明らかにざまぁされる側のクズ領主はご都合主義展開に気付かない ~領民たちを毒魔法で殺しまくってたら、国を救った英雄になっていた件~

addict

大・量・殺・戮

━━━僕ことノル=ライト―ン男爵の治める領地、ライト―ン領はこの世のすべての最低を煮詰めた最低の領地だった。


四方を森と山で囲まれていて、そこから現れる魔獣が領内の土地を荒らしまくるので作物はろくに採れない。しかも、外部との接触がほとんどないため、必然この領地に集まるのは荒くれ者や盗賊など碌な人間がいない。


おかげで僕の領地は常に大赤字だし、食べ物は貴族なのにそこら辺の雑草を煮詰めた雑草のスープを飲み続ける日々。大きい屋敷なのに使用人は一人もおらず、部屋には蜘蛛の巣が張っている次第。


頼りになる両親は去年に亡くなってしまった。母は普通の風邪だったのだが、思った以上に長引き、僕がずっと手を握っていたら、どんどん呼吸が荒くなり、最後には死んでしまった。そして、母がいなくなって消沈している父に僕が料理を作ってあげたら、突然呼吸困難になって死んでしまった。


そんなわけで悲しみに暮れる時間もなく、僕は15歳で最低最悪のライト―ン領を引き継ぐことになった。正直代われるものなら代わってほしい。


「ない物ねだりをしても仕方ないか」


溜息をつく。僕が領主に着任してから一回も貴族らしいことができていない。美味しいご飯を食べたり、美女を囲ったり、楽しいことがしたい!ってか貴族って贅沢するもんでしょうが!


「美女を囲って美味しいご飯を食べるまでは何があっても諦めない!どれだけ惨めでも成し遂げてやる!」


僕は領主専用の服を着て町に出ることにした。何をしようにも現場を知らなきゃいけない。一応護身用の剣を携えておこう。


あっ、言い忘れていたけど、貴族は魔法が使える。逆に言えば魔法が使えるから貴族であると言えるのかもしれない。


僕は毒魔法を使う。


◇ ◇ ◇


僕は領内に赴くと同時に毒魔法を使った。緊張や吐き気を抑え、何があっても動じない強いメンタルを持つことができる。これでメンタルクソ雑魚の僕も貴族らしい雰囲気を出せるだろう。


領内は思った以上にヤバかった。売春や麻薬は当たり前で、流行の疫病で死にかけている領民たちがほとんどだった。子供も泣いているし、そこかしこに僕の似顔絵が書いてある紙にナイフが刺さっていた。


恨まれてね?


「あっ!領主がいたぞ!」

「殺せ殺せ!」

「!?」


背後から盗賊まがいの男が俺を見つけて叫んだ。僕は馬鹿だ。反乱が起こったり暗殺される可能性を完全に失念していた。領主の恰好をしているので、僕を追いかける人間たちがたくさん襲い掛かってきた。


逃げれば逃げるほど人が増え続け、ついには広場に追い詰められた。シュプレヒコールが響き渡り僕の股間は濡れていた。このまま成す術もなく殺されてしまうのかもしれない。そう思っていた。


「な、何がおかしい!?」


僕は毒魔法の効果でメンタルが最強になっていた。だから、僕は微笑み続けるだけだった。領民たちはその堂々たる僕の態度に慄いていた。


「ま、魔法なんて怖くないぞ」

「そうだ!刺し違えてでも領主を殺してやる!」

「だから、その余裕をやめろ!」

「で、でも、もしかしたら私たちを殺す術があるんじゃ?」


残念。その通りだ。魔力を溜めるには十分な時間を稼げた。申し訳ないが僕に反乱を起こした人間には死んでもらうしかない。


「刺激的な鬼ごっこのお礼だ。受け取ってくれ」


僕は毒魔法を使った。幸い広場には僕を中心に領民が囲んでいる形式だ。それなら僕が魔法を流布すれば事なきを得る。


「あ・・・・あ」

「く・・・・くるし・・・い」

「や・・・め・・」

「く・・・たばれ」


様々な呪いの言葉をかけられるが仕方がない。僕だって死にたくないのだ。これを機に皆が僕に反乱を起こさせないようにしないといけないからなるべく苦しませなきゃいけない。


「日没にまた来るよ」


死屍累々の中を少年は散歩でもするように気軽に超えていった。その様子を見ていた領民たちは悪魔を見るような目つきでみていた。


◇ ◇ ◇


「あああああ!僕はなんということをしているんだあああああ!」


魔法が切れた僕は執務室で頭を抱えていた。領内で殺害されそうになったから仕方がないとはいえ、いくらなんでも領民を殺し過ぎた。あれじゃあ三百人くらい消えてしまう。


彼らには僕が美女とねんごろするための税を貢がせたかったのにとんだ計算違いだ。


人というのは簡単には生まれない。生まれても税を収める年齢になるには年月がかかる。だから、この殺戮はやりすぎだっただろう。


もちろん何人かは殺すしかなかった。だけど、あそこまでやってしまうとこの領地から逃げ出す者も出てきてしまう。


「はぁ・・・日没に広場に行くって言ったけど、死体だらけなんだろうなぁ・・・」


しかもそれを片付ける人もいないから僕がやるしかないのか・・・


死体を捨てないと新しい感染症が生まれてしまうから仕方がないのだ。改めてライト―ン領がいかに酷いかが分かった。贅沢なんて夢のまた夢だ。


「とりあえず寝よう」


毒魔法はこういう時に役に立つ。睡眠を促す毒を作ってそのままおやすみ~


◇ ◇ ◇


日没になって、広場に行くと信じられない光景が広がっていた!


「領主様!ありがとう!」

「息が苦しくない・・・っ!」

「目が見えるよぉぉ!」

「ノル様、先ほどまでの無礼をお許しください!」

「わざわざ私たちの安否を見に来てくれるなんて・・・!」


なんと領民たちは全員ピンピンだった。しかも、半死半生だった領民たちはみなやせ細った体から筋骨隆々な身体に進化していた。


「ま、まさか・・・!」


考えられることは一つしかない。


僕が苦しめて殺そうとしたから毒が弱く、伝染病だけを殺してしまい抗体を作ってしまったということだ。つまり、僕の毒でもう彼らは殺せないということだ。


アレ?詰んでね?


「領主様ぁ!私たちにもお願いします!」

「俺もです!お願いです!」


民衆たちがこぞって僕の下に押し寄せてきた。民衆の期待と羨望の視線を一身に受け、僕は、


「・・・いいだろう。全員治してやる」


ワーっと歓声が沸き上がる。涙を流す者、手を組んで拝む者、それらを見て思ったことは、


絶対に反乱が起きないようにしないと!


若き領主を褒めたたえる民衆の思惑とは別に毒をまきながら処刑しようと思っていたことは隠し通すと決意した。

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