放課後とぼろぼろの切り札

春羽 羊馬

放課後とぼろぼろの切り札

 「手札からコマンドカード【ノワール・シュート】を発動!これで先輩の場の2体のドラゴンは消滅。僕の勝ちです」


 教室の隅で机を向かい合わせる2名。そのうち1人の青年 朝未あさみすすむが、手に持つ数枚のカードの中から1枚をおもてで、その言葉と共にで机に置く。


 「ん~、負けたー!」


 彼の行動に対面にいる女子が、室内に声を響き渡らせる。それと同時に彼女は腕を大きく上に挙げる。その拍子に握られていた数枚のカードが、宙を舞いやがて床や机に落ちていく。


 「はぁ~これで32戦32敗。今日もダメだ~」


 机に顔をうずめる女子。そんな彼女の目には、少しの涙が浮かんでいた。

 彼女の言葉を耳にしながら青年は。床や机に撒かれたカードを1枚1枚集める。


 「…ダメなんてことは無いですよ。少しづつですけど先輩は強くなってます」


 「え、ホント!」


 朝未の言葉に先輩と呼ばれる女子 御国みくに咲陽さよが、埋めていた顔を上げる。

 

 「とは言ってもまだまだですけどね」


 そう言いながら朝未は、集め終えたカードをトントンっと机で整え、御国のほうに置く。


 「ありがとう」


 御国は、自分の机に置かれたカードを受け取り手元で広げ始めた。

 カードは40枚ほどあり、ドラゴンカード・コマンドカード・アセンブルカード・ベースカードのそれぞれの種類で纏めた。


 【ドラゴン・ラボ】

 世界で販売されているTCG(トレーディングカードゲーム)の1つである。

 数百種類のカードの中から40枚以上でデッキ(カードの束)を構築し対戦するゲームである。

 勝利条件としては、相手フィールドのドラゴンを0にした状態で自分ターンを3回終えるか。相手のドローフェイズでデッキが0であるか。の2種である。


 腕を組み、広げたカードと睨めっこする御国。


 「悪くないと思うんだけどな~」


 首を傾げ、口からは自分のデッキに対しての気持ちが漏れる。


 「ちょっとデッキ見せてください」


 「あ、うん。いいよ」


 「そのままで大丈夫です」


 朝未に見せるため広げたカードを一度纏めようとする御国。しかし朝未は、彼女のその手を止めるよう言う。

 朝未は、先程まで座っていた椅子を彼女の隣に置き、そのまま腰を下ろして机に広げられた彼女のカードを覗き込んだ。

 2、3分ほどを目を通す朝未。すると彼はあることに気がついた。


 「ドラゴンカードが少な過ぎますね」


 「え?」


 朝未の回答に御国は、すっとんきょんな声を出す。

 御国の意外な反応にまさか⁉︎と思いながら朝未は、彼女に確認する


 「先輩。一応分かってると思いますけど確認にします?このゲームの勝利条件は?」


 「・・・相手のドラゴンを全て倒す!」


 御国の回答に朝未は、額に手をあてた。

 通りでドラゴンカードの枚数が少ないわけだ。

 “相手のドラゴンを倒す”

 確かにそれだけならこのデッキでも良い。けどゲームに勝つことを考えるとこれではダメだ。

 御国のデッキは、ドラゴンカードやベースカードを破壊する使い捨てのコマンドカードで大半を占めている。

 このゲームの勝利条件は、フィールドにドラゴンがいない状態を3回作らなければならない。逆に考えるとドラゴンいない状態を作ってはならないのだ。そう考えると必然的にデッキに必要なドラゴンカードの枚数は、多くなる。

 どんなゲームでも数十回と対戦していればお互いに相手の戦い方をある程度理解するものだ。


 「先輩!勝つデッキ組みますよ」


 「う、うん」


 朝未は、“このままだと先輩は、とうぶん自分には勝てないだろう”と思い彼女と一緒に“勝ちに行くデッキ”を組み直すことを提案した。

 朝未の勢いに押されたからか?戸惑いながらも御国は、その提案に乗った。

 それから2人で、あーしよう。こーしよう。と勝ちに行くためいろいろなやり方を考えた。

 御国は、どんな戦い型が得意なのか?それに合うのは?必要なカードは何なのか?

 新しいデッキの案を考え始めてから丁度1時間が経過したところだ。


 「「出来たー!」」


 朝未と御国

 2人の声が、部屋の隅から響いた。その勢いのまま朝未は椅子にもたれかかり、御国は腕をグッと上に伸ばす。

 御国の視線が朝未に向く。


 「ありがとね!進くん」


 「いえいえ」


 御国にお礼の言葉に朝未は、小さく手を振る。

 数秒して椅子にもたれ掛かってた朝未は身体を起こす。

 机に置かれた作り直されたばかりのデッキ。まだ差し替えてないカードもある為完全では無かった。

 ふと、デッキの一番上に置かれていたカードが朝未の目に留まる。


 「先輩。このカードは?」


 カードを手にし、御国にそれを見せる。


 「あ、それはね。私の1番お気に入りのカードだよ!」


 朝未の手に握られた1枚のカード。

 【ドラゴンカード:改良竜フレームドラゴン】

 そのカードは、他のカードとは少し違っていた。表面にはスリ傷があり、4つの角は全てが潰れていた。ぼろぼろのカード。

 カードを裏にして、そのカードを良く見た。


 「あ!」


 カードを見る朝未の隣で御国の声が響く。


 「ごめん進くん。私そろそろバイトの時間だから行かないと⁉」


 「あれ?もうそんな時間ですか」


 カードへ送られていた朝未の目が、部屋の壁に掛けられている時計のほうへ向く。

 時刻は、16時半を過ぎたところだ。

 朝未は手に持っていたカードを彼女に返す。

 カードを受け取った御国は荷物をまとめ教室の入口まで足早に進んだ。入口に立った彼女が、隅にいる朝未のほうを振り返る。


 「明日も放課後空けといてね!絶対に部活に入ってもらうから!」


 そう言って拳を前に突き出す御国。


 「それじゃ!」


 彼女は、”また会う”挨拶を残して教室を後にした。その後ろ姿を朝未は、じっと見守っていた。


 「フレームドラゴン。懐かしいな」


 教室に1人残った朝未の頭の中には、さっきのぼろぼろなカードがあった。

 ピコーン!

 静かな教室で、小さな機械音が響く。

 朝未は、自分の右手に装着しているグローブの通話ボタンタップした。


 「もしもし朝未?しんだけど。今いつものバーガーショップにいるからこねぇ?」


 通話相手は、友人の空間からあいだしんからだった。


 「了解。今から行くわ」


 「OK。待ってる」


 真の言葉の後通話は終了した。

 椅子に置かれているカバンを手に朝未も教室を後にする。


 ・・・・・・


 「フレームドラゴン召喚!さらにアセンブルカード:速攻の短刀を装備。これで俺の勝ちだー!」


 少年の手からカードが、フィールドに置かれる。そしてそのカードの行動によって少年の勝利が確定した。


 「なぁ進。なんでそんなノーマルカードで戦うだ?」

 

 帰り道少年の友人が聞く。


 「なんでって一番初めに手に入れたカードだから。それにこいつには、無限の可能性があるんだ!」


 少年の返答にポカーンとする友人。

 【改良竜フレームドラゴン】のカードを見つめる少年。その傍で少年を見守る友人。

 空の夕日が、仲のいい2人を赤く照らしていた。


 「ほら。前見て歩く」


 「はぁ~い」

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