第9話 新しい仲間
リズさんの遺体は急ごしらえで用意された棺に納められ、村の共同墓地に葬られました。参列したのはアリサさんをはじめ、私とエド。それに村長さんや話を聞いて駆けつけてくれた村の人たち。皆の手でリズさんの棺は埋葬されました。
「今日は本当に世話になった。見ず知らずの者にここまでしてもらえるとは思っていなかった。リズも喜んでいるはずだ」
「いえ。出来ることをしただけですので」
「エドだったな。墓地のことなど村長殿に掛け合ってくれたのだろ? ありがとう」
「別に礼を言われる程のことじゃないですよ」
「それでもだ。本当にありがとう。心から感謝している」
私たちを前に深々と頭を下げるアリサさんに少し照れ臭さを覚えてしまいます。
埋葬を終えて薬局に戻った頃には日が暮れ始め、アリサさんは今夜もウチに泊まることになりました。そしていまはエドも一緒に夕ご飯を食べているところ。普段は一人で食べているので賑やかなのは言うまでもなく、やっぱり誰かと一緒に食べるご飯は一段と美味しく感じます。
「それにしても、薬師殿は調薬だけでなく料理も上手いのだな」
「確かに。ソフィーの料理、初めて食べたけど美味いな」
「ありがとうございます。王都にいた頃は師匠と交代で作ってたから自信はあるんですよ」
「へぇ、あのオッサン。料理できるんだ」
「会ったことないのに“オッサン”なんて言わないでよ。なんでも出来るすごい人なんだから」
「薬師殿は師匠殿のことが好きなのだな」
「はい。私を育ててくれた恩人でもあるので」
「育ててくれた? なんか興味あるな」
「あれ? 話してなかったっけ?」
エドには私が孤児だったことを話したつもりだったけど、いまの反応はどうやら話していないみたい。せっかくだしこの機会に話しても良いかな。
「実は――」
「――薬師殿」
「は、はい」
「話の途中に済まない。だが、なんというかタイミングを見失いそうでな。少し、アタシの話を聞いてもらいたいのだが」
「それは構いませんが、どうしたんですか?」
「昨日の件なのだが――」
昨日? ああ。私が専属の採集者になって欲しいと言ったアレか。心当たりのある私はすぐにピンときたけど、あの場にいなかったエドには全く見当がつかないみたい。
「一晩考えたんだが、薬師殿の話に乗ってみようと思う」
「それって……」
「ああ。アタシを薬師殿の専属採集者に雇ってほしい」
「良いんですかっ!」
「薬師殿の言う通り、ここにいればリズの傍にもいれる。それに拠点を置くというのはメリットが大きい。薬師殿の提案はアタシにも利があると判断した」
「ありがとうございますっ」
「あのさ、いったいなんの話をしてるんだ? っていうかアリサさんも雇うのか?」
「実は昨日ね、アリサさんに専属採集者としてウチで働かないかって話をしたの」
「は? あの状況でよくそんな話できたな」
「だ、だって――」
「ま、まぁ。アタシは気にしてないからそのくらいに、な?」
「アリサさんがそう言うなら。でも、コイツ人使い荒いですよ?」
「ちょっ、その言い方はないでしょ」
全く心外だ。そりゃたまには意地悪するけど、本気でこき使う事なんてないのに。私みたいに優しくてかわいい店主はなかなかいないよ?
「おまえ、いま自分のことを“優しくてかわいい店主”とか思っただろ」
「事実だから良いでしょー」
「アリサさん、いまならまだ取り消せますよ?」
「ちょっとエド! なんてこと言うのよっ。アリサさん、取り消さないですよね!」
「ああ。むしろ二人を見てこの薬局なら専属契約しても良いと思ったよ。実に楽しそうな店だ。これからよろしく頼むぞ。ソフィー殿」
ニコッと笑顔を振り向けるアリサさん。その姿を見て喧嘩腰だった私とエドもつい笑顔になります。
こうしてウチにも専属の採集者さんが仲間入りしました。話の展開的には急だけど、村での生活がさらに楽しくなる予感がしたのは私だけじゃないよね。
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