い潰れを置いて帰るのはさすがに気が引ける。それに、少々飲み足りなかったからな」

 「お酒強いんですね」

 「嗜む程度にな」

 「エドは?」

 「そこで寝てる」

 アリサさんが指差す方――リビングの隅でコートを毛布代わりに掛けられたエドは静かに寝息を立てています。寝相も良いし、なんかちょっと意外な一面を見れたかも。でもこれは朝まで起きそうにないかな。

 「今日はこのまま寝かせてやった方が良いな」

 「そうですね。その分働いてもらいましょう」

 「ハハ。そうだな。ところで、いつまで突っ立てるんだ?」

 「え?」

 アリサさんの問い掛けで自分が立ちっぱなしだったことに気付く私。そういえばお水を飲み来たんだった。

 「水を飲みに来たんじゃないのか。持って来てやるからソフィー殿は座ってると良い」

 「あ、ありがとうございます」

 「ついでに少し付き合ってくれ。さすがに一人で飲むのは飽きてきたところだ」

 「飲みませんよ?」

 「話し相手にはなるだろ? ほら、飲めば少しは楽になると思うぞ」

 水の入ったコップを受け取る私はテーブルを挟んでアリサさんと向き合うように座座ります。こうやってアリサさんと話すのって初めてかもしれません。

 「それで、何を話しましょうか」

 「そうだな。女同士、浮いた話などが定番かもしれないがあいにく持ち合わせていないからな」

 「私もないですね。残念ですが」

 「そうなのか?」

 「もしかしてエドのこと言ってますか?」

 「ほかに誰かいたかな?」

 「師匠とか?」

 「ルーク殿は年が離れすぎているだろう」

 「それもそうですね」

 「で、実際のところどうなんだ?」

 「どうもなにもエドは――そうですね、大切なパートナーですね」

 パートナーという言葉を使えば普通は恋人とかそういう意味に聞こえるよね。だけど私たちはたぶん、少なくともしばらくはそういう関係にはならないと思う。それを分かっているからアリサさんも黙って私に話に耳を傾けてくれます。

 「たしかに喧嘩もしますけど、知らない土地に単身乗り込んだ私のことや薬局のことを誰よりも考えてくれているんですよ。そういう意味では大切なパートナーだと思ってます」

 「そうだな。エドがこの店やソフィー殿のことを一番に考えているのはアタシから見てもよくわかる」

 「分かっていて聞きました?」

 「もしやってこともあるだろ?」

 「まぁ、一番頼りにしているっていう意味では正解ですね」

 エドが私のことを信頼してくれているのと同じ。知り合って一年近く経ったいまでも本人に直接言うのは恥ずかしいけど、私もエドを一番信頼しているからこれからも頼らせてね?

 「ソフィー殿」

 「なんですか?」

 「あの時、門前払いせずにリズを診てくれたことはいまでも感謝している。ありがとう」

 「急にどうしたんですか」

 「いや、考えてみればきちんと礼を言ったことがなかったなと思ったんだ」

 「お礼を言うのは私の方です。アリサさんみたいな採集者さんに出会えてよかったと思ってます」

 「そう言ってもらえるなら何よりだ。これからもよろしく頼むぞ」

 「はい。私こそよろしくお願いしますっ」

 エルダーに来て初めて迎えた大樹祭の夜。皆で騒がしくなるかなと思ったけど、どうやらこのまま静かに聖夜の宴は終わりそうです。

 あと1週間もすれば大晦日。エルダーに来て最初の1年が過ぎようとしています。薬師1年目をなんとかやってこれたのは全部エドやアリサさんがいたから。来年も3人で楽しくのんびりやっていけたら良いな。

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