エルフ毒殺
『ノルさん、お話しませんか?』
『繋がっているって実感できますね』
『ノルさん、今、何を考えていらっしゃいますか?私は・・・』
『くたばれ
「そうだね~」
こんな感じで四六時中フィーアから通信が送られてくるようになった。何も返さないと、僕が暗殺されてしまうかもしれない。フィーアは僕に話しかけることで、僕の動向を探っているのだろう。
後、騎士団の名前は『毒滅の騎士団』という名前になった。毒=僕で滅=殺す。つまり僕を殺すための騎士団という名前だ。
全く恐ろしいったらありゃあしない!媚の売り方を間違えたらすぐに死んじゃうよ・・・
現に騎士団に入りたいという領民で溢れていて領民の100%が騎士団に入りたいらしい。
ここまで恨まれているとは・・・
ただ、名目上は騎士団は僕の護衛を務めるものだ。だから、どんなに多くても100人が限度だ。そのため、連日連夜上位100人に入ろうと領民たちは頑張っているらしい。
フィーアも騎士団の株が上がって喜んでいた。僕を殺したい筆頭騎士の機嫌が良ければ僕が殺されることはないだろうから僕としても喜ばしい。
そんなことを考えながら、屋敷で新たな住人の手続きをしていると窓が開いた。
「ノル!調子はどうかしら?」
音もなく僕の背後を取り、そして、僕の頭の上に胸を乗っけてきたお姉さん。
「いきなり背後を取るのはやめてくれ。心臓に悪い」
「ごめんなさいね。でも、もっと面白い反応が欲しいわ」
うるせぇ!窓が開いた瞬間に反射的に毒を分泌させて感情を殺したんだ。僕の反応が面白くないと分かるとすぐに離れた。謎の残虚が僕を支配した。
「何か用かい?アジーン」
「別に。ただ仕事を頑張っている
「そうか・・・」
長い金髪を先っちょで結び、スタイル抜群の気の強いお姉さんエルフ。
彼女こそがライト―ン領並びに近隣の領地の悩みの種であったエルフの長だった。
━━━先日、フィーアが『エルフの分際で私に恥をかかせおって・・・!』というおね通(おねしょ通信)が僕の耳に届いた。フィーアに聞いたところ
「夜な夜な私たちの拠点を壊しては、森の中に逃げ込んでしまうのです。全く頭の痛い話です・・・」
いや、それはお前らが勝手に森の中に拠点を作るからだよ・・・
というツッコミは抑えた。まぁ連日連夜、フィーアの軍人おね通で起こされるのは心臓に悪い。だったら僕が解決してやろうと乗り出した次第だ。
毒トラップを拠点すべてに仕掛けた。結果は上々。エルフはすべて捕えることができた。エルフは全員見目麗しく、僕と同じく知的だ。
最初は僕たちに警戒心をむき出しで超が付くほど怖かったが、僕の貴族オーラが満載だったので、ついに年長者でありながら圧倒的
いわく、太古の昔、人間がエルフの命よりも大事な聖樹を切り落とし、その上に町を作ったらしい。エルフは聖樹になる果実カンミを食べないと子供を作ることができないので、何年も何年も聖樹を取り返そうと攻撃を仕掛けて来たらしい。
なるほど、それはエルフたちにとって死活問題だと思った。だから、僕はそれを解決することにした。アジーンを伴って聖樹の位置を確認したら、領内の広場のど真ん中だったので、そこに僕は成長促進の毒を垂らした。
僕は失敗をそのままにしない優秀な男だ。今回、毒の量は最低限にして、食べても死なないようにした。すると、めきめきと音を立てながら聖樹が成長し、広場の中心に巨大な大木が現れ、オレンジ色の果実、カンミが生い茂っていた。
おかげでエルフたちは大喜び。そして、今までの無礼を謝ってくれた。無難に終わってよかったよかった。これでフィーアのおね通を聞かなくて済む。ここで一見落着かと思った時、僕が事件を起こしてしまった。
人間とエルフが共に手を取り合っている最中、僕も聖樹の果実であるカンミが食べたくなって盗み食いをしてしまったのだ。
「ノル殿?何をしてるの?」
アジーンにバレた!怒られる前になんとか誤魔化さないと!
「これをあげる。僕の食べかけだけど」
「え!?そんな、私たちまだ出会って数時間「いいから食べなって」ふぎゅ!」
とりあえず一番美味しそうなカンミを採ったから美味しいはずだ。これで誤魔化せただろう。美味しいものを食べると怒りは収まるからね!
「う・・・」
「え?」
アジーンが突然倒れたのだ。突然の事態に戸惑っていると、自分の魔力が垂れ流しになっていることに気が付いた。つまり、毒を塗りたくったカンミをエルフの長であるアジーンに食べさせてしまったわけだ。
またやっちまった!
「お~いノル殿、アジーン様~?ってどうしたんだ?」
エルフの一人が僕を探しに来ていた。死にそうなアジーンを見せたら、再び戦争が起こってしまう。僕は戦線を離脱することにした。
「なんでもないよ。アジーン殿にカンミを食べさせたら、動揺してしまったようだ」
「え!?アジーン様が!?」
「僕の家に行けばゆっくり休めるはずだ」
「は、はい!アジーン様をよろしくお願いします!」
ん?よろしくお願いします?まぁいいや。
僕はアジーンをお姫様抱っこで連れ帰った。
「お、おいみんな!アジーン様がついに
「えええ!?年を取れば取るほどロリ体型になっていくエルフの性質を嘆いていたアジーン様が!?」
「嘘だろ・・・ここの領主はロリコンだったのか・・・」
エルフの婚約の儀式は自分の食べかけのカンミを異性に渡して食べさせることだ。そうとは知らずにノルはそれをやってしまい、さらにお持ち帰りというどうあっても取り繕えない事件を起こしてしまった!
エルフたちの話題はそれでもちきりになった。
━━━家に帰り、しっかり鍵を閉める。誰も付けて来ていないことを確認してから、僕はアジーンと向き合った。
毒抜きをしなければ、アジーンが死んでしまう。だけど、身体に染み込んだ毒はどうあっても抜くことはできない。となれば、新たな毒を注入して、無害なものにするしかない。
「よし、絶対に成功させるぞ」
僕は腕を捲って新たな毒を生成した。
━━━1時間後
「やっべ終わった・・・」
アジーンの肌が赤くなったり、青くなったり、黄色くなったりと変色するものだから楽しくなってしまい、ついに息をしなくなった・・・
どうしようもない。今までみたいに『領主への復讐心で生き返りました☆』のような奇跡すら完全に断たれた。僕に逃げ道はないらしい。
「うん、寝よう」
明日は忙しくなるぞ!土下座会見だ。せめて殺されないことを祈ろう・・・
━━━翌日
「・・ル・・・て」
ん?なんか声が聞こえる。
「ノ・、起き・・て」
だんだん声が鮮明になってくる。
「起きて!」
「はい!すいません!」
条件反射で謝ってしまった。まだ朝日が昇ったくらいだった。というか声がした気がするんだが気のせいか?
「やっと起きたのね」
幻聴ではなかったらしい。隣を見るとエルフがいた。こんな人いたっけ?
「どちら様ですか?」
「面白い冗談を言うのね。私よ。アジーンよ」
「アジーン、アジーン、・・・アジーン!?」
いやいやいやアジーンはロリ体型の完全守備範囲外の女で昨日毒殺してしまったはずだ。それがどうしてこんなドスケベエロエロボディのスーパー美人になっているんだよ!?
僕の動揺を無視して手を取ってきた。
「貴方が昨日私に
「そうか」
そりゃあ殺されかけるなんて初でしょうね。というか長生きしすぎやろ。一応緊張しないように毒をいつもよりも大量に分泌。
「貴方の傍から一生離れないわ。こんなプレゼント(若返り)までくれたんだもの。おかげで失われた植物魔法まで使えるようになったし、感謝に尽きないわ!」
「そうか」
ヒぃ!とんだ皮肉だよぉぉ!プレゼント(毒)のことを根に持っている!しかも魔法だと!?エルフは魔法が使えないんじゃなかったのか!?
どっちにしろフィーアと同様に僕の傍から離れないことでいつでも殺せるようにしているんだ。僕は覚悟を決めた。
「なぁアジーン殿「アジーン」・・・アジーン」
「なぁに?」
超・絶・タ・イ・プ!しかし、色恋などもってのほか!もし見惚れて余計なことをしたらすぐに殺されるに違いない。
「こちらこそ末永くよろしく。エルフたちのためにできることはなんでもするから言ってくれ」
「!ええ!こちらこそね!」
僕の手を握っているアジーンの両手を包み込むように僕も左手でアジーンの手を包み込んだ。そして、エルフに暴動を起こされないように媚を売ることを決めた。
「それじゃあ外に行きましょう」
「ちょ」
突然腕を引かれた。物凄く強い力だったので僕に抵抗する術はなかった。屋敷を出ると、
「あれ!?体型が戻ってる!?まぁいいや!アジーン様おめでとう!千年以上経ってにようやく結婚できたんだな!」
「人間なのはいかがなものかと思うが、ノル殿はエルフと人間の因縁を終わらせた男だし、良いことなのかもな」
「そんなことはどうでもいいでしょ!見てあのアジーン様の顔!幸せそうじゃない!」
「全くだ!エルフのために婚期を逃し続けたお方だぞ!みんなで祝福しようぜ!」
エルフの集団が屋敷を包囲していた。
いや、それだけじゃない。
「はぁ、ノルさん・・・英雄色を好むと言いますが、第二夫人はいくらなんでも早すぎですよ・・・」
「姐御!格の違いをエルフたちに見せてやってください!」
「そうだ!そうだ!」
「フィーアちゃんが一番よ!」
領民たちも僕の屋敷を囲んでいた。しかも、
詰んだぁ・・・
すると、フィーアが僕の下に近付いてきた。しかし、目的は僕ではなく隣のエルフらしい。
「私はフィーア=キチークです。
何が?
「アジーン=オールドミスよ!もちろん問題ないわ。受け入れられただけでも嬉しいもの。仲良くやりましょう、フィーア」
「ええ、よろしくお願いしますね。アジーン。二人でノルさんを支えましょう!」
「「「「うおおおおおおフィーア様万歳!アジーン様万歳!ノル様最高!」」」」
人間と長い間争ってきたエルフの長とキチガイ領民を束ねる騎士団長。この二人が僕という共通の敵を見据えて手を組んだのだ。
僕の明るい未来はどんどん遠ざかっていくのを感じた。
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